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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第4章 タークの大願

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11 メルローズの街。~ターク様と子供と沢山の本~

 場所:メルローズ領

 語り:小鳥遊(たかなし)宮子

 *************



 ターク様の広い屋敷を出ると、そこは彼が領主をしているメルローズ領だ。


 のどかで小さな街だけれど、王都からそれほど遠くないため、必要なものはわりと揃っているらしい。



 ――あ。ここ、私が最初に倒れていた場所だわ。



 石畳の緩やかな坂道をくだりながら、私は思わず後ろを振り返った。


 あのときは、ほとんどこの石畳の道しか見えなかったけれど、あらためて見あげるお屋敷はやはり大きい。


 私や達也と同い年のターク様が、この屋敷の主人で、この街の領主だなんて、すごくたいへんだろうと思う。


 ターク様があんなに頑張って治めているこの街は、いったいどんなところだろう。


 朝の明るい日差しのなかで見るターク様は、薄暗い室内で見るより光りかたがマイルドだ。


 そのせいか、神々しすぎるということもなく、道行く人たちは「領主様、おはようございます! よい天気ですね」と、意外にもみな、気軽に話しかけてきた。


 皆と挨拶を交わすターク様を、立ち止まったまま「ほうほう」と眺めていると、彼は突然、私の腕を掴んで歩きはじめた。



「いくぞ。はぐれると危ない。しっかりついて来いよ」


「あ、はい!」



 ターク様にひっぱられ、私は慌てて歩きはじめた。


 彼の背中に背負われた黒い大剣に、金色の光が吸い込まれていくのが見える。


 彼の光り方がマイルドに感じるのは、外が明るいから、という理由だけではないようだ。


 彼がこんな休日にまで鎧を着ているのは、光って目立ちすぎるのを防ぐためでもあるようだった。


 だけど、その効果はかなり薄い気がする。


 確かにカミルさんみたいな白い騎士服や、王子様ファッションよりはマシかもしれない。


 けれど、顔立ちが美しすぎる彼は、たとえ光っていなくても、十二分に、目立ってしまうはずだった。


 実際、達也も、街を歩くとかなり目立っていた。


 達也と一緒に街を歩くと、「なにあの子、まさか彼女? 似合わない!」と、嫉妬や蔑みの声が、よく聞こえてきたものだ。


 そして、ターク様に腕を掴まれて歩く今日の私も、周囲からかなり、強めの視線を感じていた。


「あれが噂のゴイムか」と、興味深そうに私を見る人々に、身体がキュッと小さくなりそうだった。



      △



 できるだけ小さくなって、ターク様に引っ張られていると、彼を見つけた子供たちが次々と集まってきた。


 いつもより機嫌がいいとはいえ、ターク様は普通の人よりずっと無愛想だし、目つきも鋭い。


 だけど、子供たちはターク様が大好きなようだ。


 歩けば歩くほど人数が増え、気がつくと私たちは子供に取り囲まれていた。



「りょうしゅさまっ、て、すりむいたっですっ」


「あぁ。どっちの手だ?」


「りょうしゅさま、たんこぶっなでなでちてくだちゃい!」


「あぁ。あまり飛び跳ねるなよ」


「りょうしゅさま、くすぐったくてきもちいい!」


「そうか、よかったな」



 ターク様は、寄ってくる子供たちの小さなケガを次々に治していく。治療は休みだと言っていたけれど、断る気はまったくないようだ。


 子供が肩や頭によじ登っても、怒るでも困るでもなく、いつもどおりの顔をしている。


 まるで、公園のジャングルジムのようだ。



 ――ターク様、すごい! 子供に大人気!



 おかげで、痛い視線も気にならなくなり、私は子供たちの一員かのようにターク様について歩いた。


 いつもどおりに見えたターク様だけど、よく見ると優しい微笑みを浮かべている。



 ――わ。ターク様って、意外と賑やかなのが好きなんですね。



 なぜだか少し嬉しくて、私も自然と、笑顔になってしまった。



      △



 民家の間の細い道をしばらく行くと、小さな商店街に出た。



「本屋はここだ」


「小さい子供が、文字を勉強するような本があると助かります」


「子供向けはこの辺だな」



 そう言われて本棚を見てみると、並んでいる本の装丁(そうてい)の豪華さに目をうばわれた。


 子供向けとは思えない、金の装飾文字が美しい、立派な本がたくさんある。



 ――これ、もしかして高級品なんじゃ……。こんな高そうな本を買ってもらうわけには……。



 私が呆然としていると、ついてきた子供たちが、次々とターク様に本を渡しはじめた。



「これがいいよ」


「これも面白いよ」


「あぁ、そうか。ありがとう、わかった、うん、これもか?」



 子供たちに渡された本を、どんどん抱えこんでいくターク様。



「タ、ターク様そんなにはっ……」



 ターク様は「なんだ?」と言いながらも、抱えた本を全て店主に渡した。



「にっ二十四万ダールになりますっっ」



 裏返った声を出しながらも鼻息荒めな店主さんに、金ピカの金貨を支払うターク様。



 ――えっ? よかったの? これ……。



 口をパクパクさせた私に、「選ぶ手間が省けたな」と、ターク様は満足そうに笑った。

 はじめての外出に少し緊張する宮子ですが、ターク様が治める街を歩き、彼が領民たちに慕われていることを実感します。


 子供たちに取り囲まれながら本屋に行くと、ターク様は高級そうな本をたくさん買ってくれました。少し豪快すぎる買いものをするターク様がちょっと心配な宮子です。


 次回、街の片隅で行われていた歌の大会を見ていた宮子は、ドSモードのターク様にステージへおしあげられます。


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
おおデート回…っ! 子どもたちに慕われるターク様、領主のお仕事もたくさん頑張っているからですね。素敵です! 宮子ちゃんのお勉強の本も買えて、合計金額にちょっとびっくり(⌒-⌒; ) 文字が読めるように…
帰宅中にジャングルジム・ターク様の光景を思い浮かべてしまい、バスの中ほっこりした顔が窓に映っていました♪ 次回はドSモードですか……。どうなるんでしょう? 楽しみに読ませていただきます!!
[良い点] 初めは少しハラハラしてしまいましたが、子どもたちのおかげで楽しく過ごせたようですね。 子ども好きのターク様、微笑ましい。 宮子が笑顔になるのも当然です。 [気になる点] 店主の様子を見る限…
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