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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第5章 マリルさんのお屋敷で

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08 元気の出る歌。~おねだりされると弱いです~[挿絵あり]

 場所:タークの屋敷(書斎)

 語り:小鳥遊宮子

 *************


 ターク様に、「もう一緒に寝れません」と、宣言した私は、その夜、書斎から繋がる書庫にベッドを置いてもらった。


 このベッドは、メイドさん達の部屋で余っていたもので、とてもシンプルだった。


 ターク様のベッドルームにある、煌びやかな装飾の天蓋付きベッドとは違い、硬くてきしむけれど、とても落ち着いて眠れそうな気がする。


 ターク様の書斎のデスク横に入口があるこの書庫は、かなり狭くて三方を天井まである本棚に囲まれていた。


 大切な本もあるらしく、普段は鍵がかかっていたし、ベッドを置くと取り出せなくなってしまう本もあるのだけれど、それでもターク様は「好きにしろ」と言ってくれた。


 かなり今更だけれど、ベッドが一つしかないのはやっぱり、良くなかったと思う。それに、なんだか自分の部屋ができたみたいで少し嬉しかった。本に囲まれて眠るというのも結構悪くない。



――これならマリルさんもちょっと安心するかな? それに、本を読んで暇をつぶす場所としては、かなり快適かも!



 私は少しはしゃいでしまって、知らず知らずのうちに、日本の歌を口ずさんでいた。



「頼ってよー 僕の力~♪


頼りなく見えるかもしれないけど


意外と役に立つよ~♪」



「楽しそうだな」



 振り返ると、かなりしょんぼりした様子のターク様が、書庫の入り口に立っていた。



「ごっ、ごめんなさい、うるさかったですよね」



 私があわてて口を押さえると、ターク様は辛そうな顔にほんの少し微笑みを浮かべた。



「いや、続けてくれ、独特のメロディだが元気の出る歌だな」



 置いたばかりのベッドに腰を下ろし、「ほら、早く」と催促をする彼。組んだ指の上に顎をのせ、期待に満ちた瞳で私を見あげている。



――わ……その顔……!



 ふいに、「おねがい、みやちゃん」と、私を見上げる達也を思い出し、ドキッとする私。


 ドギマギしながらも、私が再び歌いはじめると、彼は嬉しそうに、少し目を細めた。私が歌うのに合わせて、彼の口がほんの僅かに動いて……。



「こんなに側にいるのに


 眩しくて君が見えない~♪


 伝えたい想いは言葉にしよう


 目を細めてもいいから~♪」



 まるで、この歌を知っているかのように動くターク様の唇に、私の視線はくぎ付けになっていった。


――なんだか、見たことのある光景だわ……。


 あの学校の音楽室で、歌う私をやさしく見つめながら、唇を微かに動かした達也の顔が脳裏に浮かぶ。胸が急激に高鳴って、気がつくと私は、歌うのをやめ、ただただターク様を見つめていた。



「なんだ、歌わないのか?」


――ターク様ですよね……?


「どうしたんだ? 変な顔して」


「な、何でも……ないです」


「そうか?」


――ダメダメ。人違いはダメだって。



 頭を左右に小さく振って、雑念を振り払う。


ターク様と達也は確かにすごく似ているけれど、明らかに別人なのだ。全く別の人生を送って今に至っているのは、もう間違いのない事実だった。




 少しがっかりした様子のターク様は、「まぁいい」と言って立ち上がると、キョロキョロと書庫を見まわした。



「狭いな。こんな所で本当に眠れるのか?」


「このくらいの方が落ち着いて眠れますよ」


「そうか……?」



 不思議そうに首を傾げるターク様に、ずっと思っていたことを言ってみる。



「ターク様のベッドは豪華過ぎるし、カバーの色が良くないと思いますよ。赤は興奮するので眠りにくいですから」


「何!?  そうなのか? あのベッドは、前の領主の時から有ったものでな。最初からあんな感じだったんだが……」


「せめてシーツだけでも、鎮静作用のあるブルー系に変えると、少しは眠りやすくなるんじゃないですか?」


「色でそんなに違いがあるのか?」


「えぇ。試してみて下さい!」


「すごいな……だがお前、何もかも忘れているくせに、何なんだ? その知識は」


「日本では常識ですよ」



 私は思わずそう言って、また慌てて口をふさいだ。ターク様に日本の常識の話をしても、頭の心配をされるだけだ。


「日本では……か。本当は加護でお前の頭を治してやらないといけないんだがな……」


 彼は案の定そう言って、困ったように眉を下げた。



「シーツの色か……。それで魔力が回復出来たら、ヒールを試してみるか……」


――信じたのか信じてないのか、どっちなんですか? ターク様……?



 加護を与えていれば、そのうち私の記憶が戻ると信じているターク様。彼は、私の治療を進められないことで、結果的に、私がここに居る期間が長引いてしまうのを、懸念しているのかもしれない。


 ターク様の魔力が無駄になるのが気になるけれど、私はとりあえず、「よろしくお願いします」と返事をした。



「あぁ、それと、風呂は私の後だ。しっかり入れよ」


「分かりました」


「よし……さっさと寝て魔力を溜めるか」



 ターク様はそう言うと、ひらひらと手を振って、書庫を出て行った。



「おやすみなさい、ターク様」


「あぁ。おやすみ、ミヤコ」



 ターク様の後姿を見送っていると、小さな黒い影が彼の後を追って、滑り込むようにベッドルームに入って行くのが見えた。


――ライル……?


 もしかしたら、ライルが私の代わりに、ターク様を寝かしつけてくれたりして……。そんな淡い期待を胸に抱きながら、私は硬いベッドに横になった。


挿絵(By みてみん)



書庫で日本の歌を歌っていた宮子に、ターク様は上目遣いで続きをおねだりします。その姿が達也と重なり、ターク様が知るはずのない歌を歌っているようにも見えて、宮子は動揺してしまいました。前回、ターク様は本当に自分がいないと眠れないらしいと気づいた宮子はターク様にベッドカバーの色を変えるようにアドバイスしました。ターク様が無事に眠れたかどうかは六章でお話しします。


五章はあと三話ありますが、森で色々起こる六章に備え、ターク様が森で癒しの加護を授かった時のお話を挟みたいと思います。


次回、スアの実が欲しい十歳のターク様は一人アーシラの森へ出かけます。

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― 新着の感想 ―
ターク様の魔力は重要ですから、睡眠不足解消はは優先すべきだと思うんですよね。 人々の役に立つことでまた魔物と戦う勇気が湧いてくるかも知れませんし。 宮子の安眠知識が効果あるといいですね。
[良い点] 念願の一人部屋。ようやく宮子も落ち着けるでしょうか。 ターク様はフォローを入れに来ましたか。 宮子の歌を楽しむ姿を見ると、彼の本心が癒しを求める気持ちが伝わります。 そういえば宮子は、治…
[一言] 花車様続きまして。 ターク様は宮子なしで寝る事になりましたがどうやらやはり気になる様子で。 次は別に話が来るみたいなのでそちらも楽しませていただきますね٩(ˊᗜˋ*)و
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