表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第21章 春風にのって

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

240/247

05 [番外編]ファトムとネドゥ1~熱くてイカツイ堅物~

  場所:ロチェカ山

  語り:ネドゥ・ポルネル

  *************



 五年前、セヒマラ雪山の東、ロチェカ山にて――



「ねぇ、ねぇねぇねぇ!」


 同じ方向をじっと見つめたまま突っ立って、少しもこっちを向こうとしない精霊の背中に向かって、あたい、ネドゥ・ポルネルは、さっきから何度も声を張りあげていた。



「ねえったら、真っ赤なあんた! 聞こえてるならこっち向いてよ!」



 そのガッチリと筋肉質な背中は赤銅色で、ゆらゆらと熱気を放っている。


 まるでイノシシのように太く、しっかりとした首の筋肉の上には、四角い頭が乗っていて、燃えるような赤い髪がツンツンと立ち上がっていた。


 前に回り込んで見上げてみると、セクシーに割れた顎と、しっかりと高い鼻が最初に目に入り、頑固そうな瞳の上には、鳥の羽のような太い眉がはしっていた。



 ――ひゅー! 完璧! 最高にあたいの好みだよ!


 ――熱くてイカツイ堅物ね! これは欲しくなっちゃうよ!



 あたいは自分の一番の武器である胸の谷間をこれでもかと寄せ、腰をくねくねさせながら、その精霊ーー火の精霊ファトムの剥き出しの胸元に手を触れた。



「あっつ! うっそ! 焼けたぁーー!」



 だけど、その肌のあまりの熱さに、真っ赤になった指を咥え、涙目でしゃがみ込む。すると、ファトムはようやく、あたいに目線を向けた。



「ん? 大丈夫か? オレに触ると火傷するぞ」


「言うのがおっそいんだよ、バカ!」


「すまん、気付かなかった……。考え事をしていてな」


「まったく、一体何をそんなに考え込んでるのさ」



 あたいはそう言って、もう一度ファトムを見上げた。彼の視線はもう、さっきと同じ方向を見ている。


 あたいの質問に、ファトムは返事すらしなかった。


 と言っても、あたいは彼が、じいっと何を眺めているのか、とっくの昔に知っていた。



 ――ファトム……ひどく一途だって調べはついてるけど、セヒマラ雪山のセリスがそんなに恋しいのかね。


 ――こんなに離れた場所から一日中雪山を眺めて、いったい何が楽しいんだか。


 ――まぁいいわ。あたいがすぐ、落としてあげるよ。



 姉妹で道端に捨てられていたところを、精霊狩りに拾われて育ち、九歳から狩りに参加して、今年で十年目。


 この節目の年に、仲間たちが集めてくる精霊の情報を元に、あたいが狙いを定めたのがこのファトムだった。


 こんな色ボケの精霊、メロウムで拘束して売り飛ばすだけなら、はっきり言って簡単だ。さっきのボディタッチが出来た時点で、もう成功したようなものだ。


 だけど、今回のあたいの狙いは、精霊の売却ではなく、精霊との契約だった。



 ――クラスタルで魔道士って言ったら、変な目で見られるけどね。ベルガノンへ逃げりゃ、適当に商売できるし、金持ち決定だよ。


 ――しかも炎とか超便利だし。こいつなら連れて歩いてもかっこいいし箔がつくよ。


 ――こいつの愛を手に入れたら、精霊狩りなんて引退だ。むさ苦しいグラス村ともお別れさね。



 だけど、このファトム、想像以上に一日中、ぼんやりとセヒマラを眺めている。頑張って話しかけても返事はしないし、自分の方を向いてもらうだけでも一苦労なのだった。


 それでも毎日のようにロチェカ山に登り、半年も経つと、ファトムはようやく、あたいの顔と名前を覚えた。



「ファトム、あんた、毎日毎日雪山ばっかり眺めてさ、いい加減、時間の無駄だとは思わないの?」


「時間か……精霊のオレにはあってないようなものだ。ネドゥ、お前こそ、短い人間の時間を大切にしたらどうだ」


「あんたのその割れ顎を見上げて過ごすのは嫌いじゃないよ。欲を言えば、もっとこっちを向いて欲しいんだけどさ」


「すまなかった。あの雪山には恋人が居るんだ。だが、昔より身体が熱くなりすぎてな。会えなくなってしまった。今だって、こうやってぼんやりしてないと、感情がたかぶって山を燃やしてしまう……」


「大変なんだねぇ。だけど、そうやって押さえ込んでやり過ごしてるだけじゃ、問題は解決できないよ? いつか爆発しちまうんじゃないのかい?」


「そうかもしれないな」


「なら、あたいが、うまい力の逃し方を考えてあげるよ」



 あたいがそう言うと、ファトムは不思議そうな顔であたいを見下ろした。



 ――やっと話を聞いてくれるようになったよ! ここまで長かったね!



 あたいはそれから、ファトムに人間の火の力の使い方を教えてやった。



「まずは肉を焼くよ。火の使い道っていったら料理だろ。焼いたら腹も壊さないし、やわらかくてうまいんだから!」


「精霊は肉なんて食べない。料理なんてして何になる」


「うまそうに肉を食べるあたいを眺めるのさ。幸せな気分になるはずだよ」



 この半年の間に、あたいはファトムの突っ立っている草原の近くに、小さな小屋を建てていた。


 その小屋のそばでファトムに肉を焼かせ、ついでに薪木に火をつけさせて、「うまい」とか「あったかい」とか、「明るーい」とか言って喜んで見せる。


 何日かそんなことをしていると、



「人間はいいな。小さくて儚いが前を向いてる。生きてるって感じがするな」



 ファトムはそんな事を言いながら、初めて少し、笑顔を見せた。



 ――ここまでくれば、もうひと押しさ! ちょろいね!



 そう思ってから、なんと四年、あたいはその小屋で暮らした。


 山に通いはじめてから、四年半の月日が経とうとしていた。



 ファトムに精霊の契約を結ばせようと、山にやってきたネドゥ。簡単に落とせると思っていたら、ファトムの恋煩いがひどすぎて、こっちを向かせるのも一苦労。いつの間にやら四年半が経過していました……。


 次回、第二一章第六話 [番外編]ファトムとネドゥ2~悲しい知らせ~をお楽しみに!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


こちらもぜひお読みください!



三頭犬と魔物使い~幼なじみにテイムされてました~





カタレア一年生相談窓口!~恋の果実はラブベリー~

― 新着の感想 ―
[良い点] 一途なお姉さんですね(๑╹ω╹๑ ) 敢えて鈍感なフリするファトムの策士なこと!(多分本当に意識外) 主人公以外にも焦点を当ててくれて、エピローグって感じがします((o(^∇^)o)) フ…
[一言] 花車様こんばんは! やっと読みに来れました´Д`)ヤット‥ ネドゥがファトムとの契約をしようと雪山に連れてきましたがなんとファトムはセヒマラに恋してるのでしょう。 ネドゥファイトと応援したく…
[良い点] ファトムを籠絡するネドゥの軽薄さが他の登場人物たちとは一線を画していますね。とても面白かったです。しかし、人間と精霊でもここまでドロドロというのも凄まじい(笑) [一言] 四年半!ネドゥの…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ