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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第19章 クラスタル

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07 王の書斎で3~エディアと平和条約~

 場所:クラスタル城

 語り:ターク・メルローズ

 *************



「苦労して手に入れ、こんなに可愛がってやっているのに、こいつらは闇に堕ちるばかりだ。愛を知らない精霊が闇に堕ちれば、その力も闇に飲み込まれてしまう。非常に嘆かわしいことだな」



 不満そうにぼやくノーデス王を、ゼーニジリアスはひどく恨めしそうな顔で睨んでいた。



「そう思うなら、こんな酷いことはもう終りにするべきです。精霊達が哀れだとは思わないのですか?」



 さっきまでおびえて泣いているばかりだったゼーニジリアスが、兄を諭そうとしている。


 彼が精霊を愛しているというのは、全くの嘘ではないようだ。


 壁に飾り付けられた、哀れな精霊達の姿を見て、恐れ以上の怒りが湧いてきたように見える。



「ふん、精霊の力を集めようとしていたのはお前も同じだろう。分かっているぞ。お前も本当は、エディアが欲しかったのだろう。彼女の投げ出した力を集めれば、彼女を元に戻せるとでも思ったか?」


「……あぁ、エディア……愛している……一目見た瞬間から、ずっと……アクレアも、ゾルドレも……」



 ノーデスの質問に、ゼーニジリアスは悲しげにそうつぶやいた。


 美の女神と見まがうほどに美しかったというエディア。彼女の美が、この男を狂わせたのだろうか。


 ゼーニジリアスが複数の精霊を同時に愛していたその根本は、エディアへの愛だったようだ。


 以前は単なる()()だと思っていたが、複数を愛する、そのこと自体が悪いことなのかどうか、今の私には分からなかった。


 イーヴ先生のように、相手がそれを認めてさえくれれば、意外とうまくいく場合もあるのだ。重要なのは本人に、それを認めさせるだけの魅力があるかどうか、そこなのかもしれない。


 精霊の気持ちはよく分からないが、今確かに言えることは、この二人、特にノーデスには、何の魅力も感じないということだ。


 壁に飾られた精霊達が、悲しげにすすり泣いている。


 精霊達を捕まえ、美術品のように飾り付けることが、彼女達を愛することになると、ノーデスは本気で思っているのだろうか。



「こんなものを見せて……エディアをあれだけ悲しませたというのに、兄さんはまだ懲りないのか?」



 ボロ雑巾のように床に転がったまま、ゼーニジリアスは怒りのにじむ顔で兄を見上げた。



 ――これをエディアに見せたのか? これでは、白の大精霊と言えど平静ではいられないだろう。


 ――しかし、嫌われると分かっていて、どうしてエディアにコレクションを見せたりしたんだ?



 弟の質問に、ノーデスは不思議そうに首を傾げた。「見せて何が悪い」と言いたげな顔だ。


 そして、ゼーニジリアスの返り血が付いた手で、精霊達の体をなでる。


 触られた精霊は、怯え切った顔で「ひっ」と声をあげた。



「ニジルド……エディアを悲しませたのは余ではないぞ。彼女が故郷と呼んでいたベルガノンを、侵略しようとした父王だ。私は父王の暴走を止め、面倒な思いをしながらも、ベルガノンと平和条約を結んだ。そうすれば彼女に愛されると信じてな。まぁ、全くの無駄骨だった訳だが……」



 悪びれる様子もなく、平和条約を結んだ不純な動機を、私の前で話すノーデス。私のことはもう、標本の一つくらいにしか思っていないようだ。


 ベルガノンを愛するエディアに気に入られようと、彼も少しはまともな努力をしたらしい。



「エディアは確かに、ベルガノン侵略について父王と揉めていた。しかし、彼女は父王を愛していたんです。……それを……あなたは、父王を……」


「どうした。ニジルド。何か言いたそうだな」



 光を失ったように冷ややかな青灰色の瞳で、ノーデスは脅すようにゼーニジリアスを見下ろした。「それ以上しゃべるな」と言わんばかりだ。



 ――まさかこいつ、エディアの力欲しさに自分の父親を……?



 ゼーニジリアスは、赤い目に涙を溜めながらも、さらにノーデスの説得を続けた。



「に、兄さんは、精霊にも私にも、愛される資格なんてない! 諦めてその精霊達を解放してください。自分の娘までコレクションにして、失ったことを忘れたんですか?」


「ふん。エディアめ。余を差し置いてミレーヌに()()を与えたりするからあんなことになったのだ。勝手に力を投げ出したばかりか、娘まで誘拐しおって。身勝手な精霊は許せない」



 ――え、ミレーヌが、なんだって!? ノーデス王の娘?



 急に出てきたミレーヌの名前に、思わず尻が浮きそうになったが、私の体は、簡単には動かなかった。


 しかし、よく考えれば、全属性の力を持つ彼女が、エディアの居たこの場所に居ても何の不思議もない。



 ――ミレーヌを、エディアが誘拐……? いや、自分が与えた祝福が原因で、コレクションにされていたミレーヌを助け出したのか。


 ――ノーデス! 今までに出会った人間の中で、ダントツに最低なやつだ。



 息をひそめて話を聞いていると、彼らはペラペラとよく喋り、私は大体の事情を把握した。しかし、ノーデスとエディアのいざこざは、思った以上に深刻だったようだ。


 ノーデス王は飾り付けた精霊達に順番に顔を寄せると、「どうだ? そろそろ私を愛する気になったか?」と聞いてまわった。


 そして、全員が「吐きそうです」という顔をしたのを見ると、彼はくるっと振り返り、ついに私の方へ歩きはじめた。


 全身の血の気が失せ、寒気で背中が凍りつきそうだ。


 今すぐバルコニーから飛び降りたい衝動に駆られながら、私は必死に彼から目を逸らしていたが、ノーデスはついに、私の前に立った。


 顎を二本の指でつままれ、逸らしていた顔を持ち上げられて、じっくりと顔を眺められる。


 仕方なくノーデスの顔を見あげてみると、弟に噛みちぎられた唇が紫に腫れ上がり、いまだにポタポタと血が流れだしていた。


 そんな状態で、私に愛されようと、頑張ってやさしい微笑みを作ろうとしている感じが、なんとも言えない気色の悪さだ。



「不死身の大剣士ターク・メルローズか。生命力にあふれる金色の光……美しいな。男の精霊は変なのが多いが、其方はなかなかいいではないか。どことなく、エディアの気配を感じるぞ」



 そう言いながら私のとなりに座り、私の横顔を指でなぞるノーデス。こいつは、もしかして、そっちの人なのだろうか。



 ――何にしても、あまりに嫌悪感がひどい。


 ――これ以上触られるとトラウマが増えそうだ。



 そんなことを考えながら、私は彼の顔を睨みつけていた。



 兄に愚行をやめさせようと、必死に説得するゼーニジリアス。二人の会話で、大体の事情を把握したターク様は、ノーデスへの嫌悪感が止まりません。


 しかし、そんな彼の前に、ノーデスはついに立ったのでした。


 次回、第十九章第八話 王の書斎で4~愛され方を知らない男~をお楽しみに!



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― 新着の感想 ―
[良い点] なんと! ミレーヌにそんな秘密が! そしてターク様の貞操の危機が( ゜д゜)! いろいろ驚きの回で楽しかったです♡
[一言] ノーデス王! 本当に酷いやつですね! しかもなんとあのミレーヌの父親だったとは!? これはなんとか会心させなければ! 続き楽しみに拝読させていただきますね꒰(⑉• ω•⑉)꒱
[良い点] ノーデス王、突き抜けていて良いですね。素晴らしいと思います。程度の差はあれ、ターク様も人の気持ちを忖度できない点はあまり変わらないのに、客観視出来るとドン引きなのですね。人間らしくてとても…
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