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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第2章 退屈なゴイムとお疲れのターク

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23/247

11 ターク様は寝不足です。~驚くべき私の最大魔力~

 場所:タークの屋敷(ベッドルーム)

 語り:小鳥遊(たかなし)宮子

 *************



 四日ぶりに帰ってきたターク様は、出会ったあの日と同じくらいかたい顔をしていた。


 そのどんよりとした様子は、私も少し驚くくらいだった。


 口数が減り、目つきが鋭くなって、またすっかり無表情になっている。魔力も底をついていて、ゲージがまったく見えない。


 いつもしっかり伸びていた背筋もかなり丸まっていた。



 ――出かける前のターク様は、どんなに忙しそうにしていても、ずっとキリッとしてたのに。



 サーラさんが言うには、ターク様が治療していたのは、()()()()()()()()()()()()()()()()だったらしい。


 美しい貴族の御令嬢などでは、まったくなかったようだ。


 爺さんと言っても、身長が三メートル近くある巨人で、フィルマンという人だそうだ。二十年前に起こった隣国クラスタルとの戦争で、大活躍した英雄の一人だという。


 ターク様の剣のご師匠様も、その当時、フィルマンさんと力をあわせて戦った。その縁があって、ターク様の幼少期から、師弟ともに、いろいろとお世話になったのだそうだ。



「巨人の治療を癒しの加護でやろうなんて、とんでもない時間がかかるわよ。ご主人様、本当に根気がいいわ」



 驚いた顔をしている私に、勢いよくしゃべり、いろいろ教えてくれるサーラさん。だけど彼女も、なんだかいつもよりお疲れのようだ。



「一度帰って、魔力を回復させたほうが早いと思ったんだがな。フィルマン様が少しも放してくれなかった」



 ターク様も少し渋い顔をして、軽くぼやいている。どうやら、彼の魔力は、フィルマンさんのそばでは、少しも回復しなかったらしい。


 それで結局、癒しの光でじわじわと病気が治るまで、ずっとフィルマンさんの抱き枕にされていたようだ。


 私はほんの少し、いやらしい想像をしてしまったことを、猛烈に反省していた。



「サーラ、疲れただろう。明日は休暇にするといい」


「わ! さすがご主人様! ありがとうございます!」



 サーラさんは、バスルームにターク様の着替えをおくと、嬉しそうに下がっていった。なにも読み取れない無の顔で、その姿を見送っているターク様。



「ずいぶんお疲れですね。ターク様、大丈夫ですか?」



 私が思わずそう声をかけると、ターク様はシャキッと姿勢を正し、キリリとした顔をした。



「私は不死身の大剣士ターク・メルローズだぞ」


「そうですよね……」



 やっぱり、疲れていても、それを認めるつもりはないようだ。


 もっとも、少し離れてみれば、ターク様はいつもどおりキラキラして見える。サーラさんも相変わらず、彼を疲れを知らない鉄人だと思い込んでいるようだ。


 だけど私は、子供のころから見慣れているこの顔の変化に敏感だ。それに、いつもフワフワの笑顔を絶やさなかった達也と、ついつい比べてしまう。だから、余計にそんなふうに感じてしまうのかもしれない。



「お前のほうこそ、調子はどうだ? しばらく治療できなかったが……」



 ターク様は私の後ろに立つと、髪をかき分け、頭の傷を調べはじめた。癒しの加護がふわっと私を包んで、久しぶりにあの、心地よくてくすぐったい感覚がした。



「どうだ、なにか思い出したか?」


「いえ、特にはなにも……」



 ターク様のやさしい手つきが気持ちよくて、ついついぼーっとしてしまいそうになる。でもいまは、少しでも早くお疲れのターク様を休ませてあげたい。


 私は少し大きな声を出して、「ターク様、私、頭の傷はとっくに治ってます!」と、元気をアピールした。



「それよりターク様のほうがつらそうに見えますよ? もう、早く休んでください」



 私が急に振り返ると、彼はおどろいたのか、ふらっとよろめき、そのまま床に膝をついてしまった。



「え……!?」


「なんだ……目眩が……」


「タ、ターク様、すみません、大丈夫ですか!?」


「あぁ、ただの寝不足だ。フィルマン様はいびきがすごくて……」



 ターク様は眉間にしわを寄せ、つらそうに眼を閉じている。


 加護の力で自分の傷や病気はたちまち治ってしまう、というターク様。だけど、どうやら寝不足には弱いようだ。


 はじめて出会ったあの日、ターク様は今日みたいな顔でフラフラしていた。魔力不足のせいかと思ったけれど、あのときも、もしかすると寝不足だったのかもしれない。


 疲れを覆い隠すようにキラキラと輝くオーラで、本当にわかりにくいけれど、よく見ると少し顔色が悪い。


 疲れて膝をついたときですら、こんなに輝いてしまうターク様が、なんだか少し不憫に感じた。



 ――どうも、ターク様を見ていると、ヘロヘロになったサラリーマンを思い浮かべてしまうのよね。栄養ドリンクをガブガブ飲みながら、残業してるみたいな。



 自分ではいまひとつ疲れに気付かないのか、よろけたことに驚いているようにも見えるターク様。



「ターク様、不死身だからって無理しすぎなんじゃないですか? こんな程度でよろけちゃうなんて……。もう、私のことなんておいといて早く寝ましょう!」



 私はターク様を立たせようと背後から胸に手を回し、力いっぱいひっぱってみた。けれど、ターク様はびくともしない。


 仕方なく今度は屈んでいるターク様の下に入り込み、よいしょと背負いあげようとした。それでもターク様はまったく動く気配がなかった。



「お、重い……。立てますか? 早くベッドへ行きましょう。ほら、立ってくださいってば、ターク様……」



 動かないターク様をあらためてよく見ると、彼は床に手をついたまま、おどろいた顔で私を見詰めていた。



「え? どうかしましたか?」


「いや、お前魔力が満タンだな。さっきからあふれて私に入ってきているぞ」


「え? 私の魔力が、ターク様に!?」



 私はおどろいて、パチパチと目を(またた)いた。ターク様が「見てみろ」というので、ステータスを確認すると、彼の魔力がほんのわずかに回復している。



「魔力残量三……これ、私が? というか、私、魔力あったんですか?」



 よく考えると私は、自分のステータスを確認したことがなかった。日本から来た自分に魔力があるなんて、思いもよらなかったのだ。




 ――私の最大魔力、九千!?




 あらためて確認してみると、私の最大魔力はターク様の七倍近くあった。



「そんなに魔力があるのに、自分に魔力があることにすら気付いてなかったのか? ゴイムは最大魔力が高い奴隷がなるものだが……?」


「え!? そうだったんですか!?」


 ターク様は少し呆れた顔をしたけれど、すっくと立ちあがると、またキリリとして言った。


「おかげで目眩は治ったようだ。〇と三ではずいぶん調子が違う」



 ――え? 三で!?



 また強がりなのかもしれないけれど、少しばかり気力を持ちなおした様子のターク様。



「それにしても、こんなに留守にするつもりじゃなかったが……。その間言いつけどおり、なにもせず、すごしていたようだな。その量の魔力を貯めるのは、たいへんだっただろう」


「え? はいっ?」


「なんだ? なにかしたのか?」


「あっいえ、えっと……その……」



 ターク様の言葉に、私は口をもごつかせた。なにもしないですごせと言われたのが、魔力を貯めるためだったとは、思いもよらなかったのだ。


 それに、我慢できずに歌ってしまったことも、かなり後ろめたかった。


 今日なんて、私が歌いはじめると、メイドさんたちがたくさん集まってきて、ほとんどリサイタル状態だったのだ。



 ――これはやっぱりまずかった……?



 慌てる私の顔を、ターク様がじっとのぞき込む。この破壊力抜群の美しい顔! いつまでも見詰められては堪らない……と、私は正直に白状した。



「えっと……少し歌を、歌ってしまいまして……」


「歌? なんの歌だ?」


「日本の歌です」



 思わずそう答えて、私は慌てて口をおさえた。ターク様は私が日本から来たことを、まったく信じていない。


 もちろん、いままでにも何度か、日本から来たことを彼に伝えてはみた。だけど、彼は私が、頭を打っておかしくなったか、幻術にかけられていると思っているようだった。


 そのため、彼にとって意味不明な私の発言は、ほとんどが()()()と解釈されてしまっていた。


 案の定、彼は顔をしかめて首を傾けた。



「日本……? あー、お前の故郷だったか……? うん……大丈夫だぞ、ミヤコ。頭は私が必ず治してやるから、心配するな」


 ――また頭がおかしいと思われちゃった……。



 ただでさえ疲れているターク様に、余計な心配をさせたようで、私はなんだか申しわけない気持ちになった。



「とりあえず、私は風呂に入ってくる。治療はそれからだ」



 がっくりと肩を落とした私を置いて、ターク様はバスルームに消えていった。



 巨人のフィルマンさんを治療して帰ったターク様は、ちょっと心配になるくらいお疲れのようでした。


 よろけたターク様を立たせようとした宮子は、自分にも魔力があったことにはじめて気付きます。


 次回、宮子はターク様からようやくゴイムについて説明をしてもらいます。


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[良い点] ターク様も本当に大変です。 それでも根気よく治療と向き合うのですから、彼は立派です。 彼を恋愛的に好きな方ならば抱き着き治療もどうかと不安がるでしょうが、それが効率いいんですから複雑でも許…
[一言] お疲れのターク様! そして回復する為の魔力にいたってはゴイムの宮子ははるか高い魔力を持っていた。 これは次を楽しみに拝読させていただきますね(*๓´˘`๓) 昨日は読めなくてガッカリしてたか…
[良い点] 魔力が高いとゴイムになれる?けれどあんなに冒頭のように冷遇されるんじゃあやってられませんね(● ˃̶͈̀ロ˂̶͈́)੭ꠥ⁾⁾ 思い返すと最初宮子を痛めつけたアイツらにまだ制裁を加えていなか…
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