06 母の願い。~マリルは可愛い婚約者~
場所:メルローズ本邸
語り:ターク・メルローズ
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十四歳になったころ、私は母からマリルを婚約者として紹介され、ミアのことは忘れるようにと強く諭された。
それは、私が父に反発する様子を、見かねてのことだった。
母が用意した婚約者のマリルは、いつも豪華なドレスに身を包んだ、華やかな少女だった。
彼女にしても突然の話だったはずだが、彼女ははじめから、私のことをずいぶんと気に入っているようだった。
マリルは毎日のように屋敷にやってきては、私が思い悩む暇もないほどに、しつこく私につきまとった。
「ターク様! 今日もお菓子をお持ちしましたわ」
「マリル、毎日くるんだな」
「当然ですわ! ターク様のお話し相手は、この、マリル・フランと決まってますもの。ターク様に寂しい思いはさせませんわよ!」
「そ、そうか」
「今日のお菓子はアップルパイでしてよ。ほら、ターク様、あーん」
「い、いいよ、自分で食べるから」
「まぁ! 照れてますのね。可愛い!」
母になにか頼まれたのか、ずいぶんと気合が入っている様子のマリル。三つも年下の彼女に、私は振り回されるばかりだったが、決して彼女を嫌ってはいなかった。
私はマリルに言われるまま、一緒に本を読んだり、菓子を食べたりした。当時から休むことが下手だった私に、マリルは穏やかな休息時間を作ってくれた。
彼女は可愛らしい顔立ちで頭もよく、自分への自信で満ち溢れている。
そして、自分こそが、ターク・メルローズの婚約者にふさわしいと、自負しているようだった。
「ターク様、わたくし、先週お話した魔術試験で満点をいただきましたのよ。素晴らしい才能があるって、先生にも褒めていただきましたの」
「さすがだな。頑張ったじゃないか」
「うふふ、当然ですわ! わたくし、ターク様の婚約者ですもの」
「そ、そうだな」
マリルはことあるごとに、「わたくしはあなたの婚約者ですから」と、誇らしげに話す。そんなマリルを見ているうちに、私はもう、違うとは言えないと思いはじめていた。
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そんな日がつづいたある秋の日、王都の街の外れまで、買い物に出かけていた母が、魔物に襲われ急死した。
そのころの王都は、ポルールの戦いの影響で、警備がかなり手薄になっていたのだ。
「僕がついていっていれば……」
「ターク様はなにも悪くありませんわ。悪いのはお母様を傷つけた魔物ですもの」
悲しみに暮れ自分を責める私を、マリルは懸命に励ましてくれた。
――マリルとの婚約は、母さんの最後の願いだ。
私は素直に、彼女が婚約者であることを受け入れることにした。
心に秘めたミアへの想いはすぐには変わらなかったが、マリルはいつも、私のやるせない想いを紛らわせてくれた。
△
私たちは長い間一緒にすごし、あちこちに出かけ、たまにはケンカもした。
「ターク様! 早くいらしてください! わたくしのお友達を紹介いたしますわ」
「待ってくれマリル。毎週毎週、パーティーに呼び出すのはやめてほしいと言ったはずだぞ」
「まぁ! ターク様がいなくては始まりませんわ。ターク様を自慢するためのパーティーなんですもの」
「マリル……。勘弁してくれよ」
「嫌ですわ! ターク様はもうすぐ戦地に行ってしまわれるんですもの。いまのうちに、わたくしが婚約者だと、皆に釘をさしておかなくてはいけませんのよ」
「僕をとられる心配なら無用だよ。マリル」
私はそう言って、彼女の額にキスをした。
彼女は高飛車で傲慢、強引で怒りっぽい。
だが、気が付くと私は、彼女を幸せにしたいと願っていた。
△
私が部隊に入りポルールへ出向くと、マリルも本格的な魔術の勉強で忙しくなった。
毎日のように二人の時間を作っていた私たちだったが、それからは頻繁に会うこともできなくなった。
しかし、王都に帰ってみると、私たちは理想の恋人として、世間で知られるようになっていた。
マリルの様子を見にいくと、彼女は友人たちと楽し気に会話している。
「ロード・メルローズと結婚できるなんて、本当に幸せね! ああ、うらやましいわ! 私の彼の領土が、メルローズ領の半分でもあれば……」
「ロード・メルローズは最高の恋人ね! あんなに美しく輝いて、戦いに行ってもケガの心配もないんですもの。戦地に行った私の彼は大丈夫かしら……」
口々にそんなことを言う友人たちに、マリルは思いきり高飛車にこう言うのだった。
「あぁら、ターク様はいつだって最高に決まってますわ! わたくしの婚約者ですもの。当然ですわ!」




