表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第21章 春風にのって

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

243/247

08 いざ、日本。~手土産はもってきた?~

 場所:タークの屋敷

 語り:ターク・メルローズ

 *************



「ターク様、その格好はちょっと、日本では目立ちますよ?」


「ん? そうなのか」



 クローゼットの姿見の前で、首元にたっぷりのフリルがついた白いシャツを着込んでいた私、ターク・メルローズは、ミヤコに話しかけられ、ボタンを留める手を止めた。


 今日は、タツヤが作った異世界転送ゲートを使い、ミヤコと共に、日本へ行く約束をしている。


 ミヤコが、「結婚は日本にいる両親に許可をもらわないといけない」と、言うので、私達はこれから、ミヤコの両親に会いにいくのだ。


 結婚に挨拶が必要なのは、当然と言えば当然だが、私は今、これ以上ないくらいに緊張していた。



 ――まずいな……さっき食べたものを吐いてしまいそうだ。


 ――日本に行って、ミヤコの両親に反対されたらどうすればいいんだ?



 つい、こわばった顔をしてしまったせいか、ミヤコが少し心配そうに私を見上げている。



「ターク様、そんなに緊張しなくても平気ですよ。ゲートを潜ったら達也の部屋ですし、私の家はすぐとなりです」


「なんだか近すぎて余計に緊張するな。もっとあちこち冒険してから辿り着くくらいがいいんだが」


「後回しにしても、疲れるだけですよ。うちの両親は少しも怖くないので大丈夫です。達也が先に、事情を説明してくれてるはずですから」



 ――タツヤか……なんだか余計に怖いな。あいつ、私の悪口をミヤコの両親に吹き込んでないか?


 ――だいたい、ミヤコとタツヤがずっと一緒にいた部屋なんか、あまり見たくないんだが……。下手すると、嫉妬で死んでしまうぞ。



 タツヤの部屋は、ずっと前にアーシラの森で見たタツヤの記憶で、だいたいどんなものか、見当はついている。


 あの部屋には、ミヤコの持ち込んだ彼女の私物が、いくつも置かれているのだった。


 そして、あいつがあの、クローゼットみたいな狭い部屋にミヤコを呼ぶため、せっせと環境を整えていたことも、私には痛く分かっていた。



 ――いや、本当に見たくないな!



 不安にため息をつきながらも、私が着ていたシャツを脱ぐと、ミヤコが顔を赤くして後ろを向いた。今更だと思うのだが、まるで初めて見たとでも言うような反応だ。



「なんだ? お前が脱げと言ったんだろ」


「脱げとは言ってません」



 どんな顔をしているのかと回り込んでのぞき込もうとすると、ミヤコはどんどん壁際に逃げてしまう。今日も彼女は、小動物のようだ。



「は、早く何か着てください」


「何を着ればいいんだ?」


「いつもの黒いシャツで平気ですよ」


「本当にこんな簡素な服で大丈夫なのか?」


「カッコいいですよ?」


「ふむ……」



 シャツを着込み、姿見の前で何度も前髪を整えていると、ミヤコが私の腕につかまってきた。


 珍しいなと思いながら目をやると、少し緊張した様子で、私の顔を見上げている。



「ターク様。私の我儘を、全部聞いてくれて、本当に嬉しいです」


「いや、当然だ。結婚したいと言ったのは私だぞ」


「あの……」


「なんだ?」


「ターク様、大好きです」



 彼女に腕をひかれ体を傾けると、ミヤコのやわらかい唇が、私の頬でチュッと音を立てた。



「な……!?」



 見開いた眼でミヤコを見ると、彼女はまた顔を赤くして、恥ずかしそうに俯いている。



 ――なんだ!? ミヤコから、キスされた!


 ――え……? これ、初めてじゃないか?



 おどろきで声が出ず、思わず口がパクパクしてしまう。


 背中に羽が生えたような高揚感で、身体が浮いてしまいそうだ。



「いや、可愛いすぎだろ……」


「きゃ、ターク様……!」



 私を見上げたミヤコをクローゼットの壁に押し付け、私は彼女と唇を合わせた。



 ――ダメだ。あまり強引にしては……。



 つい力が入ってしまい、焦る気持ちを抑えながら、私はミヤコから体を離し、改めて彼女を見た。


 ミヤコは、丸い目を幸せそうにうっとりと細め、私を見つめている。


 背伸びをしながら私の首に腕を伸ばし、また彼女の方から近づいてきた。


 そのまま、ミヤコの唇が私に触れると、なんとも言えない甘い喜びが、私の胸にじわじわと湧き上がった。



 ――これはまずい。幸せすぎる。



 崩れ落ちそうになる自制心をギリギリで保ち、彼女の反応を確かめながら、私はもう一度、出来るだけそっと、口を付けた。


 唇をはなしてみると、熱い吐息と一緒に「ふぁっ……ターク様、好きっ……」と、声がもれてくる。



 ――だめだ、もう、手加減できない。



 思考が白んでいくのを感じながら、彼女を再び壁に押し付け、夢中で何度もキスをした。



「好きだミヤコ……誰よりも……愛してる……お前だけだ……私の可愛い歌姫……」



 合わせた唇をはなすたび、考えていることがそのまま、全部声に出てしまう。流石に自分でも恥ずかしい。


 しかし、私はもう、それを止めることができなかった。





「あぁ……! ターク様、も、時間が……!」


「そ、そうだ。時間がない」



 結局我を忘れてしまった私だったが、ミヤコに言われ、約束の時間があったことを思い出した。


 なんとか気持ちを落ち着け、彼女を壁際から解放する。



 ――慌てるな。とにかく先に、結婚の承諾をもらうんだ。


 ――ミヤコを手に入れるためなら、私は何処にでも行く。異世界でも、タツヤの部屋でもだ!



 崩れるように床に座り込んでしまったミヤコを抱き起こし、もう一度気持ちと身だしなみを整えて、私達は、転送ゲートを潜った。



      △



「みやちゃん、ターク君! 来たね!」


「うわぁ、この部屋久々! 懐かしいわ。でも前よりすっきりしてるね」



 ゲートを潜ると、そこは本当にタツヤの部屋だった。



「みやちゃんの私物は、京子さんが持って帰ったよ」


「そっか、ありがとう」



 キョウコというのは、ミヤコの母親の名前らしい。


 少しホッとしながら部屋を見回してみると、確かにそこはすっきりと、モノトーンでまとめられていた。


 そして、タツヤの隣にはなんと、ノーラが座っていた。


 魔王城でタツヤを送り出したと聞いていたが、押しかけ女房のように、日本まで追いかけて来てしまったらしい。



「ダー君が居ないと、魔王城は寂しすぎるもの。ニジルドもうざいし」



 そんなことを言いながら、ノーラはタツヤに纏わりついたが、タツヤが嫌がる様子はない。


「ノーラちゃんが居ないと、こっちから転送ゲートを開くのが大変でさ。こっちの世界は、微精霊が少なくてね。魔力があっても魔法が発動しにくいんだ。来てくれて助かったよ」



 ノーラが好きなのか、利害が一致しているだけなのか、タツヤの態度からは今ひとつつかめない。



 ――もしかしてまだ、デモンクーズの魅了にかかってるのか?



 よく分からないが、タツヤはいつも通り、フワフワして見える。


 私がタツヤの様子を横目で観察していると、彼は私の全身を上から下までジロジロと見てから、「結婚の挨拶には、ちょっとラフすぎない?」と、首を捻った。


「そうかな?」と、ミヤコはとぼけた顔をしている。


 タツヤは彼のクローゼットから、シンプルなグレーの上着を取り出し、私に手渡した。



「これあげるよ。魔物化から助けてくれたお礼。これで借りは無しね」


「あ、あぁ。助かるよ」



 あれだけの騒ぎを、上着一枚で埋め合わせようとするのはどうかと思うが、彼には一応、応援の気持ちがあるらしい。



「ターク君、すごい顔が強張ってるけど大丈夫?」


「いや、吐きそうだぞ」


「しっかりしてよ? 二時に約束とりつけてあるからね。十分前には行かないと。手土産はもってきた?」


「菓子の缶を持ってきた」


「いいね。挨拶の言葉は?」


「……」


「しっかり考えていかないと、失敗するよ?」



 タツヤはパットとかいう不思議な道具を取り出すと、何やら得意げに()()をはじめた。


 日本の女性の結婚適齢期も、前にこのパットで()()したのだと言う。



 ――検索ってなんだ……。



 タツヤは結婚の挨拶について()()すると、それを読み上げながら、私にアドバイスしてくれた。


 まずは時間を取ってもらったことに感謝し、それからミヤコにプロポーズして承諾してもらったことを伝え、二人で幸せになりたいと、こちらの意志を伝えればいいようだ。



「タツヤ、ありがとう」


「いや、これはみやちゃんのためだからね? みやちゃん、僕はいつだって、君の幸せを祈ってるよ」


「達也、本当にありがとう」


「本当にいいんだな?」


「僕じゃみやちゃんを、幸せに出来ないって、いいかげん分かったからね」



 今度こそタツヤは、ミヤコを私に渡す決心をしたようだ。タツヤの気持ちに感謝しながら、私は、ミヤコに連れられ、彼の部屋をあとにした。



 結婚の報告をするため、クローゼットで日本に行く準備をしているターク様ですが、不安と緊張に顔がこわばっています。ターク様の緊張をほぐそうとした宮子ですが、何かスイッチを押してしまったようです笑


 日本で待っていた達也は、意外にも親切に、色々と協力してくれました。ご挨拶はうまく行くのでしょうか?


 次回、第二一章第九話 ただいま帰りました!~達也、これどういうつもり?~をお楽しみに!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


こちらもぜひお読みください!



三頭犬と魔物使い~幼なじみにテイムされてました~





カタレア一年生相談窓口!~恋の果実はラブベリー~

― 新着の感想 ―
[良い点] 達也(;_;) いい子に育って(;ω;)お母さんは嬉しいよ。 それにしても、本当に達也はいい子ですね。 ターク様と宮子も幸せそうですし。 ファンサ回を今回もありがとうございました。
[一言] 花車様おはようございます! そして、等々愛を確かめた二人はみやこの両親の元へ!! 達也の協力の元、 この先はどうなる!? ドキドキタイムですねドキ(✱°⌂°✱)ドキ
[良い点] 何食わぬ顔でノーラが現代日本にいるというのが面白かったです。そして、ターク様と宮子のイチャイチャぶりが、歯止め利かない感じがここまできたか、と感慨深かったです。 [一言] ターク様は本当に…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ