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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第5章 マリルさんのお屋敷で

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10 ターク少年森へ行く2~捕らえられたファシリア~

 場所:アーシラの森

 語り:ターク・メルローズ

 *************



 アーシラの森で出会った精霊、シュベールは、フワフワと飛びながら、どんどん森の奥へ入って行った。


 森は深い霧に包まれ真っ暗だったが、彼女が明るく輝いているので、私はあまり恐怖を感じなかった。


 彼女についてしばらく行くと、大木が立ち並ぶ中に、ぽっかり穴があいたような、真っ黒な池が姿を現した。


 その池の向こう側には、明かりのもれる小さな小屋が見える。シュベールはどうやら、その小屋に用があるようだった。


 彼女は自分の光で気づかれないようにと、池の周りを大回りして小屋の側面にしゃがみこんだ。


 私がキョロキョロしていると、シュベールが窓を指差して小声で言った。


『あそこから中をのぞいてみて。静かにね』


 小屋の中では、ずんぐりした髭の男が、森で仕留めた動物の肉を食べていた。あまり上品とは言えない食べ方だ。お世辞にもいいやつには見えなかった。



「なんだあいつ。山賊か?」


『違うわ、あいつは精霊狩りのオゾよ。見て、私の友達のファシリアが捕まってるの』



 よく見ると小屋の奥には翡翠のような緑の石で飾られた檻があり、何匹かの動物と一緒に、緑色に光る精霊が捕まっていた。



「あれは精霊を動けなくする特殊な檻なのよ」


「へぇ……。あいつ、精霊なんて捕まえてどうするつもりなんだ?」



 私がたずねると、シュベールは悲しそうな声で答えた。



『精霊を殺せば加護が得られると、嘘をついて売るつもりなのよ』


「加護……?」


『精霊の力よ。でも、精霊を殺したってそんなものは得られないわ』


「なるほど、悪いやつだな」


『そうよ、だからファシリアを助けるのを手伝って欲しいの』


「分かった。どうすればいい?」


『簡単よ。私がお化けになってあの男を小屋から追い出すから、坊やはその隙にあそこの壁に掛かってる鍵で檻を開けて、ファシリアと一緒に逃げて欲しいの』



 シュベールの頼みに、私は勇ましく応えた。



「分かった。緑の精霊は僕が必ず助けてやる」


『ありがとう、可愛い坊や』




 精霊はそういうと、私の額にやさしくキスをした。


 ムズムズとくすぐったく、心地よい感覚が身体中に広がって、ぶわっと顔が熱くなるのを感じた。


 だが、高揚感に浸っている場合ではなかった。


 唇が離れた瞬間に、シュベールからあの美しい金色の光が消え、黒いモヤがブクブクと溢れるように噴き出したのだ。胸がムカつくような、嫌な匂いが鼻をついた。



『光ったままじゃ、お化けになれないから、この加護はあなたにあげる。ファシリアをよろしくね』


「何をくれるって? おい、シュベール、大丈夫なのか?」



 みるみるうちに黒く膨れていくシュベールを見て、私は激しく動揺した。何かとんでもないことになっている気がする。



――お化けになるって、これ、元に戻れるのか?



 だが考える間もなく、シュベールは作戦決行の合図を出した。



『いくわよ、かくれて!』



 私はあわてて小屋の影に隠れた。シュベールは見るも恐ろしい姿になって、黒いモヤを撒き散らしながら、その小屋に入っていった。



『憎い、憎い精霊狩りめ! 殺された精霊達の恨みを思い知れ! 殺してやる、殺してやる!』



 さっきまでの美しい姿や、やさしい声からは想像もつかないような、恐ろしい怒声が響き、小屋からあわてた髭の男が飛び出してきた。


 その後を真っ黒なシュベールが追いかけて行く。私は急いで小屋に入り、檻の鍵を開けた。



『……なんてことなの! 私を助けるためにあの子は!』



 ファシリアが悲しみと怒りに震えると、緑の風がヒューヒューと音を立てて渦を巻き、彼女の髪を巻き上げた。



「早く出てきて!」



 私が声をかけても、ファシリアは強ばった顔をして動こうとしない。



――そうだ、この檻は、精霊を動けなくする檻だった!



 私は彼女を引っ張り出そうと檻の中に手を入れた。自分まで力が入らなくなるような感覚に襲われながらも、私は必死に、彼女を檻から出した。



「とにかく早く、ここを出よう。今逃げないと何もかも台無しだぞ!」



 私はファシリアの手を引き、霧が立ち込める妖しい森の中をひたすらに走った。ファシリアもとても明るく光っているので、このままではすぐに見つかってしまうだろう。


 どこかに彼女を隠さなくては。私は、森の中を走り回り、大きな木の幹にぽっかりと空いた()()を見つけると、彼女をその中に押し込んだ。



お化けになって精霊狩りを追い出すと言ったシュベールは、タークにキスをしたかと思うと、黒いモヤに包まれてしまいました。困惑しつつも、作戦通りファシリアを連れて逃げ出す少年ターク。光り輝くファシリアを隠すため森を走り回り、彼女を木のウロに押し込みましたが……。


次回、精霊狩りを追い掛けたシュベールを探しに、少年タークは再び走り出します。


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― 新着の感想 ―
精霊狩り!? ろくでもない奴がいたものですね。 つかまえた精霊は殺すこと前提とは……。 癒しの力を気軽にくれたシュベールにも驚きました。 ひょっとしなくても、このピカピカ、このまんまになるんじゃない…
[良い点] 精霊狩りとは不遜極まりない存在もいるものです。 こんな者は社会的に取り締まらねば、怒れる精霊より物凄い被害が出そう。 シュベールの状態はもしや…… ファシリアの様子を見るに、不安な可能性…
[一言] 黒いモヤのシュベール… そしてファシリアを守り隠す為に木の中へ! どうなる!? この話の完結まで拝読させていただきます(* 'ᵕ' )☆
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