09 ただいま帰りました!~達也、これどういうつもり?~
場所:日本
語り:小鳥遊宮子
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ターク様と一緒に、達也の部屋を出た私、小鳥遊宮子は、となりで何度も咳払いしているターク様の背中を押し、懐かしい我が家の門をくぐった。
「お母さん、ただいま、帰りました! 宮子です」
お母さんの声で、「はい」と返事のあったインターフォンに話しかけると、玄関のドアが開き、お父さんが飛び出してきた。
ビシッとしたスーツ姿で、側面を刈り上げたちょっとワイルドな短髪、鍛えられた体つきは逞しくて、相変わらずなかなかの存在感だけれど、前より少し痩せただろうか。
「宮子、本当に、戻ったのか……?」
「お父さん……! 心配かけてごめんなさい」
「あぁ……! なんて奇跡だ」
体を震わせ涙を流すお父さんの後ろから、お母さんも飛び出してきた。
茶色く染めた髪は緩くまとめられ、しっかりお化粧もしているけれど、おどろきに目を丸くしたその顔は、相変わらず、私にそっくりだ。
「宮子! 待ってたわよ!」
「お母さん……。会いたかったよ~!」
私を抱きしめたお母さんの上から、お父さんまで抱きついてきて、私は二人にむぎゅむぎゅと潰されながら、わんわんと声をあげて泣いた。
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「達也、宮子を連れ帰ってくれて、本当にありがとう」
しばらく玄関先で再開の涙を流し合った後、お父さんは、背筋をピンと伸ばしたまま、黙って立っていたターク様に話しかけた。
「あの、僕は、その、タツヤではなくて……」
達也と勘違いされていたことに気付き、焦ったように目を見開いたターク様を見て、お父さんが「え……?」と、不思議そうな顔をしている。
「えっ? て、達也から聞いてるよね? ターク様が、達也と同じ顔だってこと……」
「うん!?」「なんだって!?」
お父さんとお母さんが二人並んで、口をパクパクさせている。
ターク様はそれを見て、少し顔を引きつらせながら、「はは……」と乾いた声を漏らした。
――何これ、達也、どういうつもり?
「と、とにかく、家の中に入ろう!」
固まっているお父さんとお母さんを家の中に押し込み、ターク様の背中も押して、私達はリビングに移動した。
家の中は何も変わった様子がなく、異世界に行ったあの日のままみたいだった。
ソファーテーブルを挟んで両親と向き合って座ると、ターク様の姿勢が、いつも以上にピンと正された。
「おどろいたわ。本当にそっくりね。お母さん、達也君のイタズラかと思ったわよ」
「うーむ、これは俄には信じられないな……」
ただでさえ緊張しているターク様の顔をまじまじと見ながら、何度もそんなことを言う二人。
確かに、今日のターク様は、達也のジャケットを着込んでいるし、二人の見分け方を知らない両親には、達也にしか見えないだろう。
――だけど達也、説明しといてくれるって、言ってたよね?
そう思いながら、改めて両親に目をやると、お父さんはいつもよりいいスーツを着ているし、お母さんも上品なワンピースを来て、まるでちょっといいレストランにでも行くみたいな格好だ。
きっとこれは、結婚の報告があると、達也に言われたからだろう。
――そこまで言っておいて、どうして大事な説明が抜けてるの?
不思議に思って首を傾げていると、お母さんがケーキとコーラを出してきて、私達の前に並べはじめた。
「お、お母さん、どうして今、コーラなの?」
「え? だって、ターク様は、ケーキとコーラが大好物でいらっしゃるのよね?」
「それ、達也の嘘だから! 異世界にコーラとかないよ! それに、ターク様はあんまり、甘いものは……」
「えぇ? 本当に?」
また、大きな声でおどろくお母さんに、ターク様が気まずそうな顔をする。
そんな中お父さんが、改まった顔でターク様に話しかけた。
「えっとぉ、ターク様は、向こうの? 異世界? では王子様でいらっしゃるとか……」
「お父さん! それも嘘だわ!」
「えぇ!?」
達也の適当すぎる説明に、私まで思わず、大きな声を出してしまう。
ターク様は出されたコーラを恐る恐る口に含むと、「クフッ」と、小さくむせてから、表情を整え口を開いた。
「あの、僕は……ベルガノンで剣士をしている、ターク・メルローズです。今日は、お時間をとっていただき、ありがとうございます」
「け、剣士さん……?」
「はい、王国の騎士団に所属してますが、平時は自分の治めるメルローズ領で領主をしています。王子ではなく、伯爵です。どうか、気軽にタークと呼んでください」
「領主で伯爵……?」「騎士団……」
「もう! 達也ったら、どうして嘘しか教えてないの!?」
私に「君の幸せを祈る」、なんて言っておいて、これでは、私とターク様を困らせて遊んでいるとしか思えない。
何か大変なことがあっても、すぐにニコニコのフワフワに戻ってしまう達也は、幼馴染の私ですら、何を考えているのか分かりにくい。
一見いつも通りだからと、油断してはいけないのだった。
私達は仕方なく、出来るだけやんわりと、私達の正しい物語を両親に話して聞かせた。
不死身のターク様にケガを治してもらった事、達也がターク様の中にいた事、皆のために歌を歌った事、仲間たちとポルールを奪還した事……。
それから、私が異世界に残りたがったために、一度だけなら開けるという異世界ゲートの使用を断り、達也も異世界に残ったという話をすると、お父さんは少し、不機嫌になってしまった。
「宮子、ターク君が好きなのは分かるが、お父さんや、お母さんが、心配してるだろうとは思わなかったのか? 帰る方法があるのに、帰らなかったなんて……」
「もちろん、思ったよ。だけど、もう二度とターク様に会えなくなると思ったら、どうしても、帰れなくて……」
「将来有望な達也の受験も邪魔したんだぞ?」
「分かってるけど……」
「宮子が、そんなに我儘な子だったなんて、父さん、知らなかったな」
「ご、ごめんなさい」
私が俯いて黙り込むと、ターク様が「すみません。ミヤコを引き止めたのは僕です……」と、私をフォローしてくれた。
だけど、お父さんは怖い顔で腕組みをしている。
「ふむ。とりあえず続きを聞こうか。それで、何がどうなったって?」
「そ、それでね……」
なんだかピリピリしてしまった空気の中、私達は話の続きをはじめた。
久々に両親との再会を果たした宮子。両親は達也から事情を説明されているはずでしたが、達也は何故か、嘘の情報を吹き込んでいるようです。
両親に馴れ初めを説明し始めた宮子ですが、お父さんが怒り始めてしまいました。二人は結婚を認めてもらえるのでしょうか。
次回、第二一章第十話 我儘な二人。~心配かけてごめんなさい~をお楽しみに!




