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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第4章 タークの大願

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02 アグスとミア・グジェ。~冷たい父と心を失くした君~[挿絵あり]

 場所:第二砦

 語り:ターク・メルローズ

 *************



 にわかに外が騒がしくなり、私とイーヴ先生が砦から出ると、谷のほうから荷馬車が入ってきたところだった。


 大量の物資を積み、何台も連なって、護衛のための兵士も大勢付いている。


 その先頭で、物資の補充に喜ぶ兵士たちに囲まれた男が一人、ニヤリと口元に笑みを(たた)えていた。


 私と同じ黒い瞳。黒い髪はボサボサと長く伸びている。


 金の片眼鏡をかけ、研究用の白衣を着込んだその男は、私の父、アグス・メルローズだった。しばらく見ない間にまたずいぶんとやつれている。



「父さん……」



 私の姿に気付いた父の口元から、(たた)えていた笑みが消える。冷たい目でギロリと睨まれた私は、失望とも怒りとも言える感情に苛立ち、父から目を逸らした。


 まるで、私のことなど見えていないかのように、父はしばらくイーヴ先生と話し込んでいた。そして、荷下ろしがあるからと作業に戻っていく。



「ターク、アグス様が物資をもってきてくださった! これでしばらく第二砦は持ち堪えられるはずだ。お前は安心して街に戻れ」


「わ……わかりました」



 イーヴ先生に促され、帰り支度を終えた私が基地から出ると、父が物資を警備中の兵たちに指示を出していた。



 ――帰ることを伝えなくては……。



 そう思いながら、ぼんやりと立ち尽くしている私に気づいた父は、威圧的な眼差しで私を見下して言い放った。



「なんだ。逃げるのかターク。あんな生意気なことを言っておいて、情けないやつだな」



 悔しさに声が出ず、「く……」と押し黙った私に、気が付いたイーヴ先生が駆け寄って父を宥めた。



「アグス様、タークには休養が必要です。帰れと指示を出したのは私です」


「まったく、大剣士だなんだともてはやされて、いい気になっているから、足をすくわれるのだ」



 父は私を鼻で笑い、さっさと消えろとばかりに手を振った。


 相変わらず父は私を嫌っている。だが別にかまわない。私も同じだ。しかしいまは、一言も言い返せないのがつらい。


 私はよたよたとふらつきながら、父の前を離れた。



      △



 気持ちを落ち着けようと、人目を避け、木の陰で休んでいた私の耳に、兵士たちの噂話が聞こえてきた。


 彼らが話していたのは、父がここ数年ゴイムとして使用している少女、ミアのことだった。



「おい、今回はミア様も来ているらしいぞ」


「お前、ゴイムなんかに様付けするのはやめろよ」


「だけど見ただろ? あの美しい顔に見事な無表情。そそると思わないか?」


「まぁ、この戦場を支えている魔力回復薬()()()()()()に込められた魔力は、ほとんどが彼女のものだと聞くからな。崇めるのも無理はないが……」


 ――ミアが来ているのか……。近頃はずいぶんミアを崇拝するヤツが増えてきたな。



 私がいることに気付かない兵士たちは、さらに父の話をはじめた。



「しかし、アグス様の魔道具や物資はかなりの高額で売買されていると聞く。この戦いでいちばん儲かっているのはあのお方だろうな」


「あー、実は恐ろしい人だって話も聞くな」


「ミア様たちゴイムを、あんな完璧な魔力タンクに仕上げたんだからな。恐ろしいに決まってるよ」


 ――父の評判は相変わらずよくないようだな。



 ここ数年で、父にはすっかり、()()()()()()のイメージが定着していた。



      △



 兵士たちに見つからないように、コソコソと部屋に戻った私は、荷物を持って再び基地を出た。


 基地の外には、いつの間にか大きな輿(こし)が置かれていた。メルローズ家に仕える兵隊たちが仰々(ぎょうぎょう)しくそれを守っている。


 乗っているのは父が使っている三人のゴイムの少女たちだ。


 神聖なほどに表情のない彼女たち。その中心に座るのが、一際目を引く美しさを放つ噂のゴイム、ミア・グジェだった。


 魔力回復ポーションが、一般的に彼女の名でよばれるようになるほど、彼女の魔力は無尽蔵だ。


 そんな彼女を崇めるように、魔力を求める兵士たちがその周りに集まっている。


 あのゴイムたちが乗る輿自体が、父の作った魔道具らしい。


 三人は輿のなかで、金色の歯車が回る魔道具が付いた鈴を鳴らした。


 すると、周囲に清らかな光を放つ魔法陣が形成され、そのなかに集まった兵士たちの魔力が、しだいに回復していく。



 ――ミア……ごめん。私は一度街へ帰るよ。



 私は、胸が詰まる想いでその光景から目を逸らし、馬車に乗るため(うまや)を目指した。


挿絵(By みてみん)

 以前は優しかったお父さんに、冷たくあしらわれるターク様。二人の間にいったいなにがあったんでしょう。


 そして、完全な無表情で兵士たちの魔力を回復する、美しいゴイム「ミア・グジェ」と、ターク様の関係とは……?


 次回、失意のなかメルローズへ帰ろうとするターク様のもとに猫耳の彼がやってきます。


 挿絵(By みてみん)

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[良い点] ターク様は父君と不仲でいらっしゃいますか。 黒いモヤの出現以降に、何かあったようですね。 父の方から息子を嫌うとは、何か大事があったに違いありません。 ミアってターク様の初恋の女の子でし…
[一言] 花車様こんにちは! 休日にお邪魔しました(´꒳`*) ターク様と父の間に本当に何があったのでしょうҨ(´-ω-`) 次話めっちゃ気になります(´꒳`*)
[良い点] やはり顎髭先輩はお父様だったんですね! それにしても、可愛いミアとターク様の関係が気になるところです。 もしかして宮子と似てるのかな、なんて思っていましたが別人さん! 気になります〜(><…
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