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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第6章 アーシラの森で

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04 やる気を出してよ。~生きたまま死んだターク~

 場所:アーシラの森(精霊の集会所)

 語り:ターク・メルローズ

 *************



 静かな風の音だけが聞こえる精霊の集会所で、すっかりケガの治ったカミルは、いつもより眩しく光っている私を、好奇心に輝く瞳で眺めまわした。



「すごい眩しさだね。今ならどんな魔物も、君に爪の先ほどの傷もつけられないだろうな。まさに無敵状態だ」


「これなら魔王とでも戦えそうだな。しかし自分でも流石に眩しいぞ……」



 少しでも光を和らげようと、鎧を着込み、大剣を背中に担いでみたが、それでも私は、神か天かと言うほどに輝いていた。



「さっきの話だけどさ……。君は、まだ戦地に戻らないのか? みんな君が、この国を救ってくれると信じて待っているのに」



 輝く私に希望を見たのか、また同じことを言いはじめるカミル。


 子供の頃は私をライバル視して、隙を見ては襲いかかってきていた彼女だが、いったい何時から、こんなにも私に期待するようになったのだろうか。



「一体どうしたって言うの? 不死身の君に、療養中だなんて言われても、納得なんて出来ないよ」


「まぁ、そうだよな……」



 確かにそれは、自分でも不思議だ。


 今だって身体はこれ以上ないくらいピンピンしているし、例え大剣が、いきなり十倍の重さになったって、同じように振り回せる自信がある。


 私の問題は、本当に精神的なものだ。闇魔導師に受けたと言う精神攻撃は、ステータスに表示される状態異常でもないらしく、何が起こっているのか自分でも分からない。カミルに信じてもらえないのも、無理はないのだ。


 帰った理由はあまり説明したくはないが、はぐらかしたところで、カミルは自分が納得するまで、何度でも同じ質問をしてくるだろう。


 これ以上会う度に「戦地へ戻れ」と、うるさく言われるのも困る。私はしぶしぶながら、重い口を開いた。



「私は沼地で長い間気を失っていたらしい。イーヴ先生からは、今回は何とか起こせたが、次はないと言われてな……」


「そっか……先生は君が、生きたまま死ぬんじゃないかと心配したんだね」


「生きたまま死ぬ……か……」



 確かに、イーヴ先生は、不死身の私にも死は有るのだと、よく言っていた。


 そんなもの、戦地で戦っていた頃の私なら気にもしなかったが、毎日泥沼に沈む悪夢にうなされている最近の私には、目前にある未来のように思える。


 カミルは少し考えて、「うーん」と唸ると、こんなことを言いはじめた。



「だけど、ターク、いつまでもここに居たんじゃ、君は生きたまま死んでいるのと同じじゃないか? 大願を果たすためなら、君は先生に反対されたって、戻って来たりしないはずだ」


「もっともだな。皆命がけで戦っている中、私だけ帰されるのは納得がいかないな」


「なら、どうして君は戦わないんだ。君は不死身の大剣士ターク・メルローズじゃなかったの?」



 カミルは苛立った様子で唇を尖らせ、私を睨む。その鋭い眼差しは、街に留まる私を全否定しているようだった。このままではカミルの催促は終わらないだろう。



――やはり、これを言わないと納得はしてもらえないか……。



 私はついに覚悟を決め、掠れた声を絞り出した。



「実は……本当に、情けない話なんだが、戦地に立つと身体が動かなくなってしまうんだ」


「……なんだって?」


「だから……なぜ戦っていたのか、わからなくなって、立ち尽くしてしまうんだよ」


「……へ?」



 改めて口に出したその言葉が余りにも情けなくて……カミルの呆れた顔が私をバカにしているようで……私の心は、更なる泥沼に沈みはじめた。



「だから……私が戦地に行ったところで、何も出来ないまま切り刻まれるだけなんだよ」


「はぁ……?」


「お前な……なんなんだ。私はまじめに話しているのに」


「そんなこと言われてもねぇ……」



 カミルは「聞きたくなかった」とでも言うように、両耳を押さえてうずくまってしまった。


 その長い沈黙が、私の不甲斐ない気持ちを増幅させていく。情けなくて、苦しくて、今すぐ戦地へ逃げて帰りたかった。



――例え一歩も動けないまま切り刻まれるだけだとしても、ここに居るよりはマシだな。



 頭を抱えた私に、カミルは追い討ちをかけるように話しはじめた。



「精神攻撃って随分恐ろしいんだな。あんなにたぎっていた君の闘志も、叶えると誓った願いも、根こそぎ奪ってしまったのか? それじゃぁ、君に託した僕の希望はどうなってしまうんだ。やる気を出してよ、ターク」


「やる気ならあるさ。私は今、自分にできることを、精一杯しているつもりだ」


「そうかな。街の人を治療して回ったって、砦が壊されたらどの道手に負えない。君の役目はそうじゃないはずだろ」


「だから、私は戦えないと言っているじゃないか」


「君は戦えるよ。さっきだって十分強かっただろ」



 結局、私達の会話はどこまで行っても平行線のままだった。


 彼女には、私がやる気さえ出せば、この国の問題が全て解決するように見えるらしい。



――確かに……さっきは普通に戦えたしな……もしかすると、もう治ったのか……? ならあの悪夢はなんなんだ。


 私はポルールに戻り、戦う自分を想像してみた。とたんに気分が悪くなり、目の前がぐるぐる回りはじめる。



「うぇ……目が回る……吐きそうだ」



 何日も食べていない筈の腹の底から、何か込み上げてくるのを感じて、私は口元を手で押さえた。


 こんなに気分が悪いのでは、戦うどころか、ポルールに近づくことさえ出来ない。療養をはじめてからかなり経つが、これではむしろ、前より悪化しているようにさえ思える。



「うぉえ……ダメだ……。期待に沿えなくて悪いが、私は役に立ちそうにない」



 地面に手をつき、激しくえずく私を見て、カミルは深いため息をついた。



「森では戦えるのに、ポルールには行けないなんて、そんなバカな話、知らないよ」



 カミルの言葉の一つ一つが、私の心に刃のように突き刺さる。


 まるで神かのように光り、無敵状態のはずの私だが、この傷だけは自分で癒すことが出来ないらしい。


 抱えきれない程の散々なダメージを負った私は、身じろぎ一つできないまま、完全に泥沼の底に沈んだ。



戦地へ戻れない理由を説明したターク様に、あからさまにガッカリしたカミルは、ターク様を責め立てました。しかしポルールへ戻るところを想像しただけで吐き気に襲われてしまうターク様。かなり心配です。


次回、心がすっかり泥の底に沈んだターク様に、不思議な声が聞こえてきます。


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― 新着の感想 ―
これはカミルの言い分が酷ですね。 ポルールのことをどうにかしなければならないのは確かですし、英雄的な強さを持つ不死身の剣士だけがそれをできるのだとしても、さすがに戦いを強制するわけにはいきません。 ゆ…
[良い点] カミルとターク様は一緒に訓練してきても、能力の差があれば悔しいことでしょう。 彼女も色々な想いを抱えて、彼に期待しているのでしょうね。 とうとう打ち明けましたがカミルに失望されて、ターク…
[一言] ここで戦地に戻れないターク様になってしまったのですね! ですが戦地ではきっとターク様を求めてるのでしょうね! 今戦地に行けない理由はこういう事なのですね! 次話楽しみにお待ちしております⸜…
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