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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第4章 タークの大願

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05 不思議なゴイムが見せる夢。~初恋の君は魔力タンク~

 場所:タークの屋敷

 語り:ターク・メルローズ

 *************



 その日、私が部屋に戻ると、ミヤコの姿が見当たらなかった。



 ――大抵入り口のソファで、私の帰りを待ちかまえているのに……。



 寝室の窓際かとも思ったが、そこにも彼女の姿はない。



「ミヤコ? どこだ……」



 急激にバクバクと鳴りはじめる私の鼓動。少し姿が見えないだけで、焦りすぎじゃないか? と、自分でも不思議に思うくらいだ。


 バスルームと書庫も確認し、客室に入ったがミヤコが見つからない。



「ミヤコ! どこだ!」



 焦りに大声をあげると、客室のバルコニーからミヤコが慌てて顔を出した。



「ターク様! いまお帰りですか? すみません、ぼんやりしてました」


「そんなところで、なにしてたんだ?」


「お庭の噴水を眺めてました。星もきれいですよ」



 そう言って笑顔を見せる彼女を見て、私の心は落ち着きを取り戻した。



「庭に出てみるか?」


「え! いいんですか!?」



 私のほんの一言で、彼女の丸い目がもっと丸くなり、ぽってりとした唇がポカンと開く。



 ――本当に、少しもゴイムらしくないな……。



 完全な魔力タンクになっていなかったとしても、ゴイムたちは皆そろって無表情だ。


 ゴイムになって間もない少女ならまだしも、ミヤコは歳も私と変わらないように見える。


 少し首をひねりながらも、私は彼女を屋敷の庭に連れだした。



      △



「わぁ! 近くで見てみたかったんです。本当に立派な噴水ですね」


「ベルガノンは水の国だ。噴水なんて大抵の庭にあるだろ」


「そうなんですか!?」


「本当になにも覚えてないみたいだな」



 噴水のふちに腰かけ、キラキラと目を輝かせて星空を見あげるミヤコ。彼女の表情は、メルローズの街の女たちよりも、よほど豊かに見える。



「この間は……急に屋敷を空けてしまったが、私がいない間、なにも問題なかったか?」



 フィルマン様に屋敷を壊されたあと、私はライルに彼女をまかせた。


 しかし、人の出入りのある状態で、二日も屋敷を開けてしまったことが、ずっと気にかかっていたのだ。


 私の質問に、彼女の黒目がちな丸い目は、おびえるようにキョロキョロと動いた。



「も、問題!? なんのことですか……?」


「なにって、私が聞いてるんだ。修理工にからまれたりしなかったか?」


「あ、皆さんとても親切でしたよ」


「本当か? ライルのやつは問題を起こさなかったか?」


「ライルは本当に頼もしかったです」


「そうか」



 なにか少し動揺していたようだが、あまり詮索しないことにする。とりあえず彼女が無事ならよかった。



「ターク様こそ、二日がかりの治療、たいへんじゃなかったですか?」


「あぁ、子供はケガをしていても元気がいい。私のそばで、じっとさせておくのがたいへんだ」


「ターク様は本当に立派な大剣士様ですね」



 そう言って微笑みを浮かべたミヤコは、優しい瞳で私を見詰めた。



 ――なんて慈愛に満ちた顔だ。まるで乳母のようだな。



 ゴイムとは思えないミヤコの表情を見るたび、私は、戦地で見たミア・グジェの姿を思い出した。



 ――いまではすっかり魔力タンクになってしまったようだが、彼女もまた、こんな笑顔を見せてくれる日がくるだろうか……。



 淡い期待に胸がふくらむのを感じて、私はニヤリと口元を歪めた。



      △



 ミヤコと眠るようになってから、私はミアの夢を見ることが増えていた。


 まだ世界に魔法があふれていたころ、幼くて、癒しの加護も持たなかった私は、訓練中に何度か大ケガをした。


 そんな私に、治癒魔法をかけてくれた小さな少女。


 あの暖かな光、優しい笑顔、治癒の快感。



「ミア……ミア……」



 夢のなかで手を伸ばすと彼女に手が届きそうだった。


 目が覚めると、あの日以来すっかり萎えてしまった私の闘志が、少し復活している気がする。


 ミアをゴイムの務めから解放することこそが、私の戦う理由だったからだ。



      △



 私の夢に出てくる少女、ミアは、王都にあるメルローズ家本邸の使用人で、出会ったときから奴隷だった。


 幼くして高度な魔法を使えたミアは、その力でいつも泣き虫の私を守ってくれた。私は彼女に、幼いながらも恋心をよせていたのだ。


 しかし、私が十三歳になるころ、ポルールの戦いが始まり、国中の魔力が不足しはじめると、私の父アグス・メルローズは、ミアをゴイムとして使うようになった。


 いつもにこやかだった彼女は、さまざまな行動を禁止され、ただただ吸引される日々に耐えていた。


 魔力を吸引する魔法()()()()()は、魔力以上に多くの体力を奪う魔術だ。ミアは父からサキュラルを受けるたび、ひどく弱った。


 私は癒しの加護の力で、ミアを回復するため何度も抱きしめた。その度にミアへの想いと父への苛立ちが募っていく。私は父にゴイムの使用をやめるよう懇願した。



「父さん、ミアを解放してください! 彼女はまだ十一です。こんな非道な真似をして、恥ずかしくはないのですか?」


「ターク、研究にはたくさんの魔力が必要だ。お前は黙っていろ」



 願いは聞き入れられず、自分の無力さに失望した私は、しだいに自暴自棄になっていった。


 そして、ミアは父の研究室から出てこなくなり、姿を見ることもなくなった。


 彼女は完全に魔力タンクになってしまったのだろうか。私は怖くて確かめることができなかった。すぐそばに彼女がいるというのに、私はひどく意気地なしだった。



      △



 十五歳になると、私は幼いころからの剣の師匠である、イーヴ先生が指揮する第一騎士団に入隊した。早く戦いを終わらせれば、ミアをゴイムの勤めから解放できると思ったのだ。



「僕が戦いを終わらせたら、必ずミアを解放してください」


「お前のような泣き虫になにができる。偉そうな口を利くな」



 私は父に啖呵(たんか)を切ったが、父は私を冷たくあしらった。



 ――それでも、僕は必ず彼女を助け出す……。



 この想いは、戦地で戦う私の、原動力のすべてだった。

 宮子の姿が少し見えないだけで、焦ってしまうターク様。宮子のころころと変わる表情を見るたび、初恋の「ミア・グジェ」の姿を思い出します。


 父のゴイムになってしまった彼女を救うべく、戦っていたはずのターク様。ですが、いまはポルールに戻るのが怖いようです。


 次回、ターク様はお母様が連れてきた婚約者、マリルと出会ったころのことを思い出します。


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 鈍感ターク様は宮子の動揺に気づかず。 これは今後の展開も擦れ違うだろうなと、納得のキャラ造形です。 なるほど。ミアを救うことが、戦いの原動力でしたか。 それでは今戦えないもどかしさも、な…
[一言] 宮子に癒されるようになったターク様。 でも昔の記憶のミア。 父のゴイムだった彼女。 その彼女の話楽しみに読ませていただきますね*˙︶˙*)ノ"
[良い点] ミアと宮子を重ねているんでしょうか(>_<) うっうっうっ切ない……。 顎髭先輩、理由もなく酷いことするような先輩じゃないと思いたいのですが、どうなんでしょう。 続きが楽しみです!
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