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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第21章 春風にのって

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11 桜の木の下で。~今からでも出来るはずだ~

 場所:日本

 語り:ターク・メルローズ

 *************



 ミヤコの両親に結婚の承諾をもらった私、ターク・メルローズは、そのままミヤコに連れられ、ピンク色の花が咲き乱れる、川のほとりに来ていた。


 ミヤコは自分の部屋に戻り、いつもの丈の長いワンピースから、日本に馴染む服装に着替えていた。


 ジーンズにキャミソール、カーディガンだと説明されたが、かなり見慣れない服装だ。しかし、正直に言うと、ミヤコは何を着ていても可愛いのだった。



「桜の木ですよ、ターク様!」


「あぁ、美しいな。こんな木はベルガノンにはないぞ」



 ミヤコの淡い黄色のキャミソール姿に見惚れていた私だったが、彼女に話しかけられ、慌てて桜に目を移した。



「春になると、みなこの木の下にシートを敷いて、お弁当を食べながら桜を見るんです。夜になると、ライトアップされて、もっと綺麗ですよ」


「またライトアップか……日本人は夜を明るくするのが好きだな」


「そうかもしれませんね」



 桜の木の下に大きなシートを敷き、私達はそこに座り込んだ。


 周りにはたくさん人がいるが、みな桜に気を取られているらしい。ここに来るまで、多少女性の視線を感じたものの、座ってしまえば思ったほど目立ってはいないようだ。


 私の黒い髪は、ベルガノンではそれだけでも人目に付くが、日本にはよく馴染んでいる。


 ミヤコが水筒から温かい茶をコップに注ぎ、私に渡してくれた。



 ――あぁ、ホッとするな! ホッとするぞ!



 さっき露店で買った、珍しい食べ物も、ミヤコが私の前に並べてくれる。


 朝から緊張しすぎてずっと吐きそうだったが、安心したら食欲が湧いてきた。



「ターク様、これはたこ焼きですよ。中が熱いので気をつけてください。焼きそばもあります」


「ん! 本当に熱いな。でもうまい」



 一時はどうなる事かと思ったが、無事に事が済み、今は本当に幸せだ。


 メルローズ領に戻ったら、すぐにささやかな結婚式をあげ、その後は二人で、どこかに旅行しようと思う。


 寒いのはもう十分だから、海が見える南の島がいいだろう。



 ――もう、私達を邪魔するものは何もないぞ!



 私がそんなことを考えていると、後ろから誰かに肩を叩かれた。



      △



「んぐっ。カミル!?」


「ターク! こんないい場所で、随分幸せそうだね」


 ミヤコと二人の時間を満喫していた私の肩を叩いたのは、なんと、カミルだった。


 カミルはあの、深い藍色の髪をおろし、半円のつばのついた帽子を被っていた。ぶかぶかとした厚手のシャツの上に、肩から吊るされた青いロングスカートを履いている。


 どうやら日本の女性用の服のようだが、こんなゆるっとしたカミルは初めて見た。


 後ろには頭まですっぽりフードを被った、これまたぶかっとした服装のコルニスがいる。



「よくここが分かったな」


「だって僕、何度かタツヤに会いに来てるからね。色々とアグス様に用事頼まれるからさ」


「ご苦労だな」


「だから、こっち用の服も用意してあるんだ。似合うだろ?」


「見慣れないな」


「いや、そこは似合うって言おうよ」



 カミルはそう言うと、となりにいたコルニスの肩をグイッと自分に引き寄せて、私の前に突き出した。



「みてみて! コルニスもトレーナー似合うだろ? 僕が選んだんだ。前髪も僕がくくったんだよ」


「わ、大剣士様、お疲れ様であります……!」



 見ると、コルニスの前髪が後ろで束ねられ、珍しく顔が見えている。彼は顔を隠しておきたいようだが、カミルには通用しないらしい。



「コルニスの明るい緑の髪は、ここではかなり目立つからね。コルニスは背も高いし、こうやって隠しておかないと通りがかりの人が全員振り向くよ。丸メガネも目立つから外させたんだ。あれ、伊達メガネなんだって」


「外した方が目立ってないか?」


「え? そうかな」


「コルニス……。本当にご苦労だな。カミルの相手は大変だろうが、しっかりやってくれ」


「はいっ! たゆみなく努力する所存です!」


「ターク、なんだよそれ。コルニスも、なんで僕とタークでちょっと対応違うの?」



 相変らず大変そうなコルニスに、労いの言葉をかけていると、彼の後ろにもう一人、男が立っていることに気付いた。



 ――ん? 誰だあれ。まさか、父さんか!?



 なんと、ピンクのシャツを着た父さんが、目を細めて桜を見上げている。


 ミヤコより濃い色のジーパンを履いて、肩にはグレーのカーディガンがかかっている。



 ――なんなんだ?



 思わずたこ焼きを落としそうになったが、これがなかなか似合っていた。


 周りの通行人が、父さんを振り返り、「きゃ! イケおじがいる!」と囁いているのが聞こえてくる。


 意味はわからないが人気のようだ。



「ターク、結婚は認めてもらえたようだな」


「はい、父さん!」


「よかったね、ミヤコちゃん!」


「カミルさん、ありがとうございます!」



 私から癒しの加護が消えて以来、父さんはいつも穏やかな顔をしている。


 多大な心配をかけてしまっていたことを、私は改めて痛感していた。



「父さん、たこ焼きを食べませんか? 焼きそばもあります」


「あぁ、なんだか分からないが美味そうな匂いだ」



 父さん達がシートに腰を下ろすと、「お茶を入れますね」と、ミヤコが紙のカップを取り出した。


「側面は熱いので底と上を持って下さいね」



 丁寧に教えながら父さんに茶を差し出すミヤコ。父さんは嬉しそうにニコニコしながらそれを受け取った。



 ――父さんはずっと、私の幸せを願ってくれていた。


 ――ミヤコがいれば、今からでも十分親孝行出来るはずだ。



 胸に何か込み上げるものを感じて、勝手に涙があふれそうになるのを、私はぐっと堪えた。



      △



「いたいた。やっとみつけた!」


「わぁー! 素敵な場所!」



 しばらくすると、タツヤとミレーヌ、それからミヤコとタツヤの両親も、両手に大量の食べ物を持って現れた。



「本当にあれ、達也じゃなかったんだな」


「え? お父さん、まだそこ疑ってたんですか?」


「宮子のそっくりさんまで現れて、頭がクラクラしてるよ」



 私とタツヤを見比べ、さらにミヤコとミレーヌを見比べて、ミヤコの父さんが目を回している。



「どうもタークの父、アグス・メルローズです」


「わ、え? イケおじ!」


「お母さんったら、やめて!」


「えーっと、すみません、私達、色々と頭の整理がついてませんで。だれですって?」



 ミヤコの両親は、既にかなり、いっぱいいっぱいな様子だ。


 後で疲れて倒れてしまわなければいいがと、思わず心配してしまった。


 そして、タツヤの父親は、意外にも私の父さんと、全く似ていなかった。少し丸くて、どこかフワフワと、とてもやさしそうだ。


 しかし、タツヤの母親は、どことなく、自分の母さんを思い出す。



「いきなり達也が帰ってきて、異世界に行っていたと言われた時は、頭を打ったせいでおかしくなったんだと思ったが……」



 タツヤの両親も、シートに座ると、ミヤコの両親と一緒にまじまじと私とタツヤを見比べはじめた。



「だけど、本当にこんなことがあるなんてねぇ。ノーラちゃんが来た時もおどろいたけど、ターク君も衝撃だわねぇ」


「まったくですねぇ、名城さん」


「小鳥遊さんも、みやちゃんが帰って来て本当に良かったですね」


「こんな奇跡が起きるなんてなぁ。全く幸せなことですね」



 ――本当に善良そうな人達だ。ミヤコやタツヤが朗らかに育つわけだな。



 「よかったよかった」と言いあって、ニコニコする四人を見ていると、申し訳なさが胸にこみ上げてくる。



 ――この人達は、いったい、どんな思いで二人の帰りを待っていたんだ?


 

 そんな事を考え始めると、私の胸は締め付けられるように痛んだ。この人たちに辛い思いをさせたそもそもの原因は、私が一人突っ走って、沼地のモヤの中へ、偵察に行った事にあるのだ。


 もっと遡れば、一人で勝手に、森へ行ってしまったからだ、とも言えるのだが……。



「……ミヤコとタツヤには、本当に世話になりました。ご両親にも、多大なご迷惑と、ご心配をおかけして……」



 私が思わず謝罪をはじめると、タツヤの母さんは、慌てた顔でそれを遮った。



「あー、いいのいいの。達也が帰って来て、みやちゃんの顔もまた見れたんだもの。それだけで十分よ。ターク君、あなたも、無事で良かったわね」


「は、はい……」


「今日はお花見だから、そんなうつむいてないで、上を見なきゃね?」


「はい……! ありがとうございます!」



 タツヤの母さんが、私に向けてくれたその笑顔が、なんだかとても懐かしく感じて、また何かが込み上げてくる。



 ――どうして怒らないんだ? 花見だからなのか?



「あー、ターク泣いてない?」


「泣いてないぞ」



 カミルに顔をのぞき込まれ、余計に顔が熱くなったが、桜を見ているふりで上を向き、今回もなんとか、涙は持ち堪えた。


 タツヤは同じ顔が二人並んでいると、目立ちすぎると思ったのだろうか。鍔のついた帽子に色付きのメガネをかけ、その顔を隠しながら「まぁ、異世界転移は最悪だったけど、僕はもう気が済んだよ」と私のとなりで、ボソリとつぶやいた。



      △



 カミルの興味は、すぐに私から、女王になったばかりのミレーヌに移り変わった。



「ミレーヌちゃん! こんな所に来てて大丈夫なの? 女王のお仕事は!?」


「ちょっと抜け出してきちゃいました。何をするのも堅苦しくて大変なんですよ」



 あのミレーヌがまさか、クラスタルの女王になるなんて、今でも少し信じられないが、彼女の決意のおかげで、私はとても助かっていた。


 普段は大人しく見える割に、こういう大きな決断を、勢いよくやってしまうところが、彼女はやはり、ミヤコと似ている。


 しかし、女王になってからは、決して勢い任せではなく、細かい気配りをしながら、クラスタルをうまく立て直しているようだ。



「ミレーヌ、本当にお疲れ様! お茶入れるからゆっくりしてね」


「ありがとう、ミヤコ!」


「ねぇ、ミレーヌちゃん。また夏になったら日本にきてよ。睡蓮の咲く小池に連れて行ってあげるよ」


「わぁ、楽しみです!」


「いいね~僕も行きたい! その時はミア達を連れて来るね」


「隊長が行くなら、自分も行きます!」



 皆でわいわいしているうちに、日が暮れてきた。


 地面からの照明と、真っ赤な提灯で、桜の木がライトアップされていく。


 その光で川の水面も輝き揺らめいて、その景色は奇跡のように幻想的だった。



 宮子とお花見に来たターク様の元に、みんなが集まってきました。ずっと自分を心配してくれていたお父さんや、宮子と達也の帰りを待っていた彼らの両親に、申し訳なさと、感謝の念が湧いてきます。だけどカミルの前では、出来れば泣きたくないターク様なのでした。


 何か色々書き足しているうちに、二話分の長さになってしまいました。次はいよいよ最終話です!


次回、第二一章第十二話 ミヤコとメルローズ。~お前が願ってくれるから~をお楽しみに!



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[良い点] なんだかエンディングが近づいてきたって言う感じですね。まさか女王のミレーユまでくるとは……! 両親たちの理解も得られて、良かったですよね。 さぁ、次話こそがエンディング。 切ないですが楽し…
[一言] ああ…これは癒されますねぇ、。 こう考えると日本の文化ってやっぱり俺は好きだなあ 。 そしていい方素敵な人達がこうして何かに興じるのは本当にほっこりしますね! 花車様の話に癒されました(* …
[良い点] 和やかな雰囲気の非常に楽しげな場面で良かったです。ターク様はやっと異世界に転移させられることが、どれだけ現代人にとって迷惑か、また、アグズ様の思いも身に沁みたようですね。そこもまた良かった…
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