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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第21章 春風にのって

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245/247

10 我儘な二人。~心配かけてごめんなさい~

 場所:日本

 語り:小鳥遊宮子

 *************



 お父さんの機嫌が悪くなってしまい、ピリピリする空気の中、私は話の続きをはじめた。


 私がターク様に電撃剣を落としたこと、達也が魔物になりかけたこと、ターク様が不死身じゃなくなったこと……。話せば話すほど、お父さんの顔色が悪くなっていく。



「なんて恐ろしい世界なんだ。そんな場所で、宮子が戦っていたなんて……」


「大丈夫だったよ? ターク様もみんなも、すごく強いから、私なんて歌ってただけで……」


「達也が結婚とか言っていたが、まさか宮子、ターク君と結婚して、その恐ろしい世界で暮らすつもりなのか?」



 押し殺したような声で、私にそう聞いたお父さん。ターク様が結婚の話を切り出す前に、お父さんに先手を打たれてしまった。



 ――これはちょっと、思ったより反対されるかも……?



 お父さんもお母さんも、やさしくて、私は小さい頃から、殆ど怒られたことがなかった。


 だからてっきり、正直に話せば、簡単に許してもらえると思っていたのだ。


 だけど、異世界の話は、お父さんには衝撃が強すぎたのかもしれない。


 ターク様がケーキの好きな王子様だと、達也がこの二人に話したのは、「そのまま話を合わせておいた方がうまくいくよ」という、達也からのメッセージだったようだ。



 ――それならそうと、言ってよ! 達也の意地悪!



 ニヤッと笑う達也の顔が脳裏に浮かんで、私は思わず唇を噛んだ。



 ――だけど、私また、楽観的すぎたみたい。



 口籠もってしまった私の代わりに、ターク様が口を開いた。



「僕のプロポーズを、ミヤコは受け入れてくれました。結婚して、二人で幸せになりたいと思っています。だけど、僕は、国や領地に責任があります。こちらで暮らすことは出来ません。ミヤコを連れて行かせてください」



 ターク様のはっきりとした口調に、お父さんは顔を顰めて黙り込んでしまった。


 そんなお父さんを尻目に、お母さんはなぜか、ニコニコしながら、感心したようにうんうんと頷いている。



「それにしても、すごいわ。宮子、成長したわねぇ」


「え?」




 ――どういう流れでそんな話になったの?



 私がキョトンとしているのを見て、またニコニコ笑うお母さん。



「だって、お母さん、あなたに我儘なんて、言われたことなかったもの。たまにはお母さんぽく怒ってみたりしたかったけど、悪いことなんて何にもしないし。お父さんもずっと、宮子に我儘を言われてみたかったって、言ってたわよねぇ?」


「そ、それは、言ったな……」



 お母さんの問いかけに、お父さんが何か思い出したように、ギュッと寄せていた眉を緩めた。



 ――だって、我儘なんて言う前に、希望は全部叶ってたから……。



 日本にいた頃の私は、この子煩悩な両親と、達也にひたすら甘やかされ、いつだって満たされていた。


 それが両親に、そんなことを思われていたなんて。


 改めて私は、幸せ者だ。



「宮子が自分の我儘を突き通し、異世界に残るなんて、余程だな……」


「そうよね。すごい事よ? それに宮子は、いじめられても、少しも怒らないで、いつも他人事みたいな顔してたでしょ? あれも毎回、心配してたわよ。ねぇ? お父さん」


「そうだな。確かにそれも、心配だった。心が広いのは良いことだが、我慢のし過ぎは良くないぞ」



 お父さんがまた、お母さんに導かれるまま、うんうんと頷いている。



 ――我慢のしすぎ?


 ――そんなつもりはなかったけど……そう見えるのかな?



「そんな宮子が、やきもちを焼いて雷を落とすなんてな。お父さん、想像もつかないよ」


「そうよね? だけど、そんな風に人を好きになれるなんて、すごいことよ。好きな人どころか、友達だって、ずっと達也君しかいなかったじゃない。それなのに異世界では、素敵な仲間ができたみたいで、安心したわよ。ねぇ? お父さん」


「そうだな、仲間は大切だ」



 ――わ、達也しか友達いないとか言われてる。そんなことは……あるけど……。


 ――だって、達也が、すぐやきもち焼くから……。



「こんなに立派に自分の意志を通して、人のために歌って認められて、我儘も言って、受け入れてもらって。お母さんは、前よりずいぶん、宮子が素敵になったと思うわ。ねぇ? お父さん、そうよね?」


「そうだな。そうだ。まったく、その通りだよ、母さん」



 お母さんの流れるようなフォローで、お父さんの表情がみるみる変わっていく。



 ――ありがとうお母さん!


 ――だけどまさか、そんな風に心配かけてたなんて、初めて知ったよ!



「お父さん、お母さん、心配ばかりかけて、本当にごめんなさい」



 両親の会話にちょっとした衝撃を受けつつ、私が二人に謝罪すると、お父さんはターク様に向き合い、真剣な顔で、彼に質問を投げかけた。



「ターク君、君は、宮子の我儘を聞くために、永遠の命を投げ出したのか……?」



 お父さんの質問に、ターク様はまた一層、ピンと背筋を伸ばした。



「……僕はあの力を、与えられた使命だと思っていました。力がある限り、国や人の為に、自分は生きるべきだと……。けど僕は、ミヤコと出会って、自分の幸せを願い、それを優先しました。勝手なことだと分かっています。だからこれは、ミヤコのためと言うより、ただの、僕の我儘です。ミヤコは僕に、その決断をする、きっかけと勇気をくれました」


「宮子を連れて行きたいと言うのも、ただの君の我儘か?」


「そうです……」


「そうか。なら親は、息子の我儘を聞くしかないな。いつも言ってもらえるとは、限らないからな」



 お父さんの発言に、私が「えっ!?」と、大きな声を出すと、お父さんは真面目な顔で立ち上がり、ターク様に深々と頭を下げた。



「ターク君、宮子をよろしくお願いします」


「はい! もちろんです! ありがとうございます!」



 真っ黒な瞳を輝かせ、飛び跳ねるように立ち上がったターク様。


 二人はしっかりお互いの目を見ながら、力強く握手を交わした。



「あいったぁー! 君、握力おかしくない?」


「わ。すみません、緊張していたもので……」



 お父さんが、ターク様に握られた手を、涙目でパタパタ振っているのを見て、お母さんがくすくす笑っている。



「お父さん、ありがとう!」


「良かったわね、宮子!」


「お母さんも本当にありがとう!」



 感謝の気持ちを伝えると、また涙が、ぽろぽろと溢れてきた。



 異世界の恐ろしさに黙り込んでしまったお父さんでしたが、お母さんの不思議なフォローで、宮子の成長を感じてくれたようです。


 不死身の力を手放したのは、自分のわがままだったと言うターク様に、お父さんは結婚の許可をくれました!


 残すところ後2話になりました!


 次回、ターク様が浮かれてお花見に行くと……。


 第二一章第十一話 桜の木の下で。~今からでも出来るはずだ~をお楽しみに!



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― 新着の感想 ―
[良い点] なんて素敵なご両親なんでしょう。 心がほっこりしました(*´ω`*)♡ あと1話……。 覚悟していますね(;_;)
[一言] これは!! 花車様おはようございます! これは本当に良かったですね! これもみやこがあまりにも良い子すぎて両親もみやこの初めての自分の意思を伝えてくれたことがよほど嬉しかったんでしょうね! …
[良い点] 宮子を2人とも、溺愛しているのがよく伝わってきました。結局、パパさん、言いなりですね(笑)でも、駆け落ちというのも作品の雰囲気にそぐわないので、こんな感じが皆んならしくて良いも思います。 …
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