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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第5章 マリルさんのお屋敷で

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03 やってきたマリルさん2~三日後にお返ししますね~

 場所:タークの屋敷(客室)

 語り:ターク・メルローズ

 *************



 マリルへのミヤコの紹介は、問題なく進み、私たちはソファーに移動した。



「ミヤコさんもこちらへ」



 マリルは私のとなりにぴったりとくっついて座ると、ミヤコを向かいのソファーに座らせた。


 それから彼女は、楽しそうに最近の出来事を話したり、私の近況を尋ねたりしはじめた。



 ――もう、ミヤコのことは頭から抜けているようだ。



 私がつい気を抜いていると、彼女は突然、仕切りなおすように私の腕にしがみついてきた。


 細い指先でツンツンと私を突きながら、全てを見透かす水晶玉のような瞳で私を見あげる。



「だけどターク様、聞いた話では、ゴイムってものすごく退屈なのでしょう? いくら広いお屋敷でも、何日も室内にいたのでは、息が詰まるんじゃなくって?」


「ん? そ……そう……だな」


 ――いったい、なにが言いたいんだ?



 気を抜いていたせいか、彼女がなにを言おうとしているのかいまひとつピンとこない。


 しかし、嫌な予感だけはしっかりと感じていた。


 実は最初から、いつも以上に絡みついてくるマリルに、私は内心、ヒヤヒヤしていたのだ。こんなときのマリルはなにを言い出してもおかしくない。



 ――特にやましいことはないのだが……。ミヤコと街に出かけたことは黙っておいたほうがいいか?


 ――なんだか目立ってしまったしな。変な噂になっていなければいいんだが……。


「いつまでもお屋敷に閉じ込めていては、ミヤコさんが可哀想ですわ」


「それは、そうだが……。持ち主不明のゴイムに外は危険だからな。気軽に出かけさせるわけに……っ……」



 私が話し終わる前に、マリルは私の唇にその指をおしあて、言葉を遮った。



「もう! 本当にターク様は心配性なんですから! 大丈夫、一人で外に出さなければいいのでしょう? もし、よろしければ、わたくしの屋敷にミヤコさんをご招待したいのですけど」


 ――ミヤコを招待……?



 私の嫌な予感はあっという間に確信に変わってしまった。いくら勉強をしたからと言って、彼女がミヤコを見て文句ひとつ言わないなんて、最初からおかしかったのだ。


 ここまで身分の違うミヤコを、友達のように屋敷に招くなど、いままでのマリルからはとても考えにくかった。



 ――私はただ、ミヤコの記憶喪失が思いの外ひどく、所有者探しも難航中だということを、マリルにそれとなく伝えたかっただけなんだが……。


 ――いったい、この申し出はなんなんだ?



 唇に指をおし当てられたまま、横目でちらりとミヤコを見ると、彼女はますます真っ青になっていた。


 黒目がちな丸い目をウルウルとさせて、祈るように私を見ている。



 ――く……胸が痛む……。彼女の腹痛は一刻の猶予もないようだ。


 ――しかし、ここで彼女にヒールを行っていいものか。



 とにかく、マリルがどういうつもりだったとしても、私は、こんな申し出を受けるわけには行かなかった。


 私は手元でミヤコを守っていないと、頭痛や心痛に襲われるのだ。


 このまま彼女をマリルに預けたりすれば、きっと一日中苦しむことになるだろう。そのうえ私は、彼女がいないとろくに眠ることもできない。


 マリルの指にもごつきながらも、「いや、しかしそれは……」と、言いかけた私だったが、マリルの指がニ本に増え、グイッと唇をおされると、思わずのけぞってしまった。



「ターク様も、お部屋にずっと他人がいたのではお気が休まらないでしょう? たまには、わたくしに頼っていただきたいですわ。女同士、たくさんおしゃべりをして、お菓子を食べたりすれば、ミヤコさんもきっと楽しいはずですもの」


「それは、そうだが……。しかしな……」



 グイグイ詰め寄ってくるマリルと、必死な顔で私を見詰めているミヤコに、尋常ではない圧を感じ、思ったように言葉がつづかない。


 というより、断りたいと思っている理由を、マリルに説明できそうな気がしなかった。



 ――なんだ……? どうすれば……?



 私が黙り込むと、マリルはさらに勢いを増した。両手で私の腕をつかみ、ブンブンと振りながら、自信に満ちた瞳をキラキラさせている。


 興奮のためか鼻孔も少し広がって、頬は赤く高揚していた。こんな状態の彼女に、私がなにか言えたことが、いままでにあっただろうか。



「大丈夫! わたくしは魔術学校でもいちばんの成績ですのよ。わたくしが調べれば、ターク様が調べておられる、そのミヤコさんのご主人のことも、なにかわかるかもしれませんわ!」


「あ、あぁ……え……?」


「次の魔力強化訓練の日まで三日、三日下さいませ! その間にわたくしが必ず、ミヤコさんのご主人を見つけてみせますわ!」


「えぇ……!? しかし、マリル……」



 私がマリルの勢いにおされ、「しかし、マリル」しか言えなくなっている間に、マリルの話はどんどん進んでいった。


 私はようやくマリルの目的を理解した。


 どうやら、一刻も早く私からミヤコを引き離し、所有者のもとに返してしまいたいようだ。



 ――マリルの考えはもっともだな。私だって、早くミヤコの所有者を見つけたいとは思っているが……。


 ――だが、それをマリルに任せるわけにはいかない。



 私はようやく、彼女の話を遮った。



「マリル、ちょっと待ってくれ……。ミヤコの気分転換に付きあってくれるのはありがたいが、この封印は危険なのだ。下手に触るときみもケガすることになるぞ。きみの魔術がすごいのは知っているが、これは私に任せてくれないか」



 マリルは一瞬、不満そうに顔色を曇らせたが、すぐににっこりと微笑んだ。



「わかりましたわ。でしたら、お菓子を食べるだけにしておきます。三日後にはお返ししますね」


「みっ三日!?……あ、あぁ、よろしく頼む……」



 結局、私はミヤコをマリルに託してしまった。


 グワングワンとひどい耳鳴りがして、ぎゅうぎゅうと締め付けるような胸の痛みと、奇妙な不安感に襲われた。



 ――ぐ……やはり、これは失敗だったか?


 ――しかし、マリルは私の大切な婚約者だ。無闇に彼女を疑うことはできない。


 ――彼女がミヤコとお菓子を食べて楽しむだけだというのだから、ここは信じるべきだろう。ミヤコだって、話し相手は女性のほうが楽しいはずだ。


「安心してわたくしにお任せ下さい! ミヤコさん、一緒に楽しみましょうね!」



 楽しそうに話すマリルを眺めながら、私はただただ胸の痛みに顔を引きつらせていた。



 ――せめて、ミヤコを送り出す前に、彼女の腹痛だけは治しておこう。



 差し当たりいちばん問題なのは、今日から三日間、私はひどく苦しむだろうということだった。

 宮子を屋敷に招待したいというマリルに、困惑するターク様。


 なんとか阻止したい彼でしたが、マリルの勢いには勝てないようです。


 宮子の刻印を調べたいという彼女を、止められただけで満足してしまいました。


 次回、三日眠れない覚悟で宮子を送り出すターク様。宮子は馬車に乗せられ、王都にあるマリルさんの屋敷に向かいます。


 挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[気になる点] マリル嬢の圧が凄すぎます! ああ、ターク様が押しきられてしまいました。 マリル嬢のもとに三日間も? こわいです……。 言葉通り、お菓子を食べて仲良くなんてことにはならなそうな気はしま…
[良い点] マリルの圧、怖っ……哀れ宮子。 こんなことをされたら話が頭に入ってこなさそうです。 女の情念というものが、ありありと描かれておりました。 宮子はマリルの屋敷でどうなってしまうのか。 まさ…
[一言] 花車様こんにちは! そしてとうとうマリル様の所へ宮子は連れていかれるのでしょう。 どうなってしまうのか!? 続きを拝読させていただきますね( *´꒳`*)
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