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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第4章 タークの大願

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03 帰路は死神と共に。~うずくまった不死身の大剣士~[挿絵あり]

 場所:ベルガノン王国

 語り:ターク・メルローズ

 *************



 ――大丈夫、ポルールにはガルベル様がおられるし、イーヴ先生もいる。物資もあれだけあれば、しばらく問題ないだろう……。



 自分にそう言い聞かせながら、私は(うまや)に向かった。


 ポルールから私の治めるメルローズ領までは、馬車で五日の距離だった。


 昔は転送ゲートであっという間だったが、転移は魔力を大量に消費するため、魔力不足のいまは使用できない。


 一人でのんびり、と思ったが、厩に着くとライルが待ちかまえていた。



「ターク一人じゃ心配だから、連れて帰ってあげるよ」



 ギザギザの歯をむきだしにして、ニカッと不気味に笑うライル。



「操作は任せて」



 そう言うと彼は御者台に飛び乗った。



「なんのつもりだ?」


「安心してよ。報酬はガルベル様にもらうから」



 ライルの操作する馬車が第二砦を出て、谷を南に進みはじめると、私は妙にホッとした。



 ――どうして私は、こんな恐ろしい場所で必死に戦っていたんだ……? あんなに痛い思いをしてまで……。



 たくさんの兵士たちが、いまも懸命に戦っているというのに、そのときの私はそんなことしか考えられなかった。



 ――ポルールにはもう行きたくない。



 馬車のなかで膝を抱え、うずくまる姿は、とても人に見せられたものではなかった。


 キラキラと金色に輝いていなければ、だれもこんな私を、不死身の大剣士だとは思わなかっただろう。



      △



 ポルールをたって二日目の朝、私は岬にある小さな街にいた。


 崖の上に立って海を見下ろすと、海水が大きく渦を巻いているのが見える。



 ――私が街に帰れば、皆不安になるはずだ。



 そんなことを考えながら、白く泡だつ渦を見ていると、ふわっと一歩踏み出してしまいそうになる。


 そんな私を、潮風が身体に(まと)わりつくように押しもどした。



「危ない、永遠にぐるぐる回るハメになるところだった」



 そのまま強い風に吹かれ、急かされるように馬車に戻ると、私はパンを取り出し頬張った。


 ライルが馬車を出発させ、海は後方に離れていく。



 ――おかしい……私の心はもっと、燃えていたはずなのに。戦う意思も、叶えたかった願いも、私から抜け落ちてしまったようだ。



 まるで心が穴だらけになってしまったかのように、私の胸をスースーと風がとおり抜けていた。



      △



 三日目、私たちは森を迂回するため、北に向かっていた。


 馬車は切り立った岩山と、森の間のでこぼこした道を行く。


 ガタガタと音を立てながら走る馬車に揺られながら、私は力なく幌を見あげていた。



 ――おかしい。まったく眠れない。



 身体から噴き出す癒しの光の影響で、私はもともと、かなり寝付きが悪かった。しかし、この二日は『それにしても』と思うほどに眠れなかった。


 虫でも入り込んだのかと思うほどに、頭のなかでガサゴソ音がする。特に急ぐ理由もないのに、早く、早くと、胸が急かされる。


 心に妙な異物感を感じて、私はまったく落ち着くことができなかった。



      △



 四日目、隣国クラスタルとの境の砦を左手に見ながら、私たちを乗せた馬車は森の北側を東へ進んでいた。


 森を突っ切ってしまえばもっと近いのだが、この森は霧が深いうえに魔物が多い。


 いつもの私なら恐れる場所ではないが、このときの私にはまったく無理をする気力がなかった。


 頭痛、目眩、耳鳴り、動悸、心痛……不死身の私には無縁だった、さまざまな症状が私を襲いはじめている。食欲もなくなりパンも飲み込めない。



 ――今日は早めに宿を取って休もう。景色の美しい村があったはずだ。



 私たちは、色とりどりの花が咲き乱れる、小さな村に立ち寄ることにした。


 全身真っ黒な鎧姿の私と、真っ黒いローブに頭まですっぽり包まれたライルには、まったく似合わない場所だ。


 それでも、私は癒しを求め、少し遠回りをして、その村に立ち寄った。


 しかし、到着してみると、村は森から現れたオークに襲われている最中だった。か弱い村人たちが、悲鳴をあげて逃げ惑っている。



 ――助けなくては……。



 暴れているのは、沼地の巨大な魔獣に比べれば、なんということのない魔物だ。


 しかしここでも、()()()になった恐怖が、私の足をすくませた。


 ライルが鎌を振りまわし、魔物を退治すると、彼の被っていたフードが外れ、異形の耳がひょっこりと現れる。



「きゃー! 不吉よ! 黒い化け猫だわ!」


「死神がでたぞー!」



 黒猫の獣人というのは、昔からずいぶんな嫌われものだ。


 鎌を持ったライルの姿は、大昔から近隣諸国で語り継がれる、死神にそっくりだった。


 私たちは村を追い出され、草原で野営することとなった。



      △



 五日目、東に向かっていた馬車は、ようやくメルローズ領へ向けて南下をはじめた。


 この辺りの平原は、頻繁に魔物が飛び出してくる。しかし私は、それらを全てライルに任せ、ただただぼんやりと馬車に揺られていた。


 昨夜の野営で、ひどい悪夢にうなされ、まったく気力がわかなかったのだ。



 ――屋敷に着いたら今度こそしっかり寝よう。私は不死身の大剣士ターク・メルローズだ。こんな精神攻撃に屈するわけにはいかない。



 日が西に傾くころ、私たちはメルローズの街に到着した。


 街まで送ってくれるというライルとともに馬車に乗り込んだターク様は、五日かけてメルローズ領を目指します。


 しかし、敵の精神攻撃を受けたらしいターク様は、非常に不安定な状態でした。


 もともとの不眠症が悪化し、()()()()()()になったトラウマも襲ってきます。


 街に帰ったらしっかり休もうと思ったターク様ですが、彼は休むことができるのでしょうか。


 次回、街の現状を知り領主の仕事に着手したターク様は、宮子に出会います。


挿絵(By みてみん)

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[良い点] ターク様、どうしてしまったんでしょう? 過去の話とはいえ、なかなか心配になる展開ですね。あきらかに敵の精神的な攻撃かなにかだと思いますが、予想しながら続きを楽しませていただきます!
[良い点] 英雄的キャラとは思えないほどに、追い詰められたターク様。 彼の心はズタボロですが、常人ならば当たり前に起こる事なんですよね。 誰もが殺し合いの中で平常心でい続けられるはずがなく、しかしター…
[一言] ターク様とラウル! 素晴らしく強かったですね! ラウルは鎌を持ちまるで死神のような姿! でも鎌をもつキャラもかっこよくていいですね(´꒳`*) 楽しい話ありがとうございました(´꒳`*)
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