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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第4章 タークの大願

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12 異世界の歌。~ジャンプ!~[挿絵あり]

 場所:メルローズ領

 語り:小鳥遊(たかなし)宮子

 *************



 本屋を出ると、商店街の一角に人だかりができていた。


 近づいてみると、道の脇のスペースに、小さなステージが組まれている。


 そして、小学生くらいの女の子が、そのうえに立って歌いはじめた。



 ――この世界の歌を聴くのもはじめてだわ!



 女の子の歌うその歌は、私の耳にはメロディーも歌詞も、とても独特に聞こえる。


 だけど、ここの人たちには馴染み深いものらしく、みな手をたたいてリズムを取りながら聞いていた。


 女の子が歌い終わると、次は男の人がステージに立って歌いはじめる。


 今度はみんな、合いの手を入れて盛りあがっていた。


 どうやら、歌の大会を行っているようだ。



「いいぞー! 優勝はナディだ!」


「ガルフィー! うまいぞ!」


「ほかに参加者はいないか?」


 ――わぁー! 盛りあがってるな!



 この場所だけ見れば、長引く戦いで疲弊(ひへい)しているとは思えないくらい、街の人々は元気がよかった。


 これもきっと、ターク様が日々頑張っているおかげじゃないだろうか。


 私が目をキラキラさせていると、ターク様が突然、「お前も歌ってこい」と、私をステージにおしあげた。



「え!? ちょっと、ターク様!?」



 ターク様は久しぶりに見せるあの意地悪な笑顔で、舞台上で焦る私をニヤニヤしながら見あげている。



 ――もう! 最近やさしいなって思ってたのに! 急にドSモードですか!?



 周りを見渡すと、観客たちが盛大にざわついている。



「ゴイムが歌うの?」


「領主様のゴイムか?」



 口々に話す声が聞こえて、私は腕の刻印を背中に隠した。



 ――わーん! すごい見られてる! もー! こうなったら、日ごろ外に出られないストレスを、ここで発散するよ!



 覚悟を決めた私は、「ふぅ」と一呼吸息を整えると、コーラス部で練習していた歌を歌いはじめた。



「なんだか つらく 苦しくて♪

 叫び出したい そんなとき

 この胸に 小さな種を()いたー

 大きな夢に なりますようにとー♪」



 私が歌いはじめると、聞き慣れないメロディーのせいか、観客たちはすぐに口を閉じ、静かに聴き入った。


 なんだか日本で参加した声楽コンクールを思い出す。


 今日はこんな地味なワンピースだけど、あの日は綺麗な青いドレスを着せてもらって、私もすごく張り切っていた。


 お父さんやお母さんや、達也も見に来てくれたっけ。


 不意に両親や達也を思い出した私。


 またしても感極まってしまい、涙があふれだしてくる。



「言えなかった ありがとうも~

 いつか あなたに 届くようにと~♪」



 選んだ曲の歌詞のせいもあるのかもしれない。


 流れ出した涙が止まらなかった。


 なんとか最後まで歌い切り、深々とお辞儀をすると、観客たちからため息のような歓声がもれた。


 皆がいっせいに拍手をはじめ、あらためて周りを見た私は、涙に濡れた目を丸くした。


 歌いはじめたときより、観客の人数がずいぶん増えている気がしたのだ。



「良いぞー! 聞いたことのない歌だが最高だ!」


「感動したぞー! ゴイム!」



 観客たちはいっそう盛りあがり、いつまでも拍手をしてくれている。


 私はドキドキしながら、もう一度お辞儀をした。


 舞台から降りようとする私の手を、ターク様がとってくれた。私の涙のせいか、彼も少し戸惑っているようだ。



「お前、すごいな」


「ターク様、急に舞台に押しあげるなんて、ひどいですよ」


「ミヤコは歌がうまいと、メイドたちが言っていたからな。みな喜んでいるようだし、私も聴けてよかった」



 ターク様はそう言って、不満げな私の頭をぽんぽんと撫でながら、やさしい顔で微笑んだ。


 そうしている間にも、観客たちの興奮はますます勢いを増している。


 いつの間にか大勢に取り囲まれ、身動きが取れなくなってしまっていた。



「優勝は領主様のゴイムだ!」


「もっと歌って!」



 皆があちこちから手を伸ばし、私の服を引っぱりはじめた。喜んでもらえたのはうれしいけれど、これでは少し怖いくらいだ。



 ――え、ちょっとこれ、盛りあがりすぎじゃないかな? そんなに日本の歌が珍しかったの?



 私が困っていると、ターク様が突然、後ろから私を抱き抱えた。



「ひゃん!?」


「……だな」



 私を抱えたまま、彼はぼそっとなにか言っている。



「え? なんですか? ちょっと周りがうるさくて……」



 私がそう言うと、ターク様は私の目を手のひらで覆い、耳元に口を寄せた。



「いいから、目を閉じていろ」


「はい?」



 身体に強めの振動と風を感じて、ターク様が私を抱えたまま移動しているのがわかった。


「ひゃぁ!」と、思わず声をあげると、目をふさいでいた彼の手が、今度は口をふさぐ。


 そして、見開いた私の目に映ったのは、自分の足と、建物の屋根、それからぐんぐんと下方へはなれていく、さっきの人だかりだった。



 ――飛んでる!?



 ターク様は軽々と屋根を飛び超えたかと思うと、ひとつ隣のとおりに降り立ち、私を地面に降ろした。



「はぁ、まさかこんな騒ぎになるとはな。見つかると面倒だ。もっと人気のないところへ移動しよう」


「ひゃい……っ」



 私は動揺で、変な声を出しながらターク様を見あげた。


 いまのは、空を飛んだというよりは、ジャンプだったのだろうか。


 いままで室内のターク様しか見たことがなかった私。


 まさか彼に、人一人を抱えて建物を飛び越えるほどの跳躍力があるとは、想像もしていなかった。



 ――丈夫だとは思っていたけど、尋常じゃないわ。



 私たちは細い路地裏をコソコソと移動し、広々としたカブ畑へと移動した。



挿絵(By みてみん)

 宮子が歌った日本の歌は、異世界の住人たちに相当魅力的に聞こえたようです。


 観衆に取り囲まれた宮子を抱えて、ターク様は高くジャンプします。ターク様の思わぬ跳躍力に度肝を抜かれた宮子でした。


 次回、人目を避け畑へ移動したターク様と宮子が、二人でのんびりしていると……。


 挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[良い点] この回、とても素晴らしかったです! 異世界の人々にもこれほどの好評、宮子の歌は本物ですね。 これでゴイム扱いが収まっていってくれたら……。 何より、ようやくターク様にいいところを見せられ…
[良い点] ゴイムであっても人を感動させられる。 人々の意識改革の一助と、宮子は成ったのではないでしょうか? ターク様とのセッションをいつか見たいものですね。 英雄級身体能力とも称すべき跳躍ですね。…
[一言] 花車様こんにちは! そして続きを拝読させていただきました! 宮子とターク様のお出かけ、そして宮子をステージに上げるターク様。 ゴイムである宮子の特技に皆感動するという話。 本当に楽しかったで…
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