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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第20章 囲いの中の戦い

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06 地下空洞で1~ニジルと食えない猫~

場所:クラスタル城

語り:ターク・メルローズ

*************



 地下空洞に落ちた私、ターク・メルローズは、またミヤコのキノコでバウンドした後、今度は出来るだけ、かっこよく着地した。


 とりあえず大剣をふり、石の壁を這い上がろうとしているブーギンモスの足を切り落とす。


 かなり巨大な魔物ではあるが、手足だけならポルールにいた魔獣と変わらない。


 両足を切り落とされたブーギンモスは、「グゥォー」と叫びながらズルズルと岩壁からずり落ちた。



「いてっ!」



 タツヤが放つダークバレットが、時々雨のように降ってきては、私の体に風穴を開ける。


 ブーギンモスを狙っていると信じたいが、なかなかの割合で私に当たっている気がする。



 ――あいつ、私がいてもお構いなしだな。


 ――仕方ない。しばらく任せておくか。



 ブーギンモスにとどめを刺すのを諦め、私はダークバレットの当たらない場所に移動し、上を見上げた。


 穴の深さは三十ルートルはあるだろうか。


 さっきまでかなり濃いモヤが充満していたが、急激に濃度が下がっているようだ。私の光で浄化されたのもあるが、タツヤがモヤを吸い上げているように見える。



 ――タツヤ、何してるんだ。


 ――ミヤコを泣かせたくなかったんじゃないのか?



 タツヤの変わりように困惑しながらも、私は空洞の中を見回した。


 石灰岩に囲まれたその空間は、足元こそマリルの隕石でボコボコに破壊されていたが、洞くつの奥に目をやると、真っ白なツララが所狭しと垂れ下がり、なかなか壮観な場所だ。


 自然に出来た空洞のようだが、モヤの濃い方へ進んでみると、格子のついた牢屋があった。


 そこに、大勢の闇堕ちした精霊達がぎゅうぎゅうに詰め込まれている。


 胸を抉るような悲痛な嘆きが、地下空洞に木霊していた。



 ――く……。これがノーデスのコレクションの成れの果てか。本当に最悪だな。



 王座につく前から二十年以上、ノーデスは精霊狩りに精霊を狩らせては、彼らを闇に突き堕としてきたようだ。


 私の周囲はセリスを含む五人の精霊の助けで強力に浄化されているが、百人の闇堕ち精霊が放つ、闇のモヤは凄まじい勢いだった。


 手前の精霊の姿は確認できるが、牢屋の奥の方は真っ黒で何も見えない。


 残っていた魔物を大剣で切り倒しながら、私はその牢屋に近づいた。



 ――やはり人数が多すぎるな……浄化すると言ってもこれじゃぁ、何日かかるんだ……。いや、何ヶ月……、何年か?


 ――だが、これは私がやるしかない……。覚悟を決めなければ……。



 私がそんなことを考えていると、いつの間にかライルがとなりに立っていた。


 ギザギザの歯をぬらりと光らせた少年の姿で、猫のように目を光らせている。


 こんなモヤの中で、いきなり現れるとやはり、不気味なやつだ。



「ライル。こんな危ない場所に何しにきたんだ?」


「ご主人様に用事を頼まれててね」


「ガルベル様から?」


「ガルベル様じゃないよ。僕のご主人様は沢山いるんだ」


「そう……なのか。一体誰に、何を頼まれたんだ?」



 やはり食えないやつだと首を傾げていると、背後に人の気配を感じた。振り返ってみると、そこにはゼーニジリアスが立っていた。



「なんだ? まさか、お前がライルの主人か?」



 おどろいてそう尋ねてみたが、「なんの話だ?」と首を傾げるゼーニジリアス。


 ライルも「全然ちがうよ」と、慌てた様子で首を横に振った。


 違うみたいで安心したが、こんな場所にライルを遣わせる主人とはいったい誰なのだろう。



「精霊の力で多少耐性があるとはいえ、この闇深さは流石にきついな。お前が居なければ気を失いそうだ」



 ゼーニジリアスは、口元を手で覆い、少し苦しそうにしながらも、ゆっくりと牢屋に近づいた。


 そして、鉄格子をのぞき込み、精霊達に話しかけた。



「哀れな精霊達よ……。長い間、こんな場所でさぞ辛かっただろう」


「これを知っていたのか?」


「あぁ。なんとなくだが……。ここまでひどいとは思わなかった」


「いったい、どうしてこんなことになったんだ」



 私が改めて質問すると、ゼーニジリアスは聖霊達に目を向けたまま、思い出話でもするように話しはじめた。



「私達は、父王と契約していた白の大精霊エディアの魅力に取り憑かれていた。そして、自分も彼女に愛されたいと、強く願っていたのだ」


「エディア様は綺麗だからね。でもだからってこれはないよね。本当、ノーデスって最低だ」



 ライルが牢屋の前にあぐらをかいて腕組みをし、まるで全て、知っていたかのように頷いている。



「私達はどうしようもなく、彼女に恋焦がれていた。だが、エディアは滅多にその姿を人に見せなかった。兄はその気持ちを紛らわせるため、時々精霊を買い取っては美しいだろうと言って私に見せた。私は正直、嫌悪しか感じなかったが……」


「あれは本当に趣味が悪いな……吐きそうだった。やめさせようとは思わなかったのか?」


「兄は、私が意見できるような人ではなかった。それに、まさか、居なくなった精霊達が、こんなことになっているとは思わなかったのだ……」



 辛そうに眉根を寄せるゼーニジリアス。昔見た彼は、慎重でいつも物陰に隠れていたとフィルマン様も言っていた。あんな兄相手では、確かに何も言えないだろう。


 さっきの彼は、あれですごく頑張っていたのだ。



「コレクションの精霊達は、エディアの美しさには負けるが、兄は満足していたはずだった。だが、兄は、エディアを自分のものにするため、ベルガノン侵略の失敗に乗じて父王を暗殺してしまった」


「本当に父親を殺したのか?」


「あぁ。私は兄が、臣下にその命令を下しているのを聞いてしまったのだ……それ以来、私はますます兄が恐ろしくて……」



 ゼーニジリアスが、その時の情景を思い出したように、ブルブルと身震いして続けた。



「その後兄は、自分が精霊コレクターである事実を隠したまま、エディアに愛されようとあれこれ手を尽くした。だが、エディアはなかなか、兄を愛そうとはしなかった」



 ゼーニジリアスの話に、ライルがうんうんと頷いている。



「エディア様はベルガノンを故郷だと思っているからね。先王がベルガノン侵略をはじめた時は相当怒ってたよ。それを見ていたノーデスは、ベルガノンと平和条約を結べば、エディア様に愛されると思ったみたいだけどね……エディア様はいつまでも先王の死を嘆いてた。意見も合わないし、気難しい人だったけど、愛してたから」


「ライル、ずいぶん詳しいな。お前、エディアに飼われてたのか?」


 私がそうたずねると、ライルはザラザラの舌をベロリと出して、口の周りを舐め回した。



「あぁ……エディア様のくれたお魚は、いつも新鮮だったなぁ」


「ライル、報酬がもらえればお前は誰の命令でも聞くのか? というか……いったい、何歳なんだ?」



 私の質問に、ライルは「えへへ」と誤魔化すように笑った。



 ――化け猫ってなんだ。



 獣人の一種だろうと思っていたが、ライルはやはり、得体が知れなかった。



 地下空洞に落ちたターク様の元に、ライルとゼーニジリアスがやってきました。ゼーニジリアスは、ペラペラと昔話を始めましたが、いったい何のつもりでしょう。そして、どうやらエディアに飼われていた様子のライルは、ずいぶんと事情に詳しいようです。相変わらず、何を考えているのか分からないライルに、少し警戒するターク様でした。


次回、第二十章第七話 地下空洞で2~どこまで届いたんだ?~をお楽しみに!



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― 新着の感想 ―
[良い点] ライルの不思議さが、浮き彫りになった回でしたね。 それにしても、達也はターク様もお構いなしに打ってきたですね(>_<)ターク様が風穴あいていてぇ、だけで済んだのには笑いましたが。笑 人間を…
[一言] ターク様が落ちた先にいたゼーニジリアスと、ライル! そして、捉えられてる精霊達! ターク様は皆を救えるのか!?
[良い点] ターク様が冒頭、無駄に格好良く着地しようとするところにクスリであります。この人はまったく、謎に見栄っ張りなんだから。そして、ライルがここまで謎に満ちているのに、気にもとめないアバウトさも流…
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