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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第20章 囲いの中の戦い

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09 [番外編]ゼーニジリアス1~アクレアとの出会い~


 場所:ルカラ湖

 語り:ニジルド・ゼ・リアグラス

 *************



 私の名はニジルド・ゼ・リアグラス。


 ニジルもゼーニジリアスも、世をしのぶ、仮の名だ。


 なぜ偽名を使うのか……?


 それは、私が失踪中のクラスタルの第二王子だからだ。


 王子と言っても二番目なんて何もいいことは無い。私は幼少期から、兄ノーデスに執拗に馬鹿にされ、たまった鬱憤の吐口にされていた。


 下手なことをして失敗すれば、兄さんからとてつもなく厳しい追究を受ける。


 私は次第に慎重になり、間違いが起きないようにと、閉じ籠り、ひたすら考え込むようになった。


 そんな王宮での日々は、私の心を鬱々とさせた。


 そして、兄さんの計画した父王の暗殺が実行されると、私はいよいよ恐れをなし、逃げるように城を出たのだった。


 しかし、そのたびに私は探し出され、城に連れ戻された。


 あれは、何度目の逃亡の時だっただろうか。


 ルカラの森をさまよっていた私は、やがて広々と開けた、美しい場所に出た。


 鏡面のように清らかな湖水をたたえた湖に、様々な生命をはぐくむ神秘的な森と青空が逆さに映し出され、その奥には、青々と草の生えた爽やかな平原が広がっている。


 その景色はまるで、私の荒んだ心を癒すために存在しているかのようだった。


 一目でそこを気に入った私は、ベルガノンとの国境でもあるその場所に、自分だけの宮殿を建てようと考えた。




 あれは七年前のことだ。


 その日私は、街でたぶらかした女たちを連れ、下見のため、ルカラ湖に来ていた。


 城から大量の金品を持ち出し、容姿にも優れている私は、失踪中の身で身分を隠していても、女に困ることは無かった。


 しかし、湖のほとりに椅子を置いた私は、裸で行水を楽しむ女達を、ただぼんやりと眺めていた。



 ――美しいと言えば美しいが、今ひとつ決定的なものが足りないな。


 ――私は本当の美を知っているからな。まったく物足りないな。



 私が知る、本当に美しい女性。


 それは、父王が契約を交わしていた白の大精霊エディアだ。


 白く光り輝く彼女の姿は、本当に美しかった。私は激しく胸をときめかせたが、エディアは父王を愛していた。そして、父王が死ぬと、兄さんは私がエディアに近づけないよう手をまわした。


 私が喉から手が出るほど欲しがっていたのは、国や権力ではなかったらしい。


 私はあの時、それを思い知ったのだ。



 ――兄さんがいる限り、私の欲しいものは、何一つ手に入らない。どうせならいっそ、この虚しい願望とはここで決別しよう。


 ――王都から離れたこの場所に、私だけの宮殿を建て、女たちと出来うる限りの贅をつくすのだ。


 ――きっと、少しくらいは幸せになれるはずだ。



 そんなことを考えながら、私はぼんやりと湖を眺めていた。


 女達は寒くなったと水から上がり、食事の準備をはじめた。



      △



 私はふと、湖の奥に目をやり、一際美しい水の輝きに気付いた。


 誰かが水面に顔を出し、こちらの様子をうかがっている。



 ――エディア?



 そう、思ったとたん、私は水に飛び込んでいた。


 あの輝きは、エディアが放っていた光によく似ている。


 巨大な湖を奥へ奥へと、私は必死に泳いだ。しかし、腕がちぎれるほどに泳いでも、彼女との距離が縮まらない。



「エディア! エディア!」



 私は水を飲み、溺れもがきながら、必死にそう叫んだ。


 すると、逃げるように私と距離をとっていた彼女が、私を向こう岸に運んでくれた。



「なぜ、エディアの名前を呼ぶの? プク!」



 息を整えたばかりの私に、彼女はそうたずねた。


 青く光り輝く彼女は、紛れもなく精霊だったが、エディアではなかった。


 彼女は、ルカラ湖を護る、水の精霊アクレアだったのだ。



「人違いをしたようだ。君の光はエディアのものに似ている」


 私がそう言うと、彼女は少しおどろきながらこう言った。


「そうね、この光は紛れもなく、エディアが投げ出した力のひとつよ。プク!」


「エディアが、力を投げ出した?」


「そうよ。あれはいつだったかしらね。彼女、闇以外の力を、全部投げ出してしまったの。私達はそれを、強制的に引き継がされたのよ。突然、愛してるわって言われてね! プク!」



 不満そうに眉頬を膨らませる彼女。


 精霊達はみな、強すぎるエディアの力を、持て余しているのだと、彼女はぼやいた。


 彼女が投げ出した力は、一つ一つが大精霊の力に匹敵するほどだったと言う。


 普通の水の精霊だったアクレアには、少し荷が重いらしい。



「みんな迷惑してるのよね。力を元通り引き取って欲しいわ! プク!」



 一見神聖そうに見えるアクレアだが、ブゥブゥとぼやき頬を膨らませる姿は、まるで甘ったれた少女のようだった。


 しかし、湖に連れてきたどの女よりも、間違いなく彼女は美しかった。



 恐ろしい兄に恐れをなし、失踪を繰り返していたゼーニジリアスは、美しいルカラ湖を見つけ、そのほとりに宮殿を建てようと考えました。


 自分を苦しめる様々な願望と、決別するつもりだった彼ですが、エディアの力を受け取ったアクレアと出会ってしまい……。


 次回、第二十章第十話 [番外編]ゼーニジリアス2~いったい何処で間違えた?~をお楽しみに!



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― 新着の感想 ―
[良い点] 金に困らないだとか女がどーとかとか、ターク様に成敗されてしまいなさいっ!(´・Д・)」おーいターク様ー! 果たしてどうなるのか、続きが気になります!(><)!
[一言] ゼーニジリアスは元は恐ろしい兄の事があっての事だったのですね! そして色々な願望と戦い! エディアの力を授かったアクレア。 アクレアが彼にどういった影響を与えるのかプク。 楽しませていただき…
[良い点] ゼーニジリアスのぽっかり心に空いた穴が目に浮かぶようでした。欲しい物を諦めなくてはいけない寂しさと虚しさがよく出ていたように思います。そして、人間ではなく精霊に傾倒するようになった、出会い…
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