01 止まぬ砲撃。~ガルベルも甘いのう~
場所:クラスタル城
語り:小鳥遊宮子
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突然城壁の上から飛んで来た砲弾に、私、小鳥遊宮子は「ひあぁぁ!」と、情けない悲鳴を上げた。
見上げると、城壁の上の通路から、兵士に大砲を撃たせているノーデス王の姿が見える。私達とクラスタルの戦いは、さっそく幕を開けてしまったようだ。
と言っても、処刑執行の為、広場に居たクラスタルの兵たちは、ガルベルさんのチャームにかかっているし、見学しようと集まっていたクラスタルの国民たちも、突然の砲撃に驚いて右往左往しているようだ。
「自分の城に大砲を撃ち込むなんて、頭がおかしいですわ!」
「この様子だと、進軍の準備なんて出来てないでしょうね」
「ガルベル様。ノーデスは地下にため込んだ魔物を放つつもりです。あの扉を開けさせるわけにはいきません!」
「分かってるわ!」
明らかに大砲は、ターク様の指差した巨大な鋼鉄の扉を狙っているようだ。
そして、多分あの怪しい扉は、ガルベルさんの水晶で見た、巨大な地下空洞に繋がっている。
そこには、大量の闇のモヤと恐ろしい魔物達が蠢いていたのだ。あんな物が地上にあふれ出したら、大変なことになってしまうだろう。
「わしに任せるんじゃ!」
砲台から、飛んできた砲弾を、フィルマンさんが大剣で弾き返すと、砲弾がノーデス王のいる正面の城壁に直撃し、ドゴン! と大きな穴が開いた。
あちこちから悲鳴が聞こえ、人々が城から逃げ出していく。
驚いて振り返ると、フィルマンさんは、普段のほっこりとした様子とは打って変わって、まるで鬼のような顔をしていた。
煮えたぎった怒りが噴き出すように、身体中から湯気が立ち上がっているのだ。
――すごい迫力!
ポルールでは、フィルマンさんの戦う姿を上空からチラリと見ただけだったけれど、近くで見ると、この気迫だけで足がすくみそうだった。
「ちょっと、フィルマン様、関係ない人がいっぱい死んじゃうよ!」
カミルさんが、慌てた顔で興奮状態のフィルマンさんを鎮めようとしている。
カミルさんは普段から街を守っているだけあって、クラスタルの国民が巻き添えになるのを心配しているようだ。
「関係ないやつなぞおらん! これは、戦争じゃ!」
「何も知らない一般の人がいっぱいいます。逃げるのを待ちましょうよ!」
「呑気なことを言っておると、地面に穴が開くわい!」
その様子を見ていたターク様も、慌てた様子でフィルマンさんを止めた。
「待ってください、フィルマン様。ノーデスは、ミレーヌの父親です!」
「なんじゃと!?」「えぇ!?」
皆がおどろいて一斉にミレーヌを見たけれど、彼女はあまりおどろいた様子もなく、ただ、辛そうに唇を噛み締めた。
小さい頃、クラスタル城に住んでいたことを覚えていた彼女は、他にも何か、覚えていることがあるのかもしれない。
驚きでフィルマンさんの手が止まった次の瞬間、またノーデスが大砲を放ち、新しい砲弾が飛んできた。
「わっ!」と思ったとたん、扉の前に巨大なキノコが生え、肉厚の柄が、砲弾を受け止める。
かなり威力を抑えたものの、砲弾はキノコを貫通し、ドゴン! と鋼鉄の扉をゆがませた。
――ここに、自分の娘がいるっていうのに! 気付いてないの!?
「あぁっ、扉に隙間が! ターク様、モヤがもれてきます」
「隙間から闇魔道士達が出てきたぞ」
「ノーデス王の御心のままに……」
「やはり、どこかの秘宝を持ち出しておったか……! なんて人数じゃ」
私達を取り囲んだ闇魔導師達を見回しながら、フィルマンさんが再び大剣を構えた。
「どうやら、自国の魔法師たちを手当たり次第闇堕ちさせていたようですね」
ノーデス王は、コレクションされ闇に堕ちた精霊を城の地下に閉じ込め、モヤから溢れ出た魔獣を鎮めるため、自国民を闇堕ちさせていたようだ。
「これのせいで、誘拐事件や殺人事件が頻発しておったんじゃろうな。どおりで、街が静かだったわけじゃ。みな怖がって隠れておったんじゃ」
「まぁ! とんでもない王様ですわね!」
「どのみち、もう抑えきれなくなっていたようだな。戦争を口実に、魔物をベルガノンへ向かわせようとしているようだ」
「うえぇ、これじゃまるで魔王だよ」
皆が武器を構えながら、呆れた顔をしている。クラスタルの国民達は、めちゃくちゃな王様の被害者のようだ。
「魔導師達は操られてるだけね。出来るだけ殺さず、気絶させましょう」
広場に数十人の闇魔導師が現れ、みなが闇魔導師に魔法攻撃を開始した。ガルベルさんの提案に従って、マリルさんやカミルさん達も、通常より軽い魔法攻撃にスリープの効果をのせて攻撃しているようだ。
攻撃が当たった闇魔導師たちは、その場でぐうぐうと眠りはじめた。しかし、人数も多く、何人かは建物の陰などに隠れてしまっている。
「ガルベルも甘いのう。はようせんと、魔物を操られてしまうわい」
「もう始まってますね」
扉からあふれ出した闇魔道士に加え、城の中からも闇魔導師が現れ、広場のあちこちで呪文を唱えはじめた。
鋼鉄の扉を内側から押し開けようと、魔物達が突進する音が響きはじめている。
ドゴン! ドゴン! と、重量感のある衝突音とともに、グルグルと低い、魔物の唸り声が、地鳴りのように足元から響いてくる。
地下にいる魔物達が、闇魔道士の魔法で興奮しはじめたようだ。
さらに城の屋上に沢山の兵士達が並び、私たちに向かって矢を放ちはじめた。
「守りはお任せください!」
エロイーズさんが降り注ぐ矢から、皆を光の盾で守ってくれている。
「おいおい。あいつら、なぜ逃げないんだ。ここがどれだけ危険かわかってないのか?」
「あれも幻術にかかってるわね。とにかく、全員気絶させるのよ」
大量の矢が降り注ぐ中、闇魔導師達の不気味な詠唱の声と、恐ろしい魔獣の唸り声が響いている。
――私も何か出来ればいいけど……怖すぎて声も出ない!
私はターク様の後ろに隠れ、とにかく身を縮めていた。
自分でため込んだ魔物を制御しきれなくなり、ベルガノンへ向かわせようとしている様子のノーデス。彼に操られる兵や魔導師を殺す事を躊躇したガルベル達は、彼らにスリープを仕掛けますが、魔物が扉を突き破って出てきそうです。
次回、第二十章第二話 願い下げです!~放たれた電撃剣~をお楽しみに!




