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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第3章 突然の訪問者達

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06 私は自由!~護衛は黒猫?~[挿絵あり]

 場所:タークの屋敷(書斎)

 語り:小鳥遊(たかなし)宮子

 *************



 カミルさんが帰ると、ターク様はすぐに、屋敷の修復と、私の護衛の手配をはじめた。



「護衛にピッタリのヤツがいる。サーラ、ライルを探してこい」


「かしこまりました!」



 しばらくしてターク様のもとにやってきたのは、真っ黒な猫耳と尻尾を生やした小柄な少年だった。



「ミヤコ、今日の護衛のライルだ」


「わぁ~! ステキ! 獣人さんですね!? 前に窓から見かけて、ずっと会ってみたかったんです! よろしくね、ライル君!」


「ライルでいいよ。今日は僕がついて歩くから、安心して」


「ありがとう!」



 はじめて間近で見る本物の猫耳に、私は思わず興奮してしまった。黒いツヤツヤの髪の間から、ひょっこり飛び出したフサフサの耳。それが、時折音を拾っているのか、ぴくぴくと動いている。


 私が目を輝かせていると、ターク様は不思議そうな顔をした。



「なんだ、ライルが気に入ったのか?」


「はい! すごく可愛いです!」


「可愛い? ライルは魔女の遣いだぞ」


「魔女の遣い?」


「うん、僕は大魔道士ガルベル様の飼い猫だからね。獣人というよりは化け猫かな」


「ば、化け猫!?」


「うん、見てて!」



 ライルはそう言ったかと思うと、みるみる小さくなって、あっという間に黒猫の姿になった。



「きゃ! なんて可愛い猫ちゃんなの!」


「えへへ。ありがとう、ミヤコ」


「変身できるなんて、すごいね、ライル!」



 小さな黒猫ちゃんになっても、ライルは口を動かしてしっかり人間の言葉を話す。語尾に「にゃ」と、付いていないのが少し惜しいけど、これはこれですごく可愛い!


 私がますますはしゃいでいるのを見て、ターク様は苦笑いを浮かべた。



「大抵のやつは、ライルを見ると不吉だと言って逃げるんだがな。だが、気に入ったならよかった。ライルは見た目よりずっと強いし、こいつがいればだれも近づかない。護衛にピッタリだ」


「まったく、不吉だなんて、失礼だよね」



 ライルは不満そうにそう言って、また少年の姿になった。ライルがニカッと笑うと、鋭く尖ったギザギザの歯が剥き出しになり、ぬらりと光る。



 ――確かに、魔女が飼っている化け猫だなんて紹介されると、この笑顔は少し不気味かも……。


 ――だけど、こんなに可愛い猫耳少年を、皆が避けるなんて。


「よし、頼んだぞ。では、私は今度こそ出かけるが……。ミヤコ、魔力が溜まったいまの状態は、前よりさらに危険だからな。ライルがいるとは言え屋敷の外には出るなよ」


「はい! ターク様、ありがとうございます!」



 ターク様はニコニコしている私を見て、「少し不安だな」という顔をしながら、念をおして出かけていった。



「僕に頼み事をするなんて、タークはずいぶんミヤコが大事なんだな」



 ターク様が屋敷を出ると、とライルがぽそりと、そう呟いた。


 確かに、たまたま拾ってしまったゴイム相手に、ターク様は少し過保護な気がする。


 こんな風に心配されると、あの、林間学校前の達也をついつい思い出してしまう。


 だけど、きっとそれだけ、私のいまの状態が危険なのだろう。



      △



 私はとりあえず、メイドさんから掃除道具を借りて、ターク様の部屋を掃除して回った。


 ターク様の部屋……と、一言で言っても、書斎に書庫、ベッドルームとバスルームに、客室もあわせるとかなりの広さだ。


 特に客室は、ステキなテーブルとソファがいくつもあり、グランドピアノのような大きな楽器も置かれていて、とても豪華な作りになっていた。


 メイドさんたちがいつも綺麗にしてくれていたけれど、花瓶やテーブルがひっくりかえってしまっている。これは、なかなかやり甲斐がありそうだ。


 修理に来た職人さんたちの邪魔にならないよう気をつけながら、壊れた破片を拾い、こぼれた水を拭き取った。日頃の感謝を込めて、窓や壁も、ピカピカに磨きあげる。



 ――楽しい♪



 掃除を楽しんでいた私だけれど、ふと、間近に人の気配を感じ、振り返った。壁を修理していた作業員が一人、私のことをじっと見ている。



「ふーん。お前が噂の、領主様が拾ったゴイムか? なんでか主人がわからねぇってな?」


 そんなことを言いながら、男がどんどん距離を詰めてくる。



「すげー、なんだこの魔力量。ちょっとおこぼれに与りたいもんだ」



 ニヤッと嫌な笑顔を浮かべた彼に、嫌な記憶がフラッシュバックして、私は「ひっ」と、小さな声をあげた。するとライルが、ニカッと笑顔を浮かべて男に声をかけた。



「ミヤコと話したいなら、僕をとおしてくれる?」



 いつの間に男の隣に立っていたのだろう。音もなく近づいてきたライルに驚いたのか、男は、「チッ」と舌打ちしながら作業場に戻っていった。



「すごいわライル! ありがとう」


「えへへ」



 ライルは、相当皆から恐れられているようで、ライルの姿を見ると、皆慌てたように逃げていった。


 理由はわからないけれど、黒い化け猫自体が、この世界では忌み嫌われているようだ。



 ――これなら多少屋敷内をウロウロしても大丈夫そうね。


 ――お世話になっている人たちへの恩返しに、クッキーを焼きたいと思っていたのよ。


 ――いまがチャンスだわ!



      △



 私はライルに案内してもらい、三階にあるターク様の部屋から、一階にある厨房へ移動した。


 と言っても、厨房に行くためには、一度建物を出て庭を歩き、使用人用の入り口から入りなおさないといけなかった。


 ターク様のお部屋と、それ以外の場所は、建物のなかでは、つながっていないらしい。


 領主のお屋敷は人の出入りが激しいため、お部屋に勝手に人が入ってこないように、ということのようだ。


 ターク様が「部屋から勝手に出るな」と、しつこく言う理由が、ようやくわかった気がする。


 領主用の入り口を出た途端、使用人やら兵士やら領民やら、本当にたくさんの人が私をもの珍しそうに眺めた。


 腕に刻まれたゴイム印は、青黒い光を放っていて、服の上からでもよく目立つのだ。


 このなかに、あの日の大男のような人が混ざっていても、全然不思議じゃないと思う。ライルがいなかったら、逃げて帰りたくなりそうだった。


 屋敷の厨房も、私の想像よりはるかに広く、料理人もたくさんいて、皆忙しそうだった。


 ここは、私やターク様だけでなく、この屋敷で働いている、皆の食事を用意している場所のようだ。



 ――これはちょっと、クッキーは無理そうかな?



 そう思いながらも、私は遠慮がちに彼らの一人に話しかけてみた。



「あのぅ、お世話になってる皆さんに、クッキーを焼きたいんですが、少しキッチンを使わせてもらえませんか?」


「はぁ? だれだお前。邪魔だ邪魔だ。あっちへ行け」



 無理かもとは思っていたけれど、あまりにも取り付く島がない。


 邪険にされた私がしょんぼりしていると、またライルが隣に来て、ニカッと料理人たちに笑いかけた。



「ミヤコの好きにさせろというのが、タークの命令だよ」



 すると、わかりやすすぎるほどに、彼らの態度は急変した。



「お、おぉ、それなら仕方ないな。材料も道具も好きに使っていいぞ」


「え、いいんですか?」


「もちろんだ。困ったら手伝うから言ってくれよ? お嬢ちゃん!」



 ターク様の命令だからなのか、ライルが怖いからなのか。そもそも、ターク様がいつの間にそんな命令を出したのかもわからない。


 だけど、料理人さんたちは、そのあと、ものすごく親切に私を手伝ってくれた。


 材料や道具を準備してもらい、石窯の使い方も教えてもらって、美味しいクッキーを焼くことができた。



「なんて楽しいの! なにかできることがあるって最高だわ!」


「よかったな、ミヤコ」


「ライル、ありがとう。あなたのおかげだよ」


「えへへ。気にしなくていいよ。報酬はタークにたっぷり請求するから」



 ライルはそう言うと、楽しそうにニカッと笑った。この笑顔は猫好きの私も、やっぱり少し不気味に感じる。



 ――すごく可愛らしくて、頼もしい猫ちゃんだけど、ターク様になにか要求する気満々みたい……。ターク様、もしかして私のために、無理をしたのでは……?



 私は少しドキドキしながら、「ははは」と苦笑いを浮かべた。



「ミヤコ! ここにいたのね。お部屋の修理はもう終わったわよ」



 クッキーが焼きあがったころ、とおりかかったサーラさんが、私に声をかけてくれた。



「サーラさん! クッキーを焼いたんです。ぜひ、食べてみてください! 日頃のおれいです」


「えぇ? 本当に? ありがとう」



 私は作ったクッキーを、感謝の気持ちを込めて、メイドさんたちや、料理人さんたちにも配って回った。それから、ターク様の分は可愛く包んで、書斎のデスクの上に置いた。

 可愛い猫耳少年を護衛に付けてもらい浮かれる宮子。ですが、ライルがターク様に報酬を要求するつもりであることを知り、ちょっと心配になります。


 ライルはいったいターク様になにを要求したのか……。それがわかるのは第四章になります。


 次回、なんと、ターク様の婚約者、マリルさんがターク様の部屋にやってきます。大丈夫でしょうか。


 挿絵(By みてみん)

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[良い点] ここでライルが出てきましたか。 ターク様とはどのような関係なのでしょうか? 頼みごとをできる仲で、ひとまず利用しあえるみたいですが。 そしてライルの目的とは何か。 大魔道士ガルベルとは何…
[一言] おはようございます! ターク様より紹介されたライルのお陰で部屋から出れるようになった宮子。 良かったですねぇ! そして何やら怪しい雲行きになりそうですが先が気になります! あ!俺にもクッキー…
[良い点] ええええ! 次回マリルさんがターク様の部屋に!? 大変だ!(ノД`)たいへんだぁぁ! それにしても宮子、ターク様に差し入れだなんて(*´Д`*) 罪な子よ(*´ω`*)スキ
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