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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第21章 春風にのって

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03 新女王と精霊狩り。~愛してないって言ってるのに?~

 場所:ディーファブール

 語り:小鳥遊宮子

 *************



 クラスタル城での戦いがあった日から二ヶ月ほど経った頃、まだまだ復興途中のディーファブールで、ミレーヌの即位式が行われた。


 かろうじて残っていたクラスタル城の謁見の間に、真新しい赤い絨毯が敷かれ、その場所だけ見れば、何事もなかったかのように広間は整えられていた。


 ステンドグラスの窓からキラキラと輝く光が差し込む中、美しい純白のドレスを着たミレーヌに、ゼーニジリアスが王冠を被せる。


 周りを取り囲んでいた兵士達から、歓喜の声がもれると、ミレーヌはにっこりと笑顔を見せた。


 彼女は、乱心して国を滅ぼしかけたノーデス王を倒した英雄として、また、正統な王の血を引く王家の娘として、このクラスタルで盛大にもてはやされ、あれよあれよと言う間に、女王に担ぎ上げられてしまったのだった。


 実際のところ、ノーデスの死因はミレーヌの電撃剣ではなく、自分で放った魔物に踏み潰されたようなのだけれど、あの時のミレーヌの様子は、沢山の兵士達に目撃されていたようだ。


 最初は戸惑った顔をしていたミレーヌだったけれど、自分の持つ大精霊の祝福の力を使い、故郷であるクラスタルを立て直したいと、最終的には決心を固めたようだ。


 実際女王になってみると、彼女は()()()()()()とか、()()()()なんて呼ばれて、威厳もたっぷり、人気も上々なのだった。


 ミレーヌが女王になったことで、ベルガノンとクラスタルの関係は修復に向かい、また、精霊狩りも罪として、しっかりと取り締まられることとなった。


 そんなわけで、ターク様は今、またどこへやら隠れてしまった精霊狩り達の取り締まりのために、クラスタルを忙しく走り回っているのだった。



 ――ターク様はもう、王都に着いたかな?



 私がずっとモルン山の山小屋にいたこともあって、なかなか会えなかった私達。だけど、今日は、久々にターク様と会えることになっていた。


 昨日の達也を送り出す晩餐会に、遅れてきたイーヴさんから、新しい石像が出来たから見に来て欲しいと、王都に呼び出されたのだ。


 その呼び出しは、どうやら、ターク様にも伝わっているらしかった。



      △



 メルローズ領から転送ゲートを潜り、王都の西の端に出ると、そこにはソワソワと歩き回っている、ターク様の姿があった。


「ターク様!」と、声を掛けると、彼はハッとした顔で私に駆け寄ってきた。



「ミヤコ! 会いたくて死ぬかと思った」


「ターク様ったら、そんなに簡単に、死んじゃダメですよ?」


「そうだな。まだまだ死ぬわけにいかない」



 そう言って、私を抱きしめたターク様は、あの金色の光を失っていた。


 大量の闇を一気に浄化したことで、癒しの加護は根本から消え去ってしまったらしい。


 アグスさんの言っていた方法は、少しも間違えていなかったのだ。



「ターク様、人が沢山見てますから」



 そのままキスしようとするターク様を、私は慌てて制止した。私達の周りには、沢山の馬車や通行人が居て、私達を見物していたのだ。


「見せつけてくれるわ!」「若いっていいわね」とかいう、ギャラリーのおばさん達の声が聞こえて来る。



「だからなんだ?」と、不満そうな顔をするターク様。


「こ、ここじゃ恥ずかしいですよ……」


「そうか……なら、キスは馬車の中だな。行こう」


 ――ちょっと! そんな宣言して馬車に乗り込んだら、余計恥ずかしいじゃないですか……!



 周囲の生暖かい視線が突き刺さる中、真っ赤になった私の手を引いて、ターク様は私を、待たせていた馬車に乗せた。



「もう、どうしてターク様は、少しも恥ずかしくないんですか?」


「何がだ……?」


「その、キスとか……っ」


「恥ずかしくはないな。ミヤコとのキスは幸せなだけだ。……だめか?」


「だめなわけないです……」


「よかった」



 ――聞いたのがバカでした……。



 余計に恥ずかしくなってしまった私に、ターク様はさっそくキスをする。彼の額が私の額にくっついて、真っ黒な瞳が、私の瞳を真っ直ぐに見つめている。



「はぁ、生き返る。どんなに会いたかったか分からない……」


「私も、すごく会いたかったです」



 私の相槌を聞いて、嬉しそうにニコニコするターク様。


 本当に可愛すぎて、トキメキで倒れそうだった。



      △



 馬車はゲート前の広場を出発し、少し南東に進んだ場所にある、赤煉瓦の細長い建物に入った。



「少しだけ寄っていく」


「わかりました!」



 規則的に格子窓の付いたその建物は、ポルールの第二研究室を襲った囚人達を収容している施設だった。


 ターク様が牢屋の中の精霊狩り達に声をかけている。



「精霊狩りはベルガノンでもクラスタルでも、厳しく取り締まりされることになった。ここでしっかり反省して、いつか外に出られたら、その時は別の仕事を探すんだな。次にお前たちが精霊に手を出したなら、問答無用で始末していいと、新女王からのお達しもある。私達は常に、目を見張らせているからな」



 ターク様が凄みのある声でそう言うと、精霊狩り達は「ひっ」と縮み上がってから、「お得意様も死んじまったし、あっしらぁ、もう、足を洗うつもりですぁ!」と、ブンブン首を縦に振った。



 そして、未だにカプセルに入ったままのネドゥは、まだいくらか余裕な顔をしていた。



「キラキラのあんた、キラキラはどうしたの? 誰か大切な人に、あの力を押し付けてきたのかい?」


「いや、あれは、ノーデスの溜め込んだ精霊の闇に相殺されてしまった。ゼーニジリアスも、あの力を精霊達に返して自由を手に入れたぞ。お前はいつまで意地を張ってるつもりだ」



 ターク様がそう言うと、ネドゥは少し俯いて、チラチラと彼を見ながら質問を返した。



「セリスは、見つかったんだよね? ファトムは、セリスに会えたのかい?」


「セリスなら、何度かファトムに会いに来たらしい。だが、ファトムは、あんな姿でセリスに会っても、幸せではないようだぞ。今もまだ、力を失ったままだ」


「おかしいね。希望を取り戻して、普通の精霊に戻ると思ったのに」


「ファトムはお前に会いたがっていた。覚悟が決まったら言うんだな。会わせてやるから」


「あいつのこと、愛してないって言ってるのに?」


「ならそれを、証明したらどうだ?」


「あたい、あんたの脇腹を短剣で刺したよね?」


「それがなんだ」



 ターク様はそう言うと、黙ってしまったネドゥに背中を向け、収容施設を後にした。


 精霊の力を手に入れるためとは言え、ネドゥは五年もファトムと暮らし、その愛を受け取ったのだ。


 ターク様は二人が、本当は今も、愛し合っているんじゃないかと考えているようだった。


 だけど、例えばネドゥのキスで、ファトムが彼女の愛に気づいたとして、二人はうまくいくのだろうか。


 ネドゥの見せる、あの余裕な顔は、どこかもう、全てを諦めているように、私には見えるのだった。



 ミレーヌがクラスタルの女王になり、精霊狩りは今後、厳しく取り締まられることに。久々に会ったターク様は、ネドゥ達のいる収容施設を訪れました。


 カプセルに入ったままのネドゥを少し憐れんでいる様子のターク様ですが、ネドゥは今の所、出てくるつもりはないようです。


 次回、第二一章第四話 キラキラのターク。~君、前より輝いてるよ~をお楽しみに!



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― 新着の感想 ―
[良い点] 奴隷の立場から女王様とは大躍進ですね! ターク様と宮子もアツアツそうでなによりです♡( ;∀;)♡ だけど人目も憚らずわっしょいしたいとはターク様もなかなか積極的ですね!読者としてはファン…
[一言] 花車様おはようございます! ミレーヌのクラスタル王への即位おめでとうございます(^ω^) しかも精霊狩りをとりしまるという精霊たちにとっても本当に良かったჱ̒⸝⸝•̀֊•́⸝⸝) そしてター…
[良い点] ネドゥのことは割と忘れていましたね。ミレーヌの女王の即位もまたいざ即位すれば他に適任もいないですし、征服されるのも少し本作の雰囲気とは合わないですものね。きれいにすっぽり収まっていく感じが…
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