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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第3章 突然の訪問者達

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09 抵抗するな。~宮子は安眠グッズですか?~

 場所:タークの屋敷(ベッドルーム)

 語り:小鳥遊(たかなし)宮子

 *************



「早く記憶を戻したいというなら、今夜はたっぷり加護を与えてやろう」



 そう言ったターク様は、「これでなにも問題ない」と言わんばかりにニヤニヤと笑った。



 ――あわわ。なんだかますます怖いです! それに、結局加護を受けたのではマリルさんに申しわけが立ちません!



「えっ? いえっ、ちょっとそれは……」と、引きつった顔で後退りする私を見て、「なんだ? 問題あるのか?」と、ターク様はまた不満げに顔をしかめた。


 だけど、やっぱり、これ以上ターク様の加護は受けられない。なんとか添い寝を免れようと、私は闇雲に口を動かした。



「えっと……。私の記憶喪失って、加護の力じゃ治らないんじゃないでしょうか?」


「ん? どういうことだ?」


「なんというか、私、やっぱり別の世界から来たので……記憶が喪失したわけじゃないというか……なんというか……」


「別の世界か……。まぁ、あり得ないな」



 バッサリと日本の存在を切り捨てるターク様。彼がこの話を信じていないのはわかっているけれど、はっきりと否定されると悲しくなってしまう。


 しょんぼりと肩を落とした私を見て、ターク様はまた「く……」と、苦しそうに胸をおさえた。



「いや……異世界がないとは言ってないぞ。異世界間の移動は難しいだろうという話だ」



 少し気まずそうな顔で、そう言い直すターク様。



「そうなんですか……?」


「あぁ、転移魔法には膨大な魔力を消費するからな。万が一実現したとして、わざわざお前をよんでどうするんだ?」


「それもそうですね……」


「とにかく、お前の所有者については、私もあちこち手を回して調べているから心配するな。慌てなくてもそのうちわかるはずだ。だが、お前が早く主人の元に戻りたいというなら、もっと急いで調べるとしよう」


「は、はい! よろしくお願いします!」



 急に少し優しくなったターク様にホッとしていると、ターク様はデスクのうえをガサガサと片づけはじめた。どうやら今日の仕事はここまでのようだ。



「まぁ、なんにしても、記憶が戻ればそれがいちばん早い。大丈夫だ、私と眠っていればそのうち治る。さあ、ごちゃごちゃ言ってないで早く寝よう」


「いや、え? でも……」



 早く早くというように、私の肩をおし、ベッドルームへ押しこむターク様。



 ――どうしよう! マリルさんと約束したのに! もう言いわけが出てこない!



 無言で抵抗する私を、ターク様はジロリと見下ろす。


 不満そうに腕組みをした彼は、私の退路を断つように、ベッドルームの扉に背をつけた。



「さっきからなんだ? 記憶を戻したいのか戻したくないのか」


「も、もちろん、戻したいです」


「そうだよな、それに、私に魔力を送って恩返ししたいって言ったよな?」


「い、言いました……けど……」


「なら、なぜ抵抗するんだ? 早くベッドに入れ」


「で、でも……」



「なんなんだ? 私はお前がいないと眠れないのに!」



「はい!?」



 ――な!? なんですか、それ!?



 私が目を丸くして口をパクパクさせると、ターク様は「しまった」という顔をした。


 額に手を当て、首を横に振る彼。疲れのせいか、うっかり口を滑らせたようだ。



 ――え? ほんとに、ほんとに、なんですか、それ!?



「と、とにかく、寝るぞ……」


「ひゃいっ……」



 私は諦めてターク様のベッドに入った。


 命の恩人であるターク様に、「お前がいないと眠れない」なんて言われたら、どうしたって断りようがない。



 ――マリルさん、お許し下さい……。これは、ターク様の安眠のためです……。



 ターク様は、私がとなりに横になったのを確認すると、満足したようにひとつ頷いた。



「私が起きるまでそこにいろよ」


「わかりました……」


「よし」



 彼はまた、あっという間に寝てしまった。だけど、私はなかなか寝付けない。


 ターク様が、あまりにもドキドキするようなことを言うからだ。


 だけどたぶん、深い意味はないのだろう。



 ――だれかいたほうが落ち着く……とかそういうことかな?


 ――それにしてもターク様……本当に、不眠症なんですか……?



 暗くなりきらない部屋のなか、キラキラ光るターク様の寝顔は、母の胸で眠る子供のように安らかだった。

 ターク様と一緒に寝るのを避けようとする宮子に、「お前がいないと眠れない」と口を滑らせたターク様。


 マリルさんがきたことも言えず、宮子はターク様の安眠グッズになる道を選びます。


 次回は第三章最終話です。第四章に入る前に、この物語の重要人物であるターク様の師匠のイーヴ先生と、妹弟子のカミルさんをターク様目線で簡単にご紹介します。


 挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[良い点] やっぱりターク様も宮子がいないと寝られないこと、自覚しているんですね! 物理的な距離感の近さと、精神的にいま一歩なところが魅力なのだと、今日もニヤニヤさせていただきました。素敵なお話、あり…
[良い点] ターク様の言う通りで、何故に宮子を異世界へと転移させるのかというところが意図不明すぎます。 そして達也もどうなっているのかとかも…… 膨大な魔力さえあれば可能ということでもありますし、色…
[一言] 宮子は結局ターク様と寝る事に… でもこれからどうなって行くのかがめちゃくちゃ気になります(っ ॑꒳ ॑c)
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