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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第19章 クラスタル

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06 王の書斎で2~何を見せられているんだ?~

 場所:クラスタル城

 語り:ターク・メルローズ

 *************



 ノーデス王は青く輝く弟の姿を見て、「おぉっ」と嬉しそうに声を上げ、恍惚とした表情を浮かべた。



「素晴らしいぞ我が弟よ。美しいではないか。どうだ? 久しぶりに会った兄に、敬愛を感じるか?」



 手に持ったメロウムを押し当てながら、ぐったりとしている弟を抱きしめ、妙に甘い声で囁くノーデス王。彼の大きな手が、弟の長い銀色の髪を、やさしい手つきでなでている。



 ――なんだ? ちょっと気持ち悪いな。



 単純に兄弟の仲がいいだけなのかもしれないが、体格の良い男二人の、その妙な体勢と密着具合に、なぜだかひどい嫌悪を感じる。


 ゼーニジリアスは、両目から涙をボロボロと流し、引きつった顔で、「うぁっ。うぁっ」と、声を上げた。



「弟よ。まさかお前が、エディアの力を持って戻るとは。臆病で恥ずかしい弟だとばかり思っていたが、余はお前を見直したぞ」


「ヒィ……。兄さん、許してください。私は、あなたを愛してません! この力をあなたに渡すことは、不可能なんです」


「嘘をつくな。子供の頃あんなに可愛がってやったではないか。さぁ、今こそ余に恩を返す時だ。兄にその力を差し出せ」



 ノーデス王はそう言うと、弟の口に思い切り唇をかぶせた。


 押し倒され、何度もキスされるゼーニジリアス。私はそれを、恐怖に見開いた眼で眺めていた。



「くっ、あっ、兄さん、やめて……!」



 ゼーニジリアスの喘ぐ声が響く中、全身の毛がゾワゾワと立ち上がるのを感じる。



 ――私は一体、何を見せられているんだ? 嫌がる相手に無理やりキスするのは……最低だな!



 自然に湧きあがった感想が、ブーメランのように旋回し、自分の心に突き刺さる。



 ――まさかとは思うが、あいつ、私にも同じことをするつもりか……?


 ――これはまずい……。逃げなくては……。やはり、飛ぶしかないか?



 嫌な予感に震えながら、私はバルコニーに目をやった。


 私が多少動けることに気づかれていない今なら、なんとかあそこから逃げられるかもしれない。


 メロウムの腕輪さえ外せれば、戦って倒してしまうことも可能だが、その時の私は、逃げる選択肢しか頭に浮かばなかった。


 またゼーニジリアスの喘ぎ声が聞こえて、『よし、逃げよう』と思った私だったが、ふとミヤコの顔を思い出した。


 私は彼女に、機会があればこの不死身の力を投げ出すと約束したのだ。



 ――もしかすると、これはチャンスかもしれない。


 ――慈愛でも親愛でもなんでもいい。あの男を愛することが出来れば……。



 しかし、このおぞましい光景を前に、身震いする程の嫌悪感が、私を襲っている。



 ――無理だ。大体、こいつはベルガノンを侵略しようとしている隣国の王だぞ。不死身にしてやってどうするんだ。


 ――いや、そもそも逃げてる場合じゃない。この状況をなんとかして、ベルガノンを救わなくては……。



 私がようやく英雄の務めを思い出した時、ゼーニジリアスを襲っていたノーデス王が、「ぎゃっ」と、小さく悲鳴をあげた。


 どうやら弟が、兄の唇を噛み切ったようだ。ノーデス王の口から、ポタポタと血が滴っている。



「ニジルド……失望したぞ。お前はなぜ、この兄を愛さないのだ」



 今度は動けない弟の顔面めがけ、拳を振り下ろしはじめたノーデス王。


 ボカスカと大きな音を立て、一つの容赦も感じられない殴りっぷりだ。


 ゼーニジリアスは悲鳴をあげ、ゆがんだ顔に涙を流して叫んだ。



「兄さん! あなたは愛を知らない! こんなひどいやり方で精霊の力が手に入れられるものか」


「何を言う。ひどいのはあいつら精霊の方だ。私がこんなに可愛がってやってるのに、全く私を愛そうとしない」



 ノーデス王はそう言うと、あの怪しいカーテンをスルスルと開いた。


 そこには美しい金の細工で、目を見張るほど豪華に飾り付けられた壁があり、沢山のメロウムが宝石のように埋め込まれていた。


 そして五人の精霊達が、趣味の悪い金の拘束具で、まるで、蝶の標本かのように留め付けられていた。


 その哀れな精霊達を満足そうに眺めながら、「見てみろ、美しいだろう」と、ノーデス王は悦に入っている。



 ――うげ。吐き気がするな。こいつが、セリスを買い取った精霊コレクターだったのか。


 ――全く、どこが友好的ないい王様なんだ。最低じゃないか。



 よく見ると、壁に飾られた精霊達の中に、氷の精霊も一人混ざっているようだ。あれがファトムの言っていた、セリスなのかもしれない。



 ――本当に、なんてやつだ。全部お前のせいか。



「苦労して手に入れ、こんなに可愛がってやっているのに、こやつらは余を愛さず、闇に堕ちるばかりだ」



 私もゼーニジリアスも、ひどく恨めしい顔でノーデス王を睨んでいたが、彼はそんな圧を物ともせず、不満を吐き出すように話しはじめた。



 動けないターク様の前で繰り広げられる兄弟の嫌なやり取り。危機を感じたターク様はますます逃げ出したくなりましたが、英雄の勤めを思い出し思いとどまりました。


 宮子の予想通り、ノーデスは精霊コレクターだったようですが……。


 次回、第十九章第七話 王の書斎で3~エディアと平和条約~をお楽しみに!


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― 新着の感想 ―
[良い点] わーお( ゜д゜) とんでもないヤツが現れましたね。 恐ろしや……。 ターク様、いい感じで逃げてー!
[一言] これは酷いぞノーデス王!! 精霊達をものとして捉えてたとは!? ターク様に是非に頑張ってもわらないと꒰(⑉• ω•⑉)꒱
[良い点] 変態ヤー!なかなかはっちゃけてて、ぶっ飛んでて読み物としてはとても面白かったです。ヤバいけど。ノーデス王、ヤバすぎますけど(笑)こんな一方的な愛情を一国の王様が抱いてしまうとは(笑) [一…
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