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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第4章 タークの大願

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09 ターク様は外道ですか?~人間違いには気をつけて!~

 場所:タークの屋敷

 語り:小鳥遊(たかなし)宮子

 *************



 突然マリルさんがやってきたあの日以来、私、小鳥遊(たかなし)宮子は、彼女への罪悪感に苛まれていた。


 もちろん、あんなに一方的に(さげす)まれ、殴られたのは悲しかったし、ちょっとは腹も立った。


 だけど、達也のファンたちとはちがい、彼女はターク様の婚約者だ。当然の怒る権利を持っていると思う。知らなかったでは済まされないというのも理解できる。



 ――だけど、ターク様はいったい、どういうつもりなのかな?


 ――あんなに可愛い婚約者さんがいるっていうのに、この状況はなんなの?



 彼は結局、毎日私を自分のとなりに寝かせている。


 もちろん、彼は、私の記憶を戻そうとしているだけで、やましい気持ちはないと思う。


 最近はちょっと、強引にベッドにおし込まれるし、「お前がいないと眠れない」とか、口走っていたけれど。それでも絶対、やましい気持ちはないと思う。


 一緒のベッドで寝ていると言っても、ターク様はいつもすぐに寝てしまうし、じっとしていれば何事もなく朝になる。


 私は毎日、できるだけターク様の加護を受けないよう、ベッドの端で小さくなって眠った。


 そして、彼の目が覚めると、逃げるようにベッドから出ていた。


 それが、私がマリルさんにできる、最大限の誠意だった。



 ――それなのに今朝は……。



 小さな抵抗も虚しく、昨晩もベッドにおし込まれた私は、目覚めてすぐ、息を飲み込んだ。


 目が覚めた私がいた場所はなんと、ターク様の腕のなかだったのだ。癒しの加護に全身がすっぽりと包まれて、くすぐったいような心地いい感覚に身体中がフワフワしている。


 目の前には金色に光り輝くターク様の首筋がせまり、背中に回された逞しい腕が、私をガッチリ固定していた。


 それはまるで、私を逃すまいとするように……。



 ――まぶしっ……。いったい、いつの間にこんなことに……?



 私も気が付かず、すでにずいぶんこの状態で眠ってしまっていたようだ。


 抜け出そうにも、思うように身体に力が入らない。


 このままでは脳までとろけて、なにもかもがどうでもよくなってしまいそうだ。



 ――ターク様を起こさないように、なんとかはなれられないかな?



 そんなことを考えていると、彼は私の耳元で、ごにょごにょと寝言を言いはじめた。



「ミア……ミア……」


 ――ミアって確か、ターク様が好きだったゴイムですよね……?



 マリルさんという婚約者がいながら、ほかの女性の名を呼ぶターク様の寝言に、私は耳を疑った。


 彼がミアさんを好きだったのは、小さいころの話なのかもしれない。けれど、これをマリルさんが聞いたらと思うと、背筋が凍りそうだ。



 ――こんな恐ろしい寝言を、私を抱きしめながら……。



 ターク様にその気がなくても、仮にも私は、マリルさんの怒りの対象だ。


 それに、私だって、ターク様のベッドの端で、日々マリルさんに罵られる悪夢にうなされているのだ。



 ――まったく、人の気も知らないで。いくらなんでもひどいですよ。


 ――なんとか隙間を作って、下から抜けだせないかな?



 私は腕を突っ張るようにして、ターク様の胸のあたりをぐいっとおした。


 だけど、彼は私をはなすまいと、ますます腕に力を込め、ついでに耳元で、「う……ん」と吐息をもらす。


 濃密な癒しの光の微粒子が、私の耳をくすぐって、ゾクゾクと悪寒に似た感覚が背中を走った。


 思わずビクッと反応してしまい、私の罪悪感はさらに上塗りされていく。



 ――とろけそうになっている場合じゃない。一刻も早く、ここを脱出しなくちゃ。



 私は、ターク様を起こさずに抜け出すのを諦め、彼に声をかけた。



「ターク様ったら、もう、はなしてください!」


「嫌だ……行かないで……」


「えぇ……!?」


「ミア……もう離さない……」



 ――えーい! もう本当に、マリルさんに怒られてくださーーい!



 あらためてギュッと引きよせられた私の唇が、彼の首筋に触れそうになる。



 ――ひえぇっ。



 私は必死で身体をのけ反り、ジタバタと暴れた。


 だけれど、ターク様は寝ぼけているくせに相変わらず頑丈で、私の力くらいでは本当にびくともしない。



「ターク様、私、宮子ですからっ!」



 仕方なく、さらに大きな声を出す私。



「うーん? ミア……コ……?」


「ミアコじゃなくて、宮子ですってば!」


「ん……?」



 ターク様はようやく私を見ると、眠そうな目のまま、ゆっくりと首をかしげた。



「あれ……なんだ? ミヤコか……」


「なんだじゃないですよ! まったくもう、寝ぼけて人違いするの、やめてくださいねっ!」


「ん? 僕が……どうかした?」


「僕……? あの、ミアさんと間違えて私を抱きしめてますよ!?」


「あー……。すまない」


「まったくもう……!」



 ようやく腕の力がゆるみ、そそくさとターク様からはなれる。ターク様ものそのそと起きあがると、気まずいのをごまかすように「うーん」と伸びをした。



「なんだ、怒ったのか?」



 不満でいっぱいの顔で口を尖らせた私を見て、少し困った顔をする彼。



「別に、怒ってません……いえ、やっぱり怒ってます……」



 ――ターク様、しっかりしないとマリルさんがかわいそうですよ。



 そう言いたい気持ちはあるものの、なにをどう伝えていいのかわからない。なにせ私はまだ、マリルさんが来たことを、彼に秘密にしているのだ。


 私が口をもごもごさせていると、ターク様は私の顔を覗き込んだ。寝癖が気になったのか、私の耳元に手を伸ばし、彼はそっと髪を触る。



「まぁ、機嫌をなおせよ。人違いならお前も得意だろ」


 ――仕草は甘いのに、言ってることがひどいんですけど……!? 私が怒ってるのは、そこじゃないんです……。いや、そこもだけど……! そうじゃないんです!



 私は結局、なにも言い返せずに口をパクパクさせただけだった。


 戸惑う私の顔を見て、いつもならニヤリと笑うターク様が、「ふふ」と微笑んでいる。


 寝起きでフワフワしているターク様は、達也にしか見えなくて、私はどうしたって困惑してしまう。本当に、気を抜くとうっかり、呼び間違えてしまいそうだ。



 ――そりゃぁ、人違いもしますよ……。



 心のなかでそうつぶやいて、私は唸るようにため息をついた。

 マリルさんに会って以来、ターク様と一緒に眠ることの罪悪感に苦しんでいた宮子ですが、そのことをターク様に伝えることができません。


 そんななか、初恋の少女の名前を呼ぶターク様の寝言に、宮子の背筋は凍りつきます。しかし、人違いを責められたと勘違いしたターク様は、「お前も得意だろ」とやり返しました。思考回路がバグり気味のターク様、心配です。


 次回、ライルに先日の護衛の報酬をせがまれるターク様に、宮子は色んな意味でドキドキします。


 挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
久々の同衾シーンでしたが、宮子と同じく「まったくもう!」ね気分になりました……。 ターク様よ、君はそれでいいのか……。 彼の悪意のなさも、ここまでくると天然な感じですね。でも、そこが魅力的なキャラクタ…
[気になる点] 宮子、不憫ですね。 ですが、未だにそこまで強くミアを想っているターク様も気の毒ではあります。 ……マリル嬢のことは考えないようにしましょう。
[良い点] ターク様に抱きしめられ他の女の名前を呼ばれながらも、彼の寝言の内容を気遣う宮子は聖女ですね。 モテまくる達也が、彼女の魅力に夢中になる気持ちもわかります。 そこはせめてマリルの名前呼べよと…
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