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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第21章 春風にのって

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07 [番外編]ファトムとネドゥ3~灰になってしまえ~

  場所:ロチェカ山

  語り:ネドゥ・ポルネル

  *************



「行くな……」



 そう言いながら近づいてくるファトムに、あたいは慌てふためき、近くの川に飛び込んだ。



「バカ! 熱いったら」


「すまない」



 そう言いながら、燃え上がっていた力をグッと鎮め、ジュッと音を立て、水蒸気を上げながら、川に入ってきたファトム。


 水は苦手なはずなのに、頭までしっかり水に浸けて、濡れそぼった顔を腕で拭いながら、あたいのそばに寄ってきた。



 ――大丈夫なの?



 真っ赤だったファトムの顔色が、なんだかひどく青ざめて、赤銅色だった肌も赤みを失っている。



「ネドゥと一緒にいたい」



 川の中にしゃがみ込んでいたあたいを、急激に冷えた身体で抱きしめて、ファトムはガチガチと震えながら、これでもかと言うくらい、情熱的なキスをした。



 ――身体は冷えてるけど、口の中が熱い! 舌を火傷しちゃうよ……。


 ――どうしたらいいの? あたい、あんたの仲間を何人も、精霊コレクターに売り飛ばしたよ!


 ――セリスだってあたいの仲間が……!



 激しい罪の意識に苛まれながらも、何年も恋焦がれたその腕を、唇を、あたいは拒むことが出来なかった。


 その日からファトムは、雪山を眺めることもなくなった。



      △



 ファトムと契約を交わし、しばらく経った頃、あたいの元に、精霊狩りの仲間達がやってきた。



「ちょっと、あんた達の仲間だってバレたら、せっかく勝ち取ったファトムの愛が冷めちまうだろ」



 あたいは大慌てで、仲間達と共にこっそりとロチェカ山を降りた。



「ネドゥ、ちょっと時間はかかりすぎだが良くやったな」


「早速だが、火の精霊の力を使いたい仕事がある」



 精霊狩りの村グラスのアジトで、輪になって座った仲間達が、当たり前のように、あたいにファトムの力を使わせようとしてくる。



「悪いけどあたい、精霊狩りはもう引退だよ。最初からそのつもりだったし、精霊狩りの仕事に、ファトムは加担させられない」


「ネドゥお前、そんなこと言える立場か? 拾って育ててやったオラッチの顔に泥を塗るつもりか」


「そうだそうだ! 言うこと聞かねーとファトムもノーデス様に売っちまうぞ!」


「わぁったよ、うるさいね! とりあえず話だけ聞くよ。だけど、出来るとは限らないよ!」



 仲間たちにヤイヤイ言われ、あたいはとりあえず話を聞くことにした。


 だけどそれは、ファトムが毎日眺めていたあのセヒマラ雪山を噴火させ、麓のレムスルドラに、厄災を見舞わせようと言う話だった。



「なんだいそれ、全く精霊狩りと関係ないじゃないか」


「それがあるんだよ。実は、ポルールの厄災を調べていたら、研究者に捕まってるのはニジルド殿下じゃないかって情報が入ってな。これがどうやら、当たりらしい。んでな、ニジルド殿下っていやぁ、失踪するたび、見つけて連れ戻すとすんごい謝礼が出るって話なんだよ」


「第二王子なんてほっときゃいいのに、どうしていちいち連れ戻すんだろうね」


「そりゃ、ノーデス様が結構な男好きだからさ。特に弟は溺愛してるって噂だぜ」


「うげげ」


「とにかく、ニジルド殿下を助け出せれば、謝礼はたんまり、今後の金銭交渉も円滑にいくってわけよ」


「だけど、あそこには、こわぁいベルガノンの英雄達が出入りしてるからな」


「あぁ、石像みただけでちびっちまうぜ」


「だから、近くの山で派手な災害を起こして、英雄達をそっちに釘付けにしようって話だ」


「うーむ。話はわかったけど無理だね! いくらあたいの頼みでも、ファトムがセリスのいた山を燃やすわけがないよ」


「あぁ、あの腑抜け精霊に頼む必要はないぜ。契約までもっていけば、精霊に力を投げ出させるのは簡単さ」


「どう言うことだい?」


「ポルールの件で調べはついてる。裏切って怒らせりゃぁ良いんだよ。そうすりゃ、その力はお前のもんだぜ」


「……なるほどね……わかった、協力する。けど、ちょっとだけ時間をくれる?」



 仲間たちからの思いもよらない提案に焦りながらも、あたいは出来るだけ顔色を変えずに立ち上がった。



 ――今日は仲間が六人しかいない……後の四人は今何をしてる?


 ――姉さんは? ファトムは無事……?



「ロチェカ山に戻ってうまくやるから、手出ししないでよ」


「あぁ、しっかりやれよ」



      △



 仲間たちが少し嫌な笑顔を浮かべていることに、不安と焦りを感じながら、あたいは大慌てでロチェカ山を登った。



 ――ファトムと姉さんを連れて遠くへ逃げよう。



 そんな、浅はかとしか言えない考えが、頭の中をぐるぐる回っている。


 ファトムはいつもの草原で、セヒマラ雪山を眺めていた。



 ――もう、セリスは忘れるって言ってたのに、なんだい?



「ファトム……」



 少し不満を感じながらも声をかけると、彼はその身体からブワッと炎を巻き上げた。



「どのツラを下げて戻ってきたんだ、ネドゥ……いや、憎い、憎い精霊狩りめ!」


「ファ、ファトム、あたいは……!」


「二度と顔を見せなければ、忘れてやろうかと思った! そうと知っても、愛してるから、お前を……!」


「な、何言ってるんだい? あたいは、ちょっと虫除けを買いに街へ行ってただけだよ」


「この期に及んでそんなバカな言い訳を……! そうか……分かった……この力が欲しくて、お前は戻ってきたんだな。欲しけりゃくれてやる! こんなもの!」


「あつっ!」



 ファトムの怒りと一緒に、身体に痛いほどの炎の力が流れ込む。


 恋に焦がれたあたいは、いつかこうなると分かっていながら、何一つ、止めることが出来なかった。



 ――もう、こんなあたいなんて、このまま灰になってしまえばいい!



 ファトムはみるみるうちに黒ずんでシワくちゃになり、真っ黒なモヤを吐き出しはじめた。



「死ね……ネドゥ……!」



 ファトムがあたいに襲いかかったその時、精霊狩りの仲間達が間に割って入り、ファトムを拘束した。



「よくやったぞ、ネドゥ。ファトムは精霊の秘宝に闇の魔力を貯めるのに使う。セヒマラに連れていくぞ。お前の役目はわかってるな?」


「あの……姉さんは?」


「そのうちモヤから魔獣が湧いてくるからな。ドナには、特別な仕事を任せた」


「まさか、そんな……」



 絶望が身体を駆け巡り、自分への怒りと、やりきれない悲しみは、諦めに変わった。


 そのままセヒマラに連れて行かれたあたいは、仲間達に言われるまま、あの噴火を引き起こしたのだった。



 恋に落ちたファトムとネドゥですが、この関係は当然のように壊れてしまいます。ネドゥは失恋の痛みの中、自暴自棄になっているようですね。悲しい恋のお話でした。


 さて、本作は残すところ後五話です。


 次回はターク様の語りです。いよいよ宮子に連れられ、日本へ行くターク様。二人の目的は、宮子の両親への、結婚のご挨拶です!


 次回、第二一章第八話 いざ、日本。~手土産はもってきた?~をお楽しみに!



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― 新着の感想 ―
[良い点] 切ないですね……。 足抜けをなかなかできなくなるなんて、やっぱり悪いことはしないのが一番ですね!(*´ω`*)♡ あと5話。 寂しいですが、噛み締めて読みます!
[一言] ファトムとネドゥの中はいいラストを迎えた訳では無かったのですね…。 どんなに好きでも儚く壊れる事もありますもんね。 切ないものですがこれも明日への道への一歩なのでしょうね。 素敵な話ありがと…
[良い点] 最初に、悪事で生計をたてていたことで、ネドゥの人生は今更まっとうには、ということなのでしょうね。因果応報といえばそれまでですが。現実世界とは変わらない運命の非情さを見たと思います。とても面…
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