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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第4章 タークの大願

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01 戦火の街ポルールとターク。~やめてくれ!限界だ!~

 場所:ポルール

 語り:ターク・メルローズ

 *************



 ポルールの北に位置するルカラ湿地帯には、五年前まで、キラキラと輝く水をたたえた大きなルカラ湖があった。


 湖を取り囲む広々としたルカラ平原と、その奥にあるルカラの森。砦から眺めるその風景は、まるで一枚の絵画のように美しく、この街を訪れる人々の心を癒していた。


 しかしある日、その異変はなんの前触れもなくはじまった。突然ルカラ湖から粘土のような泥と、真っ黒なモヤが溢れ出したのだ。


 そして瞬く間に、美しかった湖や平原は、ドロドロの沼地に一変してしまった。


 モヤは沼地を覆うように大きく広がり、そこから次々と、凶暴な魔獣があふれ出してきた。


 現れた魔獣たちは、ポルールとルカラの堺にある第一砦をめがけ、一斉に行進をはじめた。


 そして、その日のうちに砦は破られ、労働者たちの活気にあふれていたポルールの街は、すっかり戦場と化してしまったのだった。


 しかし、モヤから現れたのは、巨大な魔獣ばかりではなかった。真っ黒なローブ姿の闇魔導師たちが、魔獣を砦にけしかけていたのだ。



「ゼーニジリアス様の御心(みこころ)のままに……」



 彼らは皆謎の言葉を呟き、まるで自分の意思を持たないかのようだ。その顔は闇のモヤに包まれ、いったいだれなのか判別もつかない。


 ベルガノンの魔法師たちになじみのない、不思議な魔術で魔獣を操る彼らは、本当に不気味で恐ろしかった。


 そして、彼らの操る魔獣たちは、まるで無限かのように、倒しても倒しても、いくらでも湧いて現れたのだった。



 王国軍は、彼らのこれ以上の進行を防ぐため、総力をあげて戦った。


 ポルールとその南にある谷の境にかまえた、第二砦が前線基地だ。


 しかし、二年たっても()()()()()()()は姿さえ見せない。ポルールに現れる魔獣や闇魔導師たちも、増えるばかりだった。



      △



 十六歳になる少し前、私、ターク・メルローズは、大剣を手にポルールへ乗り込んだ。


 そして、剣の師匠であるイーヴ先生や、大魔道士ガルベル様とともに、第一線で死闘を繰り広げた。


 沼地から現れる魔獣は、ほかの場所では見ないくらい巨大だ。全長が六メートルを超えるようなものもしばしば現れる。


 一般の兵士たちのほとんどは、魔獣に近づくことができず、砦から弓や魔導砲を撃つのが精一杯だった。


 ポルールに降り立ち、近接戦で戦っていたのは、イーヴ先生の率いる第一騎士団くらいだ。


 私はその一員として、ポルールを走り回り、大剣を振り回して、魔獣たちを倒しに倒した。


 魔獣たちは、獅子や象など、動物の姿をしており、どれも皆凶暴だ。やはりいちばん恐ろしいのは、巨大な足で踏みつぶされることだった。


 しかし、もちろんそれだけではない。引っかきや噛み付き攻撃、さらには魔法を使ってくるヤツまでいる。


 だがやはり、私の身体能力は、ここでも一人ずば抜けていた。


 騎士団の先鋭たちが、十人がかりで手こずるような魔獣も、イーヴ先生に教えられた強力な剣技があれば一撃だ。


 私の背中に背負った特殊な大剣も、私の強さを揺るがぬものにしていた。


 そして、癒しの加護がある限り、私の体は傷つくこともない。


 私は、ポルールに来てすぐ、街の東に集まっていた魔獣たちを、たった一人で一網打尽にしてしまった。それは当時、第一騎士団が長い間手を焼いていた、巨大な魔獣の大群だった。



 十七歳になるころ、私は戦地での功績を認められ、王から大剣士の称号を与えられた。


 私はこの国の希望として持ちあげられ、国中が不死身の大剣士の話で、祭りのような騒ぎになった。


 しかし、倒しても倒しても、魔獣は沼地から次々に湧いてくる。戦力不足、魔力不足はしだいに深刻さを増していった。



      △



 そして、十八歳になったある夏の日。


 偵察のため一人沼地の奥まで行っていたはずの私は、なぜか谷にある第二砦で目覚めた。


 何日もの間行方不明になっていた私を、イーヴ先生が見つけ出し連れ帰ったという。



「ターク、お前を発見したときの私の気持ちがわかるか?」



 ベッドに座った私の、ぼんやりとした顔を覗き込んだイーヴ先生は、いまにも泣き出しそうな顔をしていた。



「先生、不死身の僕が、なぜ意識不明に……?」


「わからない……。しかし、お前を殺せないことに気付いたゼーニジリアスは、お前の精神を破壊しようとしているのかもしれない。ターク、ここは危ない。一度街に戻れ」



 先生は私に、戦地を離れるよう指示を出した。


 彼が私に帰れと言い出したのは、もう二度目のことだった。



      △



 イーヴ先生に街へ帰るよう促された私は、あきれた顔でため息をついた。私は国の希望、不死身の大剣士だ。そう何度も戦線を離れることはできない。



「先生、冗談はやめてください。僕が街に戻ったりしたら、第二砦が破られてしまいます」


「ターク、お前を目覚めさせるため、私とガルベル様はずいぶん苦労した。もう次はないぞ」



 先生はなにかを恐れているようだったが、私は「そんなものに屈するわけにはいかない」と、食い下がった。そして、制止を振り切り、戦線に戻った。


 しかし、襲いくる魔獣を前にして、私の体はピタリとかたまってしまった。



 ――なんだ……? どうして私はこんな場所で戦っているんだ……?



 いままでの私には考えられないような、情けない考えが頭を支配し、動けないまま身体中を食いちぎられていく。


 前のめりに倒れ込んだ私のうえに、普段は気にも止めていなかったような、小型の魔獣が山のように群がった。



「ゼーニジリアス様の御心のままに……」



 気持ちの悪いセリフを呪文のように唱えながら、私に魔獣をけしかける闇魔導師たち。



 ――ゼーニジリアスっていったいだれなんだ。私たちは、なにと戦っている……?



 裂いても砕いても元に戻る私の体を、魔獣たちは何度も何度も食いちぎる。激しい痛みが全身を襲った。



 ――もうやめてくれ! 限界だ!



 私がたまらず涙を流したとき、イーヴ先生が駆けつけ、魔獣の山から私を引きずり出した。



      △



 なくならない魔獣の()()()になってしまった私だったが、傷はいつもどおりすぐに回復した。


 しかし、不思議なことに、いつまでたっても涙が止まらない。イーヴ先生は、血と涙に濡れた私を、力強く抱きしめて言った。



「わかったか? ターク。いまのお前はまだ危険な状態だ。とにかく帰って休め。一人が嫌なら私がついて帰ってやるぞ? どうだ?」



 ()()()()()()()()()()()()()()()


 いつもはそんなことを、しつこく言ってくるイーヴ先生。しかし、実のところ、私をいちばん子供扱いしているのはこの人だ。



 ――いったい、どうしてこんなことに……? 沼地の奥でなにがあった……?



 イーヴ先生の腕のなかで泣きながら、必死に考えてみたが、思い出そうとしても頭痛がするばかりだった。



「ですが……このままでは第二砦が……」



 私がそういいかけたとき、基地の外から騒がしい兵士たちの声が聞こえてきた。



「アグス様だ! アグス様が物資を持ってきてくださったぞ!」


「これで魔力を回復できるぞ! まずはケガ人の治療だ!」


「よっしゃー! 魔導砲を起動できるぞ!」



 外に出てみると、何台もの荷馬車に積まれた大量の物資を背に、一人の男が立っていた。男は顎髭をいじりながら、得意げにニヤリと笑っていた。



 大活躍で大剣士にまでなったのに、急に戦えなくなってしまったターク様。


 それでも戦う! と気合を入れてみても、身体が動かないのではどうしようもありません。


 傷は癒えても心は癒えず……。「どうしてこんなことに」と打ちひしがれているところに、とある男が姿を見せます。


 次回、イーヴ先生に言われるまま、帰り支度をはじめたターク様の目に、目を覆いたくなるような光景が映ります。


 挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 黒いモヤというのは一体何なのか。 ゼーニジリアスというのも意味深ですね。ラスボスでしょうか? 闇魔導師たちも一体どこから、何のためにやってきたのか…… 精神を破壊されかねない危険があった…
[一言] 花車様こんにちは! ターク様の過去。 そして色々とあったはずで大剣士となったターク様。 ターク様に一体何があったのか!? 気になります(っ ॑꒳ ॑c)ワクワク
[良い点] ターク様に突如訪れた異変! どうしたのでしょう。気になります。 顎髭先輩は、もしかしてTwitterで見たあの素敵な挿絵のおじさま? とても楽しみです(^o^)
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