02 願い下げです!~放たれた電撃剣~
場所:クラスタル城
語り:小鳥遊宮子
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操られているクラスタルの民を出来るだけ傷つけないようにと、ガルベルさん達が手加減して戦っている間にも、城の屋上からは次々に矢と大砲が撃ち放たれていた。
「秘宝を持ってるっていうのに、ノーデスは空も飛ばないし、魔法も使わないのね」
「ノーデスは精霊に全く愛されてないですからね。使いたくても使えないんじゃないですか?」
「なるほど、そうね……!」
飛んでくる矢を大剣で弾き返しながら、ターク様がガルベルさんとそんな会話をしている。
『そいつは、誰も救わない、ただの闇だ』……達也が遺跡で言った通り、精霊の秘宝で何でも願いが叶うなんて、あんなのはやっぱり、大嘘だった。
近づいた人間の願いを叶えてみたり、呪いをかけてみたり、それらは全部、ノーラが気まぐれにやっていることだ。
――だって、達也を助けてって、確かに願ったもの。それなのに……。
ノーラには腹が立つけれど、ノーデス王が強力な魔法を使えないのは、不幸中の幸いだった。
フィルマンさんは今にも魔獣が出てきそうな扉の前で大剣を振り回し、砲弾を打ち返している。
ドゴーン! ドゴーン! と大きな音を立てながら、打ち返された砲弾で城の壁がどんどん倒壊していた。ものすごい迫力だけど、今はノーデス王を避けるように打ち返しているようだ。
「どうするんじゃ!? ノーデスをあのまま放っておくわけにいかんぞ」
「フィルマン様、ノーデス王は私が倒します! ライトニングソード!」
フィルマンさんの問いかけに、はっきりとそう答えたミレーヌは、ノーデス王めがけて、躊躇いなく電撃剣を放った。
バチバチと稲光をあげる剣に貫かれ、真っ黒になったノーデス王が膝をつき、倒れたのが見えた。
「あんなのがお父さんだなんて、願い下げです!」
ミレーヌが、はぁはぁと肩で息をしながら大声で叫んでいる。
「よぉし! でかしたぞぉ、ミレーヌ!」
「まったくよね。やるじゃない!」
「お、おぉ。よし。いいぞ!」
「やりますわね」
みなは目を丸くしながらも、ミレーヌを称賛した。
ようやく大砲が止んだ広場に、扉からあふれ出そうとする魔獣達の突進の音が響いている。
ノーデス王の指示で大砲を撃っていた兵士達も、焦げたノーデス王を置き去りにして逃げ出した。
「もう、扉が保たない……!」
ターク様の声にあわてて振り返ると、ついに内側から扉が破られ、闇のモヤと共に、大小の魔物があふれはじめた。
インプやゴブリンのような小さいものから、ワームやイエティーなどの三メートル程のもの、時には五メートルを超える巨大な獅子や象などの魔獣も、扉周辺の城を破壊して上がってきた。
「ぎゃぁ! 数がすごい」
「ミヤコ! 私から離れるな」
ひしめき合うようにあふれ出した魔物で、あっという間に城の広場が魔物だらけになっていく。
ターク様は私を守りながら、地下から湧いてくる魔物を次々に切り倒しはじめた。金色に輝く大剣のパワーは絶大で、広場の端まで届くような強力な光の波動で、魔獣達が一気に切り裂かれていく。
ターク様の瞳は金色に光り、体からあふれる癒しの加護も、彼の闘気で揺らめいているようだった。
――すごいパワーと気迫! やっぱり戦うターク様は最高にかっこいい!
だけど、同じように戦いはじめたフィルマンさんは、「くぁっ、いかん! ぎっくり腰じゃ!」と叫んで、その場にしゃがみ込んでしまった。
「隊長! 眠ったクラスタルの国民を運び出しますよ。このままではみんな魔物に踏みつぶされてしまいます」
「ん!? あぁ。そうだよね。今のうちに安全な檻にでも詰め込んでおこうか」
「しっかりついてきてください」
「あ、待ってよ、コルニス」
カミルさんはコルニスさんに言われるまま、眠ってしまった闇魔導師達を運びはじめた。なぜか少し、二人の立場が逆転したように見える。
そんな二人の様子を見て、ターク様が「いいぞ。コルニス」と、親指を突き出した。
「魔物が城の外にどんどんあふれ出てるわ!」
「街が……それに、この魔物、やっぱりベルガノンを目指してますね」
「まずいわね。イーヴだけで食い止められるかしら」
「これ以上城の外には行かせませんわ! バーニングアイアンウォール!」
マリルさんが鉄壁を発動し、城の周りを囲った。さっきの砲弾で、広場を囲んでいた城の壁は、あちこち穴が開いていたのだ。
だけど、しっかり囲ってしまうと、鉄壁の中にどんどん闇のモヤが充満してしまうようだ。
ターク様は私を抱えたまま、すぐにマリルさん達のそばに移動した。ターク様の近くは、モヤが浄化されていて安全だ。
戦うターク様の周りに身を寄せながら、ミレーヌは電撃剣を放ち、ガルベルさんもファイアーボールで応戦していた。エロイーズさんはいつも通り、しっかりマリルさんを守っている。
だけど、闇のモヤはどんどん濃くなり、魔獣の数も増える一方だった。
「だめだ、キリがない! このままでは浄化も追いつかないぞ!」
「ポーションがなくては鉄壁も長く持ちませんわ!」
「抑えきれない! ガルベル様! 皆が気を失う前に城の外へ!」
「そうね、この中で戦うのは限界みたいだわ」
ガルベルさんが皆を連れ、城の外へ飛び立とうとしている。確かにこのままでは、ここで戦うのは難しいだろう。
だけど、この場所での戦いを諦めれば、魔物達はどんどん広範囲に広がっていく。そして、無限に出現する魔物達の目指す先はベルガノンだ。
――そんな……。
頭がくらくらするのを感じながら空を見上げると、色とりどりの五つの光がこちらに近づいて来るのが見えた。
ミレーヌがノーデスを攻撃し、ようやく砲撃が止まった城の広場に、大量の魔物達が溢れ出しました。城から魔物が出るのを防ごうと、マリルが鉄壁を発動しましたが、囲いの中はモヤが充満して危険な状態に。諦めて城の外に出ようとするターク様達ですが……。
次回はターク様の語りです。
次回、第二十章第三話 しばしの共闘。~お前!どういうつもりだ!~をお楽しみに!




