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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第4章 タークの大願

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04 帰ってきたターク。~領主の仕事は忙しい~

 場所:メルローズ領

 語り:ターク・メルローズ

 *************



 メルローズ領に戻ったものの、私は落ち着いて休むことができなかった。



 ――休むのは苦手だ。



 結局私は休めないまま、毎日自分の治めるメルローズの街を視察して回った。



「きゃー! 魔物よ! 父さんを呼んできて!」


「現れたかコボルトめ! 私の鉄の(くわ)を受けてみろ!」


「わぁぁ! 父さんがやられたーー!」



 王都ほどではないにしても、メルローズ領にも隣接する森からしばしば魔物が現れる。


 これらの魔物は、以前は王国の騎士団か、その指揮下の防衛隊が、街に被害がおよぶ前に退治していた。


 しかし、戦力がポルールに割かれているいまの状況下では、街の防衛は領民任せだった。



「領主様だ! 領主様が来てくださったぞーー!」


「なんという強さだ……。凶悪なコボルトが赤子のようだ」


「と、当然だ。私は不死身の大剣士ターク・メルローズだからな」



 私は領民たちを救うため、街を荒らす魔物を討伐して回った。


 この間は動けなかった私だが、森から飛び出してくる小者くらいは、普通に倒せるようだった。


 街は治癒魔導師も物資も戦力もすべてが不足しており、ケガに苦しむ人々が溢れていた。


 私はまず、力自慢の労働者たちを雇い、防護柵を強化するなど対策を施した。


 あとは、ケガ人の治療だ。魔力が尽きるまでは、重篤なケガ人に治癒魔法をかけて回る。


 しかし、睡眠不足では魔力はあまり回復しない。()()()で治療できるのはほんの数人だった。


 魔力が尽きると、私は癒しの加護を使い、子供たちを集めて治療した。私が加護で治療するのは子供だけだ。だれにでも加護を使うと、マリルが嫌がるからだ。



「りょうしゅさまきたー!」


「わーい! りょうしゅさまー!」


「あぁ、ケガの具合はどうだ」



 気がつくと、私の周りはいつも子供たちがついて歩くようになっていた。


 治せるケガ人は多くはないが、それでも領民たちは、「領主様バンザイ」と喜んでくれた。


 皆にどう思われるかと気に病んでいたが、少し杞憂(きゆう)がすぎたようだ。


 ポルールに戻れないいま、私の戦場はこのメルローズだ。私は毎日、忙しく走り回った。



      △



 数日もすると、領地の人々はいくらか元気を取り戻した。しかし、私自身は体調の悪化が進んでいた。



 ――うーん。街に戻って休むはずだったんだがな……。領主の仕事は意外にたいへんだ。



 しかし、私が情けない姿を見せては、領民の……いや国民の不安をあおってしまうだろう。


 こんな田舎で暮らしていても、私は常に注目されている。私が療養のために帰還したことは、皆に悟られないようにしなくてはならない。



 ――大剣士になったからには、威厳は大切にしろと先生に言われているからな……。



 動けば動くほど高まる領民からの期待。これは戦地にいたときと同じだ。


 どんなに気分が悪くても、私は懸命に強がった。



      △



 ほとんど眠れないまま半月以上がたち、足もとのふらつきを抑えきれなくなってきたころ、私はミヤコに出会った。


 はじめのうちは、顔もわからないほどに傷ついた彼女に、私の胸は痛むばかりだった。


 しかし、不思議なことに、彼女を隣に寝かせるようになって以来、私は悪夢を見なくなったのだ。


 そして、彼女のケガがよくなると、私は妙に、ホッとした。


 領民の治療では感じたことのない喜び。


 それが腹の底からじわじわと湧き起こり、穴だらけの私の心に染み込んでいく。


 その夜は朝まで、記憶がないほどに熟睡した。



 ――なんだこの安心感は……。



 私はずっと、彼女を探していた気がした。



      △



 積み重なる用を済ませ屋敷に戻った私に、「お疲れですね」と声をかけるミヤコ。


 癒しの光を(まと)った私に、疲れてるだの風邪をひくだのと、要らぬ心配ばかりするおかしなゴイムだ。


 強がってみても、弱っていることを見透かされているようで、少し腹立たしい。



 ――だが背に腹は変えられない。睡眠不足も悪夢も、もうたくさんだ。



 私は、いろいろと理由をつけては、毎晩ミヤコをそばに寝かせた。



「ひゃっ! ターク様、私を荷物みたいに持ち運ぶのはやめてください!」


「治療のためだ。抵抗するな」



 ベッドに入り彼女の顔を見ると、ザワザワしていた気持ちが落ち着きを取り戻し、急激に眠くなる。


 睡眠不足が解消されると、食欲が回復し、頭痛やふらつきが治まった。



      △



 睡眠不足が解消し、さまざまな症状から解放された私だったが、いくつか治らない症状があった。


 ときどき起こる耳鳴りや心痛だ。


 ミヤコを泣かせたり、困らせたりすれば、これらが起こるのはもう間違いがない。


 わざと意地悪を言ったりしようものなら、私はひどい耳鳴りに襲われた。


 表情豊かな彼女の一挙一動に、私の心は激しく反応する。


 突然胸がドキドキと高鳴ったり、締めつけられるように苦しくなったりするのは、いったいなんの症状だろうか。


 そうかと思うと、ポカポカと温かな気持ちになって、気が抜けてしまったりもする。


 ならばと外に出てみても、今度は彼女の安否ばかりが気になってしまうのだった。



 ――私はいったい、どうしてしまったのだ?



 沼地で意識を失って以来、すべてが変わってしまった自分に、私はただただ戸惑っていた。

 いままで人任せにしていた領主の仕事が、意外とたいへんだということに気付いたターク様。彼の頑張りで街は元気になりますが、彼は少しも眠れません。


 そんなときに出会った宮子を隣に寝かせると、不思議と眠くなることに気付いたターク様。


 経験したことのない感情が湧きあがる、自分の変化についていけず首をかしげます。


 次回、宮子を隣に寝かせるようになったターク様は、懐かしい夢を見るようになります。


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[良い点] ターク様、その病というのは、恋……いえ、なんでもありません。 ちょっと残念な彼は、それがゆえにとっても魅力的なキャラクターですね! 続きも楽しませていただきます!
[良い点] 領地に戻っても休む間もないターク様。 時間が治してくれる心の傷ならいいのですが、そうでもなさそうです。 ならばある程度忙しい方が、気が紛れていいのかも。 でも時間が経つ程にポルールは追い…
[一言] 花車様こんにちは! ここでターク様の心境を知る事ができました! 宮子が来てそして一緒に寝るの事により自身の回復と安らぎを覚えたターク様。 宮子にどうこれからも接していくのか。 気になる所です…
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