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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第3章 突然の訪問者達

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02 やってきたフィルマン様1~屋敷を破壊しないで下さい~

 場所:タークの屋敷(書斎)

 語り:小鳥遊(たかなし)宮子

 *************



「ひゃあっ。地震!?」



 ターク様との朝食のあと、忙しそうに出かける準備をしている彼を眺めていると、突然床が大きく揺れた。


 少し離れたところから、一瞬で移動してきたターク様が、ふらつく私を素早く支えてくれる。



 ――なんて軽やかな動き! さすが異世界!



 ターク様の人間離れした動きに、思わず感心してしまったけれど、いまはそんな場合ではなかった。


 ズシーン! ズシーン! バキバキ! っと、巨大ななにかが、ものを壊しながら近づいてくる音が聞こえる。



「なんだ!? なんの音だ、屋敷が揺れてるぞ」


「あっ、花びんが落ちそうです!」



 花びんをおさえに行こうとする私を、ターク様が引き戻す。



「ミヤコ、いいから私から離れるな!」



 大きく揺れたシャンデリアがガシャーン! と音を立て天井にぶつかったかと思うと、バラバラになって頭上に落下してくる。



 ――あぶない!



 と、思うより早く、「シャイニングシールド!」とターク様が叫び、その手に金色に輝く光の盾が出現した。


 ターク様は私を背中に隠し、光の盾でシャンデリアの直撃を防ぐ。



 ――すごい! 魔法の盾、はじめてみたわ! かっこいー! 眩しー!



 ヒール以外のターク様の魔法をはじめてみた私は、思わず目を輝かせた。なんて不思議で大迫力なんだろう。


 だけど、やっぱり感動している場合ではなかった。揺れはまだ治らず、ズシーン! ズシーン! と大きな音が近づいてきている。



「あぁ! ターク様、今度は書棚が、書棚が倒れます!」


「シャイニングシールドアタック!」



 ターク様は二枚目の盾を遠隔操作し、書棚をおさえた。ちょっとだけダサい気がする呪文を叫ぶターク様に、少しほっこりしてしまう。



「あぁっ、せっかく溜まったターク様の魔力が……」


「いまは気にするな!」


「もうそこまで来てます。巨大な魔物でしょうか?」


「いや、この足音は……」



 息を呑んで音のするほうを見守っていると、ギギーっと歪んだ扉が開き、山のように巨大な男が部屋のなかを覗き込んだ。



「フィルマン様!」


 ――え!? この人が、ターク様が治療していたフィルマンさん!?



 お猿のような大きな顔に、ツルツルの頭。顎にはもじゃもじゃと緑がかったヒゲが生えているけれど、お爺さんと言うには大きすぎる。



 ――これは大男なんてレベルじゃない……! 本物の巨人だわ!



 フィルマンさんは頭を下げ、横になって、歪んだ扉から室内に身体をねじ込んだ。バキバキッと大きな音がして、扉が外れ、周りの壁がへし曲がる。



「おーい! ターク! 土産を持ってきてやったぞ」



 ターク様は光の盾を出したまま、口をあんぐりと開いてその様子を眺めていた。光っていて非常にわかりにくいけれど、どうやら青ざめているようだ。


 フィルマンさんのあまりの大きさに、私は思わずターク様の後ろに隠れた。


 巨大な身体がなんとかしてターク様の書斎に入ってしまうと、後ろから困り顔のアンナさんが入ってきて、申しわけなさそうに頭を下げた。



「ご主人様、すみません、お止めしたんですが……」


「気にするな。この爺さんはだれにも止められない。それより、危ないからここから離れていろ」



 ターク様はアンナさんにそう言うと、書斎の床に座り込んだフィルマンさんに向きなおった。



「フィルマン様、いきなりなんですか? 屋敷を壊すのはやめてください」


「いやあ、やっとつらかった腹痛が治ったからの~。嬉しくて。タークには世話になったからな、土産をもってきてやったんじゃ」



 フィルマンさんはそう言うと、大きな風呂敷を床に広げた。風呂敷の中身はなんと、大量のキノコだった。



「フィルマン様、もういい歳なんですから、森で拾った不思議なキノコを食べるのはやめてください。治療に何日かかったと思ってるんですか?」



 ターク様は色とりどりのキノコを眺め、落胆したようにため息をついた。


 私はようやく、彼が四日も屋敷を空け、ヘロヘロになって帰ってきた理由を理解した。


 急病だとは聞いていたけれど、どうやら、キノコの拾い食いが原因だったようだ。



「やーすまんかったな。じゃがワシはまだ六十じゃ! まだまだその辺の若造より元気じゃよ。さぁさ、このキノコは美味しいやつじゃ、安心して食べれ食べれ」



 フィルマンさんは笑顔でキノコをつまむと、ターク様の目の前にひょいっと差し出した。手がものすごく大きいので、キノコもターク様も小さく見える。


 ターク様が「生ではちょっと……」と、困り顔で断ると、フィルマンさんはそれをポイっと自分の口に入れた。



「そうか? 普通にうまいぞ。あ、あとな、この木の実、お前好きじゃったろ」



 フィルマンさんはもうひとつ包みを取り出して、また床に広げた。ターク様はそれを見ると、今度は嬉しそうに目を輝かせた。



「あ! これは、スアの実ですね! 最近森でもすっかり見かけなくなったと聞きます。こんな希少なもの、よく見つけましたね!」


「そうじゃなぁ、昔は少し探せばいくらでも見つかったんじゃが。近頃は腹が痛くなる植物ばかり増えてなぁ」


「普通の人なら即死するような植物も多いようですからね。無闇に味見するのはやめてくださいよ」


「がっはっは! 大丈夫じゃよ。めったに間違わんから。ほれ、この木の実は本当に美味しいやつじゃから。食べれ食べれ」



 また顔の前に差し出されたスアの実を受け取ると、ターク様は自分の後ろに隠れていた私を振り返った。



「ミヤコ、食べてみろ。スアの実は美味いぞ」



 その顔は、いままで見たことがないくらい、ニコニコしている。



 ――うはぁ、笑顔が眩しすぎる!


 ――今日のターク様、本当にご機嫌だわ。可愛すぎて倒れそうなんですけど……。



 あまりの眩しさに目を細めながら、私はスアの実を受け取った。



「あ、ありがとうございます!」



 大きくてびっくりしたけれど、どうやらフィルマンさんは、こわい人ではないようだ。


 私はターク様の陰から少し前に出て、フィルマンさんにお辞儀をした。


 屋敷を破壊しながら、ターク様の書斎までやってきたフィルマンさん。


 ターク様の出した光の盾に興奮する宮子。手土産はキノコと、ターク様の大好物のスアの実でした。


 次回、フィルマンさんはターク様の初恋の少女の話をはじめます。 


 挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
タークさまの呪文、ちょっとダサいってあって笑ってしまいました。 扉が…扉がバキバキって壁も!!汗 フィルマンさん豪快すぎる!!でもちゃんと扉から入ろうとしてるのはとても礼儀正しい方なのですね。壊しちゃ…
[良い点] 家を壊されるとは迷惑どころではないです。 ターク様があまり文句を言わないところを見るに、相当の有力者ということですかね。 色々ズレた人ですが、善意の巨人ではあったようですか。 また意外な…
[一言] 読み出すと止まらないですねー。 塩谷さんのレビューの意味がよくわかります! 面白いです。
2023/05/08 23:10 退会済み
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