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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第5章 マリルさんのお屋敷で

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01 言わないターク様。~あの日以来ゆるふわです~

 場所:タークの屋敷(書斎)

 語り:小鳥遊(たかなし)宮子

 *************



 はじめてメルローズの街に出てから二日ほどたった日。


 ターク様はいつもの黒い鎧姿ではなく、貴族らしいファッションに身を包んでいた。


 ステキな襟飾りのついた白いブラウスに、美しい刺繍が施された、上質な青いシルクの上着という出で立ちだ。


 私は書斎のソファーで、ターク様に買ってもらった本を読むふりをしながら、チラチラと彼を盗み見ていた。



 ――ターク様の王子様ファッション、久々だけど、貴族のパーティーかな? 相変わらず、眩しい!



 だけど、ターク様は一向に出かける様子がなかった。


 デスクに座り、黙々と書類に目をとおしている。


 だけど、私があんまり眺めていたせいか、彼は突然顔をあげた。



「なんだ、ミヤコ。私が眩しいか?」



 得意げな顔で、またあのナルシスト全開の、お決まりのセリフを言うターク様。



「あ、はい!? いえっ……。今日はステキな上着を着てどこに行かれるのかなぁと思いまして……」



 本当に「眩しい!」と思いながら見ていただけに、私は私で、少し慌ててしまった。


 そんな私を見て、彼はまた「ふふん」と、得意顔で口元をほころばせる。



「いや、今日は昼から来客がある。お前も準備しておけ」



 ターク様の書斎に隣接した客室には、たまに来客がある。


 来るのは大抵、治療や魔物退治を依頼しに来る貴族っぽいおじさんか、困りごとを相談しに来る領地の住人たちだ。


 そんなときはいつも、私は邪魔にならないように、ベッドルームか書庫に隠れている。



「はい、わかりました」



 私はそう答えると、本を持ってターク様のデスクのすぐ横にある、書庫の入り口に移動した。


 ターク様は、不意に近づいてきた私を見上げて、『なんだ?』という顔をしている。



「お客様が来るなら、今日は書庫に隠れてますね」



 私がそう言うと、ターク様は少しぽかんとした顔をした。



「いや、今日の客は、お前にも会わせるから、そのつもりでいるんだ」


「え? どなたがいらっしゃるんですか?」


「まぁ、来たらわかる」


 ――わー、はぐらかされた……。まさか、来客って……。



 なんだか嫌な予感がして、妙な緊張が背中に走る。



「わかりました……」


「不満が顔に出てるぞ」



 ボヤくように返事をした私を見て、彼は立ちあがった。


 そして、書斎と書庫を仕切る扉にトン、と手をつく。


 扉の前に立つ私は、ターク様に前を塞がれ、ビクッと肩を強張らせた。



 ――まぶしっ! まさかの壁ドン……じゃなくて、壁トン?



 ターク様の顔を見あげ、口をパクパクさせていると、彼の顔がどんどん近づいてきた。



 ――ち、近い!



 思わずギュッと目を閉じると、背後で、ガチャッとカギを回す音がした。



「書庫の鍵、開けてやったぞ。使いたいなら使っていいが、客が来たら顔を出せよ」


「カギ……!?」



 ターク様は、真っ赤になった私の顔をのぞき込んで、私の頬をそっとつねりながら、楽しそうに笑う。



「頬が赤いな。猿みたいだ」


 ――さ、猿……!?


「今度は膨れた……。やっぱりリスか? 木の実でも入ってそうだ」


 ――木の実!?



 彼は私の頬をしばらくこね回すと、満足したようにデスクに戻った。


 ここ数日、なんだかターク様の周りの空気が(ゆる)い気がして、私は逆に緊張してしまう。なんだかますます、距離感もおかしい気がする。



 ――さっきのも、絶対わざとですよね?



 この間、一緒にメルローズの街に出た日から、ターク様はずっと、気が抜けているみたいだった。


 仕事の量をセーブしているのか、帰宅が早くなり、書斎にいる時間が増えた。


 前はいつも、すっかり空にして帰ってきていた魔力も、多めに残っている。


 そのせいもあって、今日は彼の魔力が珍しく全回復していた。



 ――全回復するとテンションがあがるのかなって思ってたけど、なんだか、思ってたのと違うみたい。


 ――ターク様が、ふわふわで、ちょっと達也っぽくなってる!



 いつもデスクに向かっているときは、キリリとして、話しかけづらいオーラを出しているターク様。


 だけど、最近は、しばしば気の抜けたことを言いながら、さっきみたいに私をからかってくる。


 必要以上に距離を詰めて、髪や頬に触れてくる様子は、幼なじみの達也にそっくりだ。


 彼の体が、とても眩しく輝いていることを除けば。


 ただ、ターク様は悪戯のつもりなのか、私の反応を見て楽しんでいるように思える。


 スマートにやさしかった達也とは、似ているようで、やはり少し違うのだった。



 ――私の顔を見たら気が抜ける……って言ってたけど、これはちょっと、抜けすぎたんじゃないかな?



 ターク様に悪戯に触られるたび、私の脳裏(のうり)にはマリルさんがチラついて、罪悪感で胸がいっぱいになった。



 ――もう、ターク様、マリルさんに嫌われても知りませんからね!

 休養をとった日以来、気が抜けた様子のターク様に壁トンをくり出される宮子。


 婚約者がいるはずの彼に過度なスキンシップを取られ、かなり心配になりました。


 そして、来客があるとは言うけれど、だれが来るとは言わないターク様。


 宮子は少し不満ですが、大体の予想はついているようです。


 次回、案の定なあの人が現れて、とりあえず初対面のフリをする宮子。途中からターク様目線になります。


 挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 眩しい自分が誇りなんですね。 力の源ですので当然かもですが、目立ち過ぎて嫌気がささないところがターク様クオリティです。 しかしこれが彼の素なのですか。 かなり雰囲気が柔らかく、宮子が思う…
[一言] 花車様こんにちは! ターク様と宮子の元へ来る客人とは… やはりあの方ですよね! そして展開が気になります٩(ˊᗜˋ*)و
[良い点] ああああああああ!ティッシュ、ティッシュ〜! (ノ_<)フキフキ はぁ、大変でした。鼻血が出ちゃいましたよ〜(><)んもー! 由々しき事態、けしからんですよ( *`ω´)フフ モットクダサ…
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