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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第21章 春風にのって

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06 [番外編]ファトムとネドゥ2~悲しい知らせ~

 場所:ロチェカ山

 語り:ネドゥ・ポルネル

 *************



 あたいがロチェカ山に来てから、四年半が経とうとしていた。


 どうしてそんなに居着いてしまったかと言うと、ファトムが全然落ちないから、と言うのもあるけれど、このロチェカ山が、寒いだけのグラス村にくらべて温暖で、かなり居心地が良かったからだ。


 本来ならこの山も、雪山に近かったのかも知れないけれど、ファトムがいるせいか、一年中春みたいだった。


 ファトムはあたいのやることに興味が湧いたのか、あたいが頼むと、少しも嫌がらずにその力を貸してくれた。


 山には食べ物がいっぱいあるし、ファトムが居れば薪を集める必要もない。


 近くにきれいな川があって、飲み水にも困らないし、ファトムの力で湯を沸かせば、毎日温かい風呂にも入れる。


 村よりずっと快適で気ままな暮らしが気に入ってしまい、あたいはすっかり、当初の目的を見失っていた。



 ――契約なんてしなくても、仲良くなれば力を貸してくれるもんなんだね。


 ――でもこんな程度じゃ、ファトムの身体は冷めないみたい。あの逞しい腕に、あたいの腕を絡めてみたいんだけどね。


 こんなにそばで暮らしていても、触れることすら出来ないファトムに、気がつくとチリチリと胸が焦げ付いている。


 触りたい、キスしたい、それがダメなら、せめて見つめ合っていたい。


 だけど、ファトムは相変わらず、日に何時間も雪山を眺めては、セリスを思い、切ないため息をつくのだった。



 ――こりゃ手に負えないね。



 あたいがそんなことを思っていた時、毎日見ていた雪山から、小さな火の精霊がやってきた。


 微精霊から精霊になりたての、ほんの小さい精霊で、普段はセヒマラにある精霊の神殿に、明かりを灯す役目をしているらしい。


 ファトムが大精霊の力を受け取り、大きくなる前から、二人は仲が良かったようだ。


 だけど、その小さな火の精霊は、ファトムにとって、悲しい知らせを伝えに来たのだった。



「ファトム、セリスが精霊狩りに攫われてしまった……」


「うそだ……そんな……!」


「助けられなくて、ごめんよ」



 ――あー、仲間たちが、勝手なことを……。だけど、ちょうどよかったね。これで雪山ばっかり見なくなるよ。


 ――もう少しこっちを向いてくれるようになると最高だね。



 あたいはそう思ったけど、その日からファトムは、めそめそと泣くようになってしまった。


 逞しい大きな身体を嗚咽で揺らし、流れ落ちる前に蒸発してしまう高温の涙を次々とあふれさせる。



「元気をお出しよ、ファトム。精霊狩りに捕まったら最後、助けることなんて出来ないよ。きっともう、おっ死んだんじゃないかい? そんな会えない恋人なんて忘れて、あたいと楽しくやろうよ」


「人間のお前に何が分かる? オレとセリスは、二百年恋人だったんだぞ」


「それだけ好きな人と一緒にいられたなら、もう十分幸せじゃないか」



 そんなやりとりを何日か繰り返すうち、なかなかセリスを忘れないファトムに、あたいはだんだん腹が立ってきた。



 ――本当にあたい、何やってるんだろうね?


 ――最初はイカツい見た目でカッコいいと思ったけど、女々しいったらないよ。


 ――これ以上時間をかけても、あたいにはなびかないね。



 そう思ったものの、落ち込むファトムを置いて、山を降りることはできなかった。



 ――精霊達は、いつもこんなに悲しんでたのかい?


 ――攫われた同族のことなんて、てっきりどうでもいいんだと思ってたよ。



 あたいは結局、ファトムが元気になるまで、ひたすら彼を励ました。


 三ヶ月もすると、切ない顔をしながらも、あたいを困らせまいと笑顔を見せてくれるようになった。


 だけど、その辛そうな笑顔が、ぎゅうぎゅうとあたいの胸を締め付ける。



 ――抱きしめてあげたい……。


 ――あたい、いったい何考えてるんだろうね。ファトムを苦しめてるのは、私達精霊狩りなのに。


 ――もうこれ以上、ファトムのそばにいられない。



 そんな思いが湧き上がって、あたいはファトムに声をかけた。



「ファトム、あたい、そろそろ村に帰るよ」


「そうか、いつ戻ってくる?」


「もう、戻る気はないよ」


「え?……なぜなんだ? 嫌だ、戻らないなんて、言わないでくれよ……」



 急な別れの宣言に、ファトムは思いの外動揺した。


 最近少し、熱の落ち着いていた彼の身体が、高温の釜戸で打たれた鉄のように赤くなり、強烈な熱気が立ち上がる。



「あんたはもう大丈夫だろ。あたい、山暮らしは飽きたよ」


「い、嫌だ……! 絶対嫌だ!」


「勝手なこと言うんじゃないよ。セリスのことばっかり考えてるくせに!」


「勝手なのは分かってる! でも、ネドゥがいなくなるのは嫌なんだ!」



 ファトムの赤い身体が激しく燃え上がり、飛び散った火の粉が、周りの草木に引火していく。



「行くな……」



 メラメラと燃えながら近づいてくるファトムに、あたいは慌てふためき、近くの川に飛び込んだ。



 何年も一緒に暮らし、すっかりファトムを好きになってしまったネドゥですが、この恋は実りそうにありません。セリスの事で落ち込むファトムを励ましつつも、罪悪感にも苛まれた彼女は、村に帰ろうとしましたが……。


 次回、第二一章第七話 [番外編]ファトムとネドゥ3~灰になってしまえ~をお楽しみに!



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― 新着の感想 ―
[良い点] あらー(>_<)どうなるんでしょう。 ネドゥさんはかなりチャキチャキのお姉さんで今までにいなかったタイプですね!(๑╹ω╹๑ )♡ この恋の行く末は…… 次話も楽しみです!
[一言] セリスのことばかり考えているファトムにネドゥはもう山を去ろうとしてますね。 でもここに来てファトムはネドゥが必要とする。 ファトムはネドゥがいなくなったらもう一人になってしまうのが辛かったの…
[良い点] 普通にバーニングしながら近づいてきたら怖いですね(笑)最後はかなり面白かったです。いやはや、ネドゥの惚れ込みぶりも凄いのですが。傷心の男を落としてしまうとは。 [一言] 精霊狩りに捕まり、…
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