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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第21章 春風にのって

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02 魔王城にて2~ノーラの晩餐~

 場所:魔王城

 語り:小鳥遊宮子

 *************



 私達は、闇の大精霊ノーラに案内され、大きな広間に通された。


 元々魔王城なだけあって、グレーの石造りの建物の室内は、赤と黒のカーテンやカーペットで装飾され、重厚な雰囲気だ。


 部屋の中央に置かれた長いテーブルには、白いお皿に豪華なお料理が盛り付けられていた。


 達也を送り出すため、ノーラが準備した晩餐だという。



「それにしても、ガルベルと一緒に食事できる日が来るなんてね。しっかりベルガノンを守ってくれて、嬉しいわ。あなたに祝福を与えたのは、大正解だったみたいね!」



 ノーラはガルベルさんを一番奥の席に座らせると、ニコニコしながら彼女に話しかけた。


 ノーラは、ガルベルさんに大精霊の祝福を与えた、白の大精霊エディアだったのだ。



「そうね。だけど、百年分の美貌をもらったはずが、戦いばかりで殆ど使い切っちゃったわよ。私が老けはじめるのも時間の問題ね」


「困ったわね。あなたの美貌はベルガノンを守る力になると思っていたのに」


「まぁ、私だって色々頑張りすぎて疲れたからね。前線は若い人達に任せて、魔術師の育成に力を入れるわ。ベルガノンには、頼もしい子たちがいっぱいいるのよ」


「そんなこと言って、少しも見た目、変わってないわよ? でも、闇魔導師はたくさんいた方が良いわ! しっかり育てて、闇の魔力をいっぱい使ってね」



 ノーラはそう言うと、今度はくるっと方向を変え、達也のとなりに座った。



「愛しいダー君、あなたの好きなものばかりよ。沢山食べてね」


「うん、ありがとう。ノーラちゃん」



 彼女は絡みつくように達也に身を寄せ、その口に料理を運びはじめた。


 三カ月前、ターク様に浄化された達也を、ノーラはクラスタルの地下空洞まで迎えに来たのだ。


 そして達也は、引き続きノーラの元で暮らすと言い残し、その場を去ってしまった。



 ――散々ひどい目に遭わされたはずなのに、達也はずいぶんノーラと仲がいいわ。


 ――ターク様は、ゲートの研究の為にノーラの機嫌を取ってるだけだろうって言ってたけど……。



 フワフワニコニコしている達也を眺めながら、私は少し、顔を顰めた。


 やはりノーラは、秘宝の魔力を餌に、集めた人間の中から、クラスタルの地下空洞に溜まった精霊の闇を消してくれる、()()()()()を探していたらしい。


 その選定基準は、愛する人を殺したくなる呪いに、どれだけ抵抗出来るか、というものだった。


 そして、彼女の呪いに見事な抵抗を見せた達也に、彼女はその役目を負わせたのだ。



 ――やっぱり、何度考えても、精霊のやることはめちゃくちゃだわ。



 それはノーラが、彼女なりに、闇に堕ちた精霊達と、ベルガノンとクラスタルの、両国を守るために考えたことだった。


 その為に沢山の人が闇に堕ち、実際に大切な人を手にかけてしまった人もいるようなのだけれど、大きな目的のためなら、多少の犠牲は気にしない、という事らしい……。


 ノーラは多分、達也を完全に魔物化するギリギリまで頑張らせて、ターク様に浄化させようと思っていたのだろう。


 私の歌で、あれだけの精霊が集まったのは完全な想定外で、あの闇を全部消してしまえるなんて、思ってもみなかったようだ。



 ――どうして精霊達は、いつも達也を捨て駒みたいに……。


 ――愛しいダー君、なんて言ってるけど、達也の浄化だって、出来てラッキーくらいにしか思ってなさそう……。


 ――て言うかあれ、殆ど、アウトだったよね……? 遺跡の時だって、達也じゃなかっなら私、死んでたよね? 選定基準、おかしくない?



 言いたいことは沢山あるけれど、一番被害を受けた当の本人が、ノーラとイチャイチャしているので、完全に言いそびれた形になっている。



 ――だけど、達也が無事で本当によかった。



 彼女のしたことは、私には到底理解できないけれど、目的を達成した今、彼女は全ての秘宝から、あの忌々しい呪いを取り下げたのだった。


 そして、私と彼女の間には、もう一つ深い因縁があった。


 彼女は城から誘拐したものの、結局手放してしまったミレーヌを守るため、この世界にやって来た私を、ミレーヌの中に押し込んだ、張本人だったのだ。


 当時、ゴイムの暮らしに疲れ、消えかけていた彼女の心を繋ぎとめるため、私はノーラに利用されたらしい。



 ――精霊のやることは、いつだってどこか勝手なのよね。


 ――まぁ、いいんだけどね。ミレーヌが無事で何よりなんだけど。



 料理を前にそんなことを考えていると、ライルがグラスにジュースを注いでくれた。



「ライル、ありがとう。今日もお魚をもらってお手伝い?」


「ううん。今日はノーラ様の望みがかなったお祝いも兼ねてるからね。たまには自主的に手伝おうかと思って」


「そうなんだ。ライルはノーラが好きなんだね」


「僕は嫌われ者の死神だからね。嫌わないでいてくれる人はだいたい好きだよ」



 そう言って、ギザギザの刃を見せ、ニカッと笑うライル。


 死神……というのが、どこまで本当かは分からないけれど、人に死をもたらす存在が、ただの悪ではないことはきっと間違いないと思う。


 どんなに理不尽に嫌われても、ニカニカッっと笑いながら、自分の任務をこなす彼は、本当に頼もしい猫ちゃんだ。



「それに、今日の手伝いはもう一人いるよ」



 ライルに言われて振り返ると、ワゴンにパンを乗せて配って歩いている、ゼーニジリアスがそこに居た。


 二メートル近い長身、腰まである銀髪、ルビーのような赤い瞳、真っ白な鎧、ワゴンに焼き立てパン。その違和感は、とても見過ごせるものではない。


 私は彼を何度も二度見してから、ひそひそ声でライルに話しかけた。



「どうして彼がこんなところに?」


「彼、ノーラ様の虜だからね。どうも、彼女のペットになりたいらしいよ」


「えぇ? 大丈夫なの? それ」


「まぁ、うっかり闇に囚われて、ベルガノンを攻撃したせいで、ノーラ様にかなり嫌われてるからね。とりあえず無料奉仕して、好かれようとしてるのかな」


「ほぉ……」



 ゼーニジリアスは、三カ月前のあの日、地下空洞で闇堕ちしていた水の精霊達に、自分の持っていた水の力を投げ与え、精霊の力を失っていた。


 その行動で、自分の精霊への愛と、敵意のないことを証明し、しばらくのベルガノンでの取り調べの後、先日解放されたのだった。


 ターク様と共闘している彼を見た時は、いったい何が起きたのかと思ったけれど、彼は本気で、精霊達を愛しているらしい。


 ライルが言うには、彼は今、ノーデス王が死んだことで、回ってきた王位継承権すら放棄し、力を失った精霊達をこの魔王城に集め、世話をしているという話だった。


 ゼーニジリアスの奉仕で、精霊達が希望を取り戻す日も、いつか、来るのかもしれない。


 そんなことを考えていると、私の視線に気付いたのか、ゼーニジリアスは、パンのワゴンを押し、私の横に立った。



「歌姫様、パンはいかがですか?」


「ひゃいっ、いただきます」


「プレーンとナッツ入りと、二種類ございますが……」


「ナ、ナッツ入りを……」


「かしこまりました。一つで大丈夫ですか?」



 私がブンブンと首を縦にふると、ゼーニジリアスは、私のお皿の上にナッツ入りパンを一つ置いた。



「沢山あるので、足りなければ、お申し付けください。奇跡の歌姫様……あ、青薔薇の歌姫様と、お呼びした方がよろしいでしょうか……?」


「へっ!? いえ、何でも大丈夫です、お気になさらず」


「おやさしいのですね」



 ゼーニジリアスにニッコリと微笑まれ、びっくりし過ぎて固まる私。


 そんな私を見て、ライルがニヤニヤ笑っている。



「そんなに怖がらなくて大丈夫だよ。ニジルドは、ミヤコに感謝してるんだからさ」


「そ、そうなの? 私、何かしたっけ……」


「彼の国や精霊達を救ったのは君だよ? しっかりしてね?」


「え? ターク様じゃなくて?」



 なぜかライルに呆れた顔をされながら、私はパンを頬張った。ナッツのとても、香ばしい香りがした。



 用意された晩餐を前に、ノーラの様子を窺う宮子。ノーラといちゃつく達也がどういうつもりなのかと頭を悩ませます。


 そして、パンを運んできたゼーニジリアスのキャラチェン?に衝撃を受けました。ターク様のお母様が見たのは、たぶん、この猫被りゼーニジリアスだと思われます。兄さんに色々言われないよう身につけた技術のようです……。


 ノーラとゼーニジリアス、善とも悪とも言えない微妙な二人です。


 次回、第二一章第三話 新女王と精霊狩り。~愛してないって言ってるのに?~をお楽しみに!


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― 新着の感想 ―
[良い点] 一堂に会する場面が圧巻でした。 あの人もいる!この人もいる! ドキドキ(´-ω-`)あせ 一番の驚きは達也ですね。天然ジゴロですか……。笑笑 もう少しで終わりなんて寂しいですが、続きを楽し…
[一言] ノーラと達也のイチャイチャは微笑ましいですな( ˇωˇ ) そしてみやこは更にゼー二ジリアスとノーラに驚いてますねぇ! でも平和な話もやはりいいですね꒰(⑉• ω•⑉)꒱ 続き楽しみますね(…
[良い点] ノーラもノーラなりに大変だったのと必死だったのでしょう(笑)宮子は怒ってましたけど。ここまで読んでいて事がややこしく絡まりすぎていて、きっと仕方なかったのでしょう、と。のんびり食事できると…
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