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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第19章 クラスタル

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08 王の書斎で4~愛され方を知らない男~

 場所:クラスタル城

 語り:ターク・メルローズ

 *************



「美しい……。其方、なかなかいいではないか」



 そんなことを言いながら、本当に気持ちの悪い手つきで、ノーデスは私の横顔をなぞった。



「やめろノーデス。無理するな」



 敬称を使う気も失せ、私は隣国の王を呼び捨てにした。


 しかし、彼は私が不遜な態度を取っても然して怒った様子もない。



「ふん。無理などしていない。余は其方に興味があるのだ。其方、どんな傷を負っても元に戻るらしいではないか。不死身の気分とはどんなものだ? 申してみよ」


「まぁ、良かったり悪かったりだが……。どちらかと言えば、困ることの方が多いぞ」


「なるほど、それなら余に、その力を譲る気はないか?」


「いずれ手放すつもりではあるが、お前は無理だな。危ない奴すぎる」


「ふん。あれだけ仲間を捕らえられているというのに、ずいぶん余裕なのだな」



 ノーデスは不自然に頬を持ち上げ、冷ややかな青灰色の目を三日月形にして、不気味な笑顔を作っている。


 よほど私に愛されたいようだが、捕らえた仲間をダシに、私を脅している時点で、やはり愛され方を理解していないように思う。



 ――それにしても、こんなに精霊に執着しているのに、微精霊にすら愛されないとは不憫なやつだな。



「あの人達をあんな縄で捕まえられるわけがないだろ。まさか、私を人質にしたつもりじゃないだろうな」


「其方では人質にならないと?」


「そうだ。あの人達は私の心配などしない。私は不死身だからな」



 弾みでそう言った私だったが、脳裏に私を心配する仲間達の顔が浮かび、苦々しい思いが胸に広がった。


 自分を取り巻く愛に気付いた私は、この不死身がどれだけ周りに心配をかけているのか、昔より理解するようになった。


 しかし、皆には私の心配などせず、さっさと逃げてもらいたいというのが、今の私の本音だ。


 ガルベル様なら、皆を連れてここから逃げるくらいのことは造作もない。



 ――戦うにしてもとにかく、ミヤコ達を無事に国に返してからだ。


 ――わかってますよね、ガルベル様。信じてますよ?



 イーヴ先生がいるとは言え、一般の騎士達や並の魔法士達だけでは、ベルガノンはクラスタルに兵の人数で大きく負けている。


 それでも、ノーデスが建前の平和条約を今まで守っていたのは、ガルベル様が怖かったからに違いない。


 弟の水の力を奪えば彼女に勝てると思ったのかもしれないが、それも今さっき失敗に終わった。


 ガルベル様さえ国に戻れば、もしかすると、この戦争騒ぎも収まるかもしれないのだ。


 とにかく今は、皆の逃げる時間を稼ぎたい。


 そんなわけで私は、このむかつくノーデスの相手を、出来るだけ長くする必要があった。



「ふふん。まぁいい。其方は人質ではない。コレクションだ」



 ノーデスの言葉に、私がどうしようもなく顔を引きつらせると、彼は返って不気味な笑顔を強めた。


 そして、私の手を取ると、血の滴る自分の唇に、私の指を押し当てる。


 彼の腫れた唇が、私の癒しの加護で治っていった。



「素晴らしい……」



 恍惚とした表情で、私の手にキスするノーデス。本当にもう、寒気がひどい。


 咄嗟に手を引きそうになったが、まだ動けるのは知られたくない。



 ――くそ。反吐が出る! これならそこの弟に、切り刻まれてる方が百倍マシだった!


 ――だが、もうそろそろ、囚人が逃げたと連絡が来るんじゃないか?



 私はこみ上げる吐き気に耐えながら、横目でチラチラと何度も扉の方を確認していた。



「んふふ。治癒能力か、良いではないか。治りは遅いが、心地よくて不思議な感覚だ。其方、特別に余のベッドルームで可愛がってやろうか。きっと余を愛したくなるはずだ」



 ――ふざけるな!



 と思うものの、あまり怒らせて、進撃を早める訳にはいかない。私が唇を噛み締めたその時、やっと兵士が駆け込んできた。



「陛下! 囚人達の、処刑の準備が整いました!」


「な、何だと!? なぜ逃げてないんだ、ガルベル様!」



 予想とかけ離れたその報告に、私が思わず声を張り上げると、ノーデスは恐ろしい顔でニヤニヤと笑った。



「どうやら、あれに恐れをなして、抵抗するのをやめたようだな」


「いったい、どういうことだ。あのガルベル様が、何も抵抗せず処刑台に登っただと?」


「国に帰って応戦しても、クラスタルには勝てないと腹を括ったのだろう。下手に苦しむ前に自ら死を選ぶとは、懸命な判断だな」


「あり得ない……」


「ふふ。そうだ、囚人達の中には、其方の恋人もいるらしいではないか。不死身の剣士よ。処刑の見物をさせてやろう」



 ノーデスはそう言うと、呆然とする私を引きずってバルコニーに出た。そこから見下ろした広く殺風景な中庭に、斬首台に並ばされているミヤコ達の姿が見える。



 ――嘘だ。あり得ない、あり得ない!



 悪夢のような光景に、私は目を疑った。こんなのはまるで、この世の終わりだ。


 固まっている私に、ノーデスは広場の奥にある建物の扉を指差して言った。



「教えてやろう。あの扉を開けば、余が二十年溜め込んた精霊の闇があふれ出すのだ。あれを解放すれば、ベルガノンは終わりだ」


「二十年分の精霊の闇だと!?」


「そうだ、それも精霊百人分のな」


「ノーデス……気が狂ってるのか? そんなものを城から放ったら、ベルガノンの前に、クラスタルがタダじゃ済まないぞ」


「ははは。確かに。だが、力を持てば、使ってみたくなるのが人間というものだろう。二十年以上かけて、結局手に入れられたのが汚れた闇の力のみだったのは、少し残念だがな」


「ふざけるな! 扉は絶対開けさせない、ミヤコ達も、殺させない!」



 私はそう言うと、必死にノーデスを押し退けバルコニーから飛び降りた。飛び降りたというより実際は、転がり落ちたというところだろうか。



 ――くそ、体が動かない。潰れる!



 メロウムの腕輪が割れるようにと、腕を下に向けてみたが、頭も地面を向いてしまった。


 目の前にグングン地面が迫ってくる。


 あまりの恐怖に声も出ず、私は息を止め、目を閉じた。



 ガルベルが宮子達を逃がしてくれると信じて、気持ち悪いノーデスに耐え、時間稼ぎをするターク様。しかし、彼の願いむなしく宮子達は斬首台に並ばされてしまいました。慌ててバルコニーから飛び降りたターク様ですが……。


 次回、第十九章第九話 長生きしてください。~ギロチンとキノコと砲弾と~をお楽しみに!



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― 新着の感想 ―
[良い点] 気持ち悪いおじさんですね( ̄O ̄;) 自分がイタイことがまるでわかっていない、と。 ターク様、宮子を帰したくない気持ちを抑えて帰すと言えてえらいですね。次話のタイトルがとても気になるのです…
[一言] これは!? ターク様もどうにもならない状況にみやこ達が斬首台へと!! 早く続きを!! 花車様の話俺の心捉えるからついつい次を読みたくなって(*'-'*///)
[良い点] なるほど。なかなか大層なものをためこんでいたのですね、ノーデス王は。そして、とてもキモくて素晴らしいです。本当に変態の鑑ですね。 [一言] 私、良かれ悪しかれ、突き抜けたキャラクター大好き…
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