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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第6章 アーシラの森で

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01 泥沼の悪夢。~その顔はやめてくれ~

 場所:タークの屋敷

 語り:ターク・メルローズ

 *************



 ミヤコがマリルの屋敷に行って以来、ミヤコを隣に寝かせることができなくなった私は、毎夜悪夢にうなされるようになってしまった。


 私の見る悪夢、それは私がまだ戦場にいた頃の夢だ。夢の中の私は、休みなく戦い、戦い、戦い続けた。


 戦うのは嫌いじゃない。


 闇魔導師達は卑劣な手ばかり使ってくるが、イーヴ先生から教わった剣技と、シュベールから贈られた治癒の力があれば、恐れるものはなかった。



――皆が私を賞賛し、期待している。


――守りたいものも沢山ある。私の力で、この戦いを終わらせる。



 昂った私は大剣を振り回し、闇魔導師の一団に突っ込んだ。しかし、不意に身体の力が抜け、大剣が異様に重くなる。私は剣を持ち上げられず、地面に片膝をついた。


 闇魔導師達の不気味な詠唱の声が響き、足元が汚れた泥の沼に変わって行く。


 沈んでいく大剣を持ち上げようと、足掻けば足掻くほど、身体が沼にはまり込んで行った。ムカつく泥の匂いに吐き気がこみ上げてくる。



――私はこのまま、誰にも知られず、泥沼の底で永遠を生きるのか?



 言い知れぬ恐怖が私を襲い、心臓が爆発しそうなほどにバクバクと高鳴っている。


 私を取り囲む闇魔導師達が、恐ろしい声で高笑いをはじめると、私はまるで、小さな子供のように泣き叫んだ。



「助けて、イーヴ先生……! 助けて、フィルマン様、ガルベル様!」



      △



 目が覚めると、私は寝汗でじっとりと濡れていた。動悸がなかなか治まらず、涙と鼻水も止まらない。


「つらい……」


 私は一人、枕を抱え、気分が落ち着くのを待つしかなかった。



――夢の中とはいえ、ガルベル様の名前まで叫んでしまうとは……。こんな悪夢を見ているようでは、戦地に戻ったところで、私はきっと戦えないだろう……。



 情けなさと絶望感で心はまだ泥の中だ。


 本当に朝から気分が悪いが、夢を見たということは、少しは眠ったということだろう。ほんの僅かではあるが、魔力も回復している。


 ミヤコのアドバイス通り、ベッドカバーの色を青に変更してみたのが良かったのかもしれない。彼女の不思議な知識には感謝するべきだろう。



――しかしこのベッド、ミヤコがいないと無駄に広いな……。私もメイドの部屋からベッドを持ってくるか……?




 ふらふらしながら起き上がった私は、バスルームで顔を洗った。


 よく見ると、ひどく顔色が悪いが、光っているので遠目には分からない。


 しかし念のため、私は顔色が元に戻るのを待ってから書斎に向かった。


 カーテンの開かれた窓から朝日が差し込み、窓際に立つミヤコを明るく照らしている。


 なんだか眩しくて、とてもつらい。



――今すぐミヤコを抱き上げて、ベッドに連れていきたい……。



 私は思わず彼女に手を伸ばしたが、マリルの顔を思い出し、さっと手をひっこめた。


 確かにつらいが、これ以上マリルを怒らせるわけにはいかない。私は何か、他に眠る方法を見つけなくてはいけないようだ。


 黙って自分の手を見つめている私に気付くと、ミヤコは丸い目を、更に丸くして私を見た。



「あれ? ターク様、そこに居たんですね。おはようございます。眠れましたか?」


「いや……眠らなくてもどうということはない。私は不死身だからな」


「ターク様……」



 ミヤコは心配そうに顔を傾けた。

 最近彼女は、毎日こんな顔で私を見る。どうやら、私が殆ど眠れていないことに、彼女は気が付いているようだ。


 しかし、眠れたふりをしたところで、どうせすぐに見抜かれてしまうだろう。下手に隠せば余計に心配させてしまうかもしれない。


 彼女は一歩私に近づくと、笑顔を作って言った。



「ターク様、朝ごはん、食べませんか? 今日はお豆のスープもあるらしいですよ?」



 彼女は毎朝、私に食事を勧めてくる。


 しかし、悪夢を見た後の私は、食事の事を考えただけで、口の中に泥を詰められたように、気分が悪くなった。


 こみ上げる吐き気をこらえつつ、「必要ない」と答えると、彼女はまた悲しそうな顔をする。


 私の胸は、ミヤコのそんな表情にザワザワと過敏に反応した。彼女を困らせるなと、この胸は言っているのだ。



――まいったな……。もうさっさと出かけてしまおう。




 出かける準備をする私に、アンナがサンドイッチを持ってきた。ミヤコがアンナに頼んだらしい。



「お昼には必ず食べて下さい」と、私に迫るミヤコ。


「あぁ。助かるよ」



 私はそう言うと、いそいそと屋敷を出た。



――ミヤコが目の前にいるのに、それが逆につらいとは……。



 落ち込む私の身体から、今日も、尽きることのない癒しの光があふれ出している。


 泥に浸されているのは、心だけだった。



宮子と眠れなくなり、悪夢を見るようになったターク様の気分は最悪です。宮子と眠りたいのを必死に我慢している彼ですが、宮子に心配そうな顔をされると、胸がざわついてしまいます。


次回、ダブルパンチのターク様が妹弟子カミルの森の調査を手伝いに出かけると……!?

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[良い点] 三大欲求の一つを毎晩ここまで阻害されてしまうのはキツすぎます。 碌に飯食えないのと同じで、生きることだけで精一杯でしょう。 本人も自覚している感じの台詞ですが、癒しの加護がなければ死んでた…
[一言] 花車様こんばんは! ターク様これはつらいな…。 一度知ってしまったみやこの癒し。 これはターク様何とかするしかないのか… 。 次なる話も楽しませていただきますね(*´ω`*)
[良い点] てーへんだてーへんだ! ターク様、宮子に全部持ってかれてるううう(>_<) 達也ー! 達也ああー! 宮子が取られちゃうよおおおおおお(>_<) 達也やあああー! うさみちの悲痛な叫びはマ…
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