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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第20章 囲いの中の戦い

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03 しばしの共闘。~お前!どういうつもりだ!~

 場所:クラスタル城

 語り:ターク・メルローズ

 *************



「抑えきれない! ガルベル様! 皆が気を失う前に城の外へ!」



 鉄壁で囲まれた城の広場に、扉からあふれ出した精霊の闇が充満しはじめ、私、ターク・メルローズはガルベル様に皆の避難を頼んだ。


 いくら私の周囲が浄化されていると言っても、このモヤは危険すぎる。



「そうね、この中で戦うのは限界みたいだわ」



 ガルベル様がそう言って飛び立とうとしたとき、私の周りに五人の精霊達が集まってきた。


 よく見るとそれは、王の書斎でカーテンの奥に飾られていたコレクションの精霊達だった。



「お前、セリスか?」



 冷たい雪の結晶を身にまとった青白い精霊にそうたずねてみると、彼女は「えぇ、そうよ」と答えた。


 だが、精霊達の見つめている先は私ではなく、あの黒いモヤがあふれ出す扉の向こうだ。



「仲間たちの、悲しむ声が聞こえるわ……」



 私の耳には、魔物達の唸り声と、騒々しい足音しか聞こえないが、精霊達には、仲間の苦しむ声が聞こえているようだ。



「お前たちにはここは辛いだろう。離れていろ」


「ダメ。ほおっておけない。それに、願いが届いているわ」



 セリスがそう言うと、他の精霊達もうなずき合って、皆光の玉に姿を変えた。


 彼女たちが私の周りを飛び回ると、私の光が強くなっていく。やはり精霊達は私の体に宿った加護の力を、通常以上に引き出すことができるようだ。



 ――願いが届いている……? ミヤコか?



 私の周りでモヤの浄化が進み、広場の半分ほどは動ける空間になった。



「助かるよ。だが、どうやってあそこから逃げてきたんだ?」


「後ろの彼が助けてくれたわ」



 精霊達に言われて振り返ると、そこにはゼーニジリアスが立っていた。



 ――あー、そう言えばノーデスがカプセルから出して、そのまま放置していたんだった。


 ――この状況で、ゼーニジリアスとも戦わなければいけないのか?



 余計な敵が増えたと思ったが、ゼーニジリアスは兵から奪った剣に水の属性を纏わせ、魔物と戦いはじめた。



「ゼーニジリアス! お前! どういうつもりだ!」


「どうもこうもない。私は精霊達を愛していると言ったはずだ」


「お前! シュベールを剣で突き刺したくせに! アクレアだって悲しませただろ!」


「精霊達を助けるためにやったことだ。それに、あの時の私は半ば闇に堕ち、正気を欠いていた」


「ふざけるな! そんな言い訳……!」



 私とガルベル様が身構えたその時、突然となりでマリルが倒れ、城を囲っていた燃える鉄壁が消え去った。



「マリル!」



 城内に囲い込まれていた魔獣達が、壊れた城の穴から、門から、または体当たりで壁を壊し、城から街へあふれ出していく。


 倒れたマリルをエロイーズが抱き起こした。



「マ、マリル様! しっかりしてください!」


「ごめんなさい、魔力が切れてしまいましたわ」


「いや、よく頑張ったよ、マリル」


「ええ。あなたは立派な英雄だわ」



 口々に褒められ、辛そうな顔に、はにかんだ笑顔を浮かべたマリル。彼女は本当に高潔だ。



 城からあふれ出した魔物の大半は、街の中央の広い大通りを突き抜けるように走り、城壁の門から真っすぐにベルガノンを目指しているようだ。


 しかし、残った魔物は、容赦なくディーファブールの街を踏み潰している。闇魔導師の指示が行き届いていない魔物がそれなりに居るのだ。



 ――ベルガノンに行かれるのも困るが、異国とは言え、歴史ある街が潰されるのは残念なことだな。住民たちもとても守り切れない。



 地獄のような光景に、心が遠くへ離れていく。見えているものも、騒がしい音も、どこかここではない、別の世界の出来事のようだ。


 一瞬呆然としてしまった私だったが、背後から「ラストリカバリー!」と叫ぶ声がして、私は慌てて振り返った。


 春の森の湖のような、あの青い光が城とディーファブールの街を包み、皆の体力と魔力が全回復している。


 あの最上級魔法を発動したのはなんと、ゼーニジリアスのようだった。



「おぉ、ギックリ腰が治ったわい」


 フィルマン様が嬉しそうに立ち上がるのを横目に見ながら、「ゼーニジリアス……?」と呟くと、彼は偉そうな態度でマリルに話しかけた。



「おい、そこの赤い女。早くさっきの壁を出せ! 魔獣はまだまだ湧いてくるぞ」


「何なんだお前! 偉そうにマリルに命令するな!」


「囲わなくていいのか? 魔獣達はベルガノンを目指しているのだぞ」


「く……」


「私はクラスタルの王族だ。頭のおかしい兄を恐れ、放置してしまった責任をとりたい。しばし共闘だ」



 そう言いながら水の剣で魔獣を倒すゼーニジリアス。やつの剣技はやはり、凄まじい強さだ。


 アーシラの遺跡で散々切り刻まれたことを思い出すと反吐しかでない。


 私が顔を顰めていると、象型の魔獣の巨大な鼻が私を襲った。



 ――しまった。避けきれない――



 そう思った瞬間、ゼーニジリアスの水の剣が、魔獣の鼻を切り離し、魔獣は悲鳴を上げて立ち上がった。


 私は何事もなかったかのように剣を振って回転し、その隙だらけの魔獣の腹を真っ二つに切り裂いた。



「余計な手出しはいらない」


「今()()()()()に戻られては困るのでな」


「なっ……!」



 悔しさに声が出ないが、確かに今は、少しでも戦力が必要だ。


 ゼーニジリアスのラストリカバリーで、さっき魔獣に踏みつぶされた街の人々も回復して助かったかもしれない。クラスタルの王族が自国民を守るのは、当然と言えば当然なのだが、兄が兄だけに、ゼーニジリアスが少しマシに感じた。



 ――まぁいい、こいつを捕まえるのは後回しだ。




「バーニングアイアンウォール!」




 体力と魔力が全回復したマリルは、またすっくと立ちあがって、鉄壁を発動した。



「あふれた魔獣を倒してくるわ。さすがにあの数じゃ、イーヴ達だけでは厳しいわよね」



 そう言ってガルベル様が飛び去っていく。



 残された私達は、扉からまだまだ湧きだしてくる魔物を倒し続けた。


 しかしやはり、この地下に居るという、闇に堕ちた精霊達を浄化しないことには、魔物が尽きることは無いのだ。



 ――ノーデスのやつ、百人分とか言っていたな……。


 ――セリス達の助けがあったって、とても私には浄化できないぞ……。



 自分の輝きの強さと相反する絶望感に、軽いめまいを感じていると、大きな振動が足元に響きはじめた。



「ひゃぁ!」


「なんだ!?」


「地面が崩れそうです!」


「地下で何か暴れてるみたいですわ!」


「これはでかそうじゃのぉ」



 地下から何か巨大な魔物が、地面を突き破ろうと、頭突きをしているようだ。


 地面がバキバキと地割れを起しはじめ、次第に盛り上がっていく。


 グラグラと揺れる地面の上でバランスを取りながら、私はミヤコとミレーヌを抱えた。マリルとエロイーズはフィルマン様に抱えられている。


 ドゴン! ドゴン! と突き上げて来る振動で、地面が派手に割れて盛り上がり、端から地下空洞に砕け落ちていく。



「うあぁ! おちる!」


「カミル隊長!」



 コルニスはいつの間にか割れてしまったらしい丸眼鏡を投げ捨てると、カミルを抱きかかえ、「ウィンドウイング!」と、呪文を唱えた。


 彼の足元から巻き起こった緑の風が、彼のおかっぱの髪を巻き上げると、予想外に整った顔が露わになる。



 ――コルニス、そんな顔だったのか!


 ――ずいぶん美形だな。



 風はすぐに翼の形になり、コルニスはふわっと舞い上がると、城壁の上に降り立った。


 精霊と契約しているわけでもない、一般の治癒魔法師の彼が、あそこまで飛べるとはおどろきだ。やはり彼は、なかなか出来る男のようだ。


 次第に広場に足場が無くなり、私とフィルマン様もジャンプで城壁の上に飛び乗った。


 そこにミヤコ達を置き、大穴の開いた広場を見下ろすと、ポルールでも見たこともないくらいに巨大な魔物が、広場の中心に立ち上がった。



 セリス達の助けでターク様の光が強くなり、広場はまた動ける状態に。そして、現れたゼーニジリアスとなぜか共闘する羽目になるターク様。


 さらに広場の足元が崩れ、城の地下から超巨大な魔獣が現れました。たまに見えるコルニスの顔におどろきつつ、更なる戦いが始まります。


 次回、第二十章第四話 ブーギンモス。~メテオと黒い騎士~をお楽しみに!


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― 新着の感想 ―
[良い点] この緊迫したシーンで、コルニスの顔に焦点がッ!笑 すごいシーンなのに笑ってしまいました。 マリルさんも手玉に取ってる感じしましたし、きになりすぎます! 次話を楽しみにしています(^^)
[一言] 溢れ出す魔物!! ヤバイ大穴!! これはどうなってしまうのか!?
[良い点] ゼーニジリアスが味方となるとは胸熱の展開ですね。とても良いと思います。ラストリカバリーもてっきり宮子かと(笑)マリルさんをみんなで褒めるところもとてもみんならしくて面白かったです。
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