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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第6章 アーシラの森で

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05 耳鳴りの正体。~君、僕より重症だよね?~

 場所:アーシラの森

 語り:ターク・メルローズ

 *************



 腹を割った話は平行線をたどり、解決の糸口も見つからなかった。


 私達は、お互いに背中を向けて黙り込んだまま、それぞれ持ってきていた昼食を取りだした。


 私の昼食はアンナに渡されたサンドイッチだった。一応出してみたものの、やはり全く食欲がわかない。


 それよりも、日陰の冷たい空気でも吸い込んでいる方が、まだ気持ちが落ち着く気がする。


「食べないの?」


 私のとなりで小さなパンとリンゴをかじっていたカミルが、私の手元をのぞき込んだ。



「やるよ。私に食事は必要ない」


「わー、ありがとう」



 私がサンドイッチを差し出すと、カミルはそれを嬉しそうに受け取った。彼女は本当に、いつだって元気そうだ。


 彼女の容赦ない発言は確かに耳が痛いが、それでも彼女は私の幼なじみだ。


 子供の頃は喧嘩ばかりだった私の横で、完全に油断した顔をして、美味しそうにパンを頬張る姿を見ると、何と言うか、少し和む。



『ターク……ターク……』



 その時、どこからか、自分を呼ぶ声が聞こえ、私はハッと顔を上げた。


「だれだ?」と、キョロキョロする私を、カミルが不思議そうに見ている。何度も周りを見渡したが、ここにはカミルしかいなかった。



「どうしたの?」


「私を呼ぶ声が聞こえたか?」


「いいや? 君、本当に大丈夫?」


「うーん……空耳か……?」



 しかし、頭の中に反響するように、ぼんやりと聞こえていたその声は、次第にはっきりと聞き取れるようになった。そして、ついには少し大きすぎるくらいの音量で、私の頭に響きはじめた。



『ターク君、僕はここだよ』


「お前は誰だ!?」



 私はその場に立ち上がると、そう声を上げた。しかしこれは無駄なことだ。さっきから聞こえているこの声は、ミヤコに出会った日に聞こえた、例の幻聴だったのだ。



『僕は達也だ。君の心の中にいる、もう一人の君だよ』


――なに? タツヤだと……?


『そうだよ。みやちゃんから聞いたことあるでしょ?』


――みやちゃん……? ミヤコのことか?


『うんうん。ずっと話しかけてたんだけど、なかなか君に声が届かなくて。でも、この場所の影響かな? 良かったよ、聞こえるようになって』



 その声は、前の時とは全く違い、おどろくほどはっきりと聞き取れた。姿は見えないが、声が自分とまったく同じだ。


 タツヤの声は私の頭に直接響き、私も頭の中で考えるだけで返事ができた。それにしてもこれは煩くてたまらない。



――なんなんだ? なぜ私に話しかける? 耳鳴りや心痛を起こしてるのはお前だな?


『そうだよ。みやちゃんを守るためなら、僕は何でもするつもりだからね』


 そう言ったタツヤの声は、まるで悪びれる様子もなく、ずいぶん飄々としている。私はじりじりとした苛立ちを感じはじめていた。


――……私を操ってミヤコを守らせていたのか?


『操るなんて、そんな大層なことは出来ないよ。ただ、僕は今動けないから、君にお願いしてるんだ』


――迷惑だ。やめてくれ。


『どうして? 君にとっても彼女は大切みたいじゃないか。彼女が居ないと眠れないなんて、君、僕より重症だよね?』


――何を言う……眠れないのは元々だ。それに、私は例え、眠らなくても、食べなくたって死にはしない。


『僕に強がっても無駄だよ。言ったよね? 僕は君の心の中にいるんだよ?』


――く……なんなんだ、お前は……。


『それは、言えない。それより、ねぇ、お願いだ。僕の声をみやちゃんに届けたいんだ。ターク君、僕に協力して欲しい』


――本当に、一体なんなんだ……?



 私は、頭の中に響く、タツヤと名乗る男の声と長い会話をした。彼は自分の言いたいことを言い終わると、私の質問には答えず、スッと静かになってしまった。



――私はとうとう、頭がおかしくなってしまったようだ。



 立ち尽くす私の顔を、カミルが心配そうにのぞき込んでいる。



「ターク、本当にどうしたんだ? 大丈夫かい?」


「いや……、何でもない」


「君やっぱりちょっと……いや、かなり様子が変だね。責めるようなことばかり言って悪かったよ。今日はもう言わない」


「今日は……か。まぁいい。悪いが私はもう帰らせてもらう」


「かまわないよ。僕は兵士達と合流するから」



 私達はようやく精霊の集会所を後にした。瀕死の重傷を受けた心に、頭に響くタツヤの声。頭が混乱してこれ以上は何も考えられない。



――もう、一緒に眠れなくても、胸がざわついても構わない。とにかく帰ってミヤコの顔を見よう。


――少なくとも、彼女にはトゲがないんだ。



 私は必死に馬を走らせ、急ぎ家路に着いた。



突然、宮子と出会った日に聞いたのと同じ、幻聴に話しかけられたターク様。幻聴の正体はなんと達也でした。驚き戸惑うターク様の様子にカミルも戸惑いました。思考回路がショートしたターク様は宮子に会いたくなったようです。


次回、色々と限界を超えてしまったターク様は宮子に……何か色々されます。


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― 新着の感想 ―
えええー!?! やっぱりターク様と達也に繋がりがあったんですね!! 意識体になっても宮子ちゃんを守ろうとする達也の強い意志、素敵です! これからの展開に目が離せません! 宮子ちゃんの反応がすっごく気に…
おおお、ここで達也の意識が明らかになりましたか! 前世の記憶などではなく、ターク様の中にいる別の意識だったんですね。 体は操れず、ハッキリと会話できるのは今だけだとしても、感情をざわつかせるだけで行動…
[良い点] ここで達也ですか。 達也かもしれないとは薄々思っておりましたが、本当に彼とは。 彼がなぜこのような立場というか能力を得ているのか不明ですが、宮子たちに光明が見えるかもですね。 達也がいるこ…
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