表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第3章 突然の訪問者達

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/247

03 やってきたフィルマン様2~ターク様の初恋の味~[挿絵あり]

 場所:タークの屋敷(書斎)

 語り:小鳥遊(たかなし)宮子

 *************



「フィルマンさん、はじめまして。私、宮子と言います」



 私の挨拶で、はじめて私の存在に気付いたフィルマンさんは、驚いたように目を(またた)いた。



「おぉ、驚いた。こんなところにこんなちいこいのがおったんか。この(むすめ)は、新しいメイドか?」


「いえ、彼女は屋敷の前で倒れていたのを、使用人が拾ってきまして……」



 フィルマンさんは私の腕の刻印を見ると、思い出したようにうえを向いた。顎に生やした三つ編みのヒゲを、もみもみといじっている。緑色で艶もあって、可愛らしいヒゲだ。



「ふーむ、これは……ゴイム印か。なんだか懐かしいわい。ほれ、お前が好きじゃったちいちゃいゴイムがおったろ。ミアと言ったか? お前にもらったスアの実をうまそうに食べおった娘じゃ」


 ――ターク様が好きだったゴイム……?



 なんだかとても気になる話だ。ターク様は否定するでもなく、「見ていたんですか?」と、気恥ずかしそうに返事をしている。



「がっはっは。あれで隠れておるつもりじゃったんか。バレバレじゃ」



 小さなターク様が、好きな女の子と隠れてこっそり木の実を食べる。そんな様子を想像すると、なんだかすごく微笑ましい。


 そんなことを思いながら、私はターク様に渡されたスアの実を口に入れてみた。それは赤く瑞々(みずみず)しくて、ブドウのように甘酸っぱい。



 ――これが、ターク様の初恋の味ね!?



 なんてことをついつい考えてしまう私。



「本当、すごく美味しいです!」


「そうじゃろ、そうじゃろ。こやつがちょうど十歳のころじゃったか、スアの実がほしくて一人で森に入りよってな。迷子になって大騒ぎになったんじゃよ」


「え? ターク様が迷子に?」



 フィルマンさんの思い出話に、私は目を輝かせた。ターク様の子供のころの話なんて、ターク様は絶対しないし、メイドさんたちだって知らないはずだ。


 こんな機会はない! と、スアの実片手に身を乗り出す。


 私の相槌がうれしいのか、フィルマンさんも上機嫌だった。


 ターク様は少し顔をしかめながらも、黙ってスアの実を食べている。彼は本当に、スアの実がお気に入りのようだった。



「そうじゃ。あのときはタークがいないと大騒ぎになってな。ガルベルが水晶でこやつの居場所を占って、それで森にいるとわかったんじゃよ」


「水晶? ガルベルという方は占い師さんですか?」


「いやぁ、あれはそんな可愛いもんではないわい。恐ろしい魔女じゃ。わしも何度か殺されかけたわ」


「えぇっ!」


「それでイーヴがな、あ、イーヴというのは、こやつの剣の師匠をしているやつなんじゃが。あれが慌てよってなぁ。べそをかいて走りまわっとってな」


「ターク様のご師匠様は、ターク様を大切にされてるんですね!」


「そうじゃよ? みんなこやつが可愛くてしょうがないんじゃ。タークは可愛いじゃろ?」


「はい、可愛いですね!」



 朝から機嫌のよかったターク様を、「可愛いすぎる!」と、思いながら眺めていた私は、フィルマンさんに質問され、思わずそう叫んでしまった。


 はっとしてターク様を見ると、彼はすっかり表情を失くしてかたまっている。やはり可愛いと言われるのは気に入らなかったようだ。



「それでなぁ。イーヴが森でやっとタークを見つけて帰ってきたら、タークが金ピカになっておったもんじやからなぁ。もーたまげたのなんのって……」


「えぇっ!? いったい森でなにがあったんですか?」


 ――ついにターク様がピカピカになった理由が明らかに!?



 私が興奮して身を乗り出すと、ずっと不満そうな顔をしていたターク様が、突然話を遮った。「もう限界だ」と言わんばかりの顔だ。



「フィルマン様、いい加減昔話はやめてください。僕はそろそろ出かけないと。いろいろと約束があるんです」


「あー、そうか……すまんすまん。あ、そうじゃ、最後にひとつだけ、頼みがあるんじゃ」


「なんですか?」


「タークよ。ワシはカミルが心配じゃ。あやつ、ときどきずいぶん森の奥まで入っておるようじゃからの。だがあの森には近付かんほうがいい場所がある。ターク、お前も気をつけてみていてやってくれ。カミルはケガが多いでの」


「わかりました」



 フィルマンさんは「頼んだぞ」というと、よいしょと腰をあげた。天井に当たらないよう頭を下げたまま、扉のあった場所を身体を傾けてくぐっていく。


 私はその様子を、カミルってだれなんだろう、と思いながら眺めていた。もっともっと、フィルマンさんからターク様の話を聞きたかった。


 扉をくぐり終わると、フィルマンさんは振りかえって言った。



「ミヤコよ、じじいの昔話を聞いてくれてありがとうな。楽しかったわい」


「私もすごく楽しかったです」


「ミヤコはええ()じゃわい。それじゃ、ターク、また会いにくるよ」


「屋敷が壊れるので来ないでください。こちらから会いに行きますから」



 困り顔でフィルマンさんを止めるターク様。



「そうか? ならミヤコを連れてこい。約束じゃぞ? 連れてこんとこっちから会いにくるからな!」



 フィルマンさんは私を気に入ったらしく、ターク様にそう念をおして、また屋敷を揺らしながら帰っていった。ズシーン、ズシーンと重力を感じる大きな振動が、お腹の底に響いてくる。


 ターク様と私は、しばらく呆然としながら、その後ろ姿を見送っていた。



 挿絵(By みてみん)

 ターク様の初恋に興味津々の宮子。話は途中までしか聞けませんでしたが、ターク様は森へ木の実を取りに行って迷子になり、不死身になって帰ってきたようです。


 詳しくは五章にてターク様目線でお話します。


 次回、フィルマン様の散らかした部屋に、今度はカミルがやってきます。


 挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


こちらもぜひお読みください!



三頭犬と魔物使い~幼なじみにテイムされてました~





カタレア一年生相談窓口!~恋の果実はラブベリー~

― 新着の感想 ―
[良い点] ゴイムが好きな子だったとは、ターク様にキラキラ青春の歴史ありですね。 それが宮子に優しい理由に繋がっていたりするのでしょうか? 宮子とミア、ターク様と達也のように名前も似ていて意味深かもで…
[一言] 花車様おはようございます! フィルマンさまは楽しいおじいちゃんでしたね! これからの展開も楽しみです(* ᴗ͈ˬᴗ͈)”
[良い点] ほうほうほうほう(。・ω・。) ミア……宮子( ˘ω˘ )ぬふふふ 妄想楽しい(о´∀`о) 宮子たちに会いにくることがすっかり1日の癒しとなったうさみちです。 明日もまた会いに来ます*…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ