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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第19章 クラスタル

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05 王の書斎で1~妙なカーテンがこわすぎる~

 場所:クラスタル城

 語り:ターク・メルローズ

 *************



 謁見の間で、メロウムで拘束された私、ターク・メルローズは、大柄な兵士にずるずると引きずられ王の書斎へと連れて行かれた。


 いくつかあるソファーのうちの、二人掛けのソファーの端に座らされ、力なくずり落ちそうになる身体を、背もたれにグイグイと押しつけられる。


 格調高い雰囲気が漂うこの王の書斎は、奥の壁が一面本棚になっており、その手前には執務机が置かれていた。


 そして、向かって左側の壁にはバルコニーに出られる開かれた扉があり、右側の壁は、なぜか全面が重々しいカーテンで覆われていた。


 まるで劇場の舞台を隠すオペラカーテンのようだが、豪華すぎて趣味が悪い。



 ――なんだ? あのカーテン。窓がある訳でもなさそうだが。



 明らかにおかしい部屋の作りに、嫌な予感が胸に湧き上がる。


 王が話を聞いてくれるかもしれないと、ほんの少し期待していたが、妙なカーテンのせいで、私はすっかり逃げ腰になっていた。


 私の腕には、小さなメロウムがついた金の腕輪がはめられている。


 繊細に細工された豪華で美しい腕輪だが、使用用途を考えると、趣味が悪いとしか言いようがない。


 これならまだ、無骨な鎖にでも繋がれた方がマシだ。



 ――だいたい、メロウムの腕輪なんてものが、なぜ城にあるんだ。


 ――あの王様、よほど精霊が憎いのか?



 通常なら、そんな小さな石だけでも、十分動けなくなるのだが、今、私の首には、タツヤ経由で父に渡された状態異常軽減のペンダントが、ぶら下がったままになっている。


 メロウムにも多少効果があるとタツヤが言っていたが、どうやら本当のようだ。完全な脱力状態のふりをしているが、頑張れば少しくらいは体を動かせそうだ。


 それがバレていない今なら、隙を見て必死で足掻けば逃げ出せるかもしれない。



 ――何とか外せないか?



 こっそり腕輪に手をかけてみたが、見た目より頑丈なようだ。思うように指先に力が入らず、外すことが出来ない。


 動けることがバレてはメロウムを増やされかねない。私はそっと、腕を元の位置に戻した。


 さっき、窓からチラリと見えた景色から察するに、ここは、城の一番背の高い尖塔の最上階のようだ。


 この力の入らない体で、ここに来る時に引きずられてきた長い螺旋階段を降りるよりは、バルコニーから飛び降りた方が逃げられる可能性は高いだろう。


 しかし、バルコニーの地表からの高さは、三十~四十メートルはある。流石の私も、受け身も取らずに飛び降りればタダでは済まない。


 しかし、体がどれだけ潰れたとしても、復活できてしまうところが悩ましかった。



 ――うまくすれば、落ちた衝撃で腕輪も外せるかもしれない。


 ――しかしな、自分でやるには痛すぎだ。



 私が尖塔から飛び降りるかどうかを真剣に悩んでいると、私の後からゼーニジリアスの入ったカプセルが担ぎ込まれてきた。


 さっきあんなに弟思いなセリフを言っていた割に、まだ彼がカプセルに入れられたままだということに、更なる疑問と不安を感じる。


 ノーデス王も、弟の持つ精霊の力を恐れているのだろうか。


 そんなことを考えていると、入ってきた二人の兵士が、カプセルをどこに置くかで揉めはじめた。


 散々揉めた末、カプセルの中のゼーニジリアスに、「ニジルド殿下、どちらに置かせていただけばよろしいでしょうか!」と、声をかけたが、彼は無言のまま、恨めしそうに兵士を睨んだだけだった。


 困った兵士たちがカプセルを抱えたまま待っていると、ノーデス王が書斎に入ってきた。


 彼の指示で、カプセルは大きなカーテンがかかった壁際に置かれた。



 ――だから、なんなんだ。そのカーテン。怖いぞ。



 私が訝しげにその様子を眺めていると、ノーデス王は私の方を向いて、ニコニコと妙な笑顔を浮かべた。



 ――なんだ? なぜ今更、私に愛想笑いを……?



 眉をひそめた私を見て、くるりと方向を変えた彼は、弟のカプセルの前に進んだ。そして、またぎこちない笑顔を作ると、やさしげな声で彼に話しかけた。



「弟よ。久しぶりではないか。何年も連絡をよこさず、何をしているのかと思えば、まさかポルールで暴れていたのがお前だったとはな」



 ノーデス王がカプセルの扉に手をかけると、ゼーニジリアスは「ヒィー!」と大きな悲鳴をあげた。


 一年近く拘束されていた彼は、このカプセルから出る日を、ずっと夢見ていたはずだ。しかし、今は扉から離れようと、必死に足掻いているようだ。


 しかし、体格のいいノーデス王に抱き抱えられ、彼は呆気なく、カプセルから引きずり出された。


 外に出た途端、彼の体は青い輝きを放ちはじめた。カプセルによって抑え込まれていた、水の精霊の加護だろうが、なかなか派手に光っている。


 光は美しいが、元々青白かったゼーニジリアスの顔が、さらに青く不健康そうに見え、赤い目もあいまって、まるで魔物のようだった。


 水の加護の常時発動効果は、水の中で息が出来るとか、武器に水属性攻撃を付与できるとか、そんな所だろうか。


 水属性には効果の高い睡眠攻撃耐性があり、防御魔法などにはだいたいそれが付与される。


 もしかするとこいつは、私以上の寝不足になるかもしれない。


 あれではカプセルから出ても暮らしにくいだろうと、つい余計な心配をしてしまった。


 何にしても、凄まじい速さで繰り出される彼の剣技が、水属性の魔力で強化されれば、ひどく強いということを、私は身をもって知っていた。


 ノーデス王は青く輝く弟の姿を見て、「おぉっ」と嬉しそうに声を上げ、恍惚とした表情を浮かべた。


 そのまともとは思えない顔つきに、ゼーニジリアスが更に青ざめ、私もまた、嫌な予感に震えていた。



 メロウムの腕輪で拘束され、王の書斎に来たターク様ですが、趣味の悪い腕輪や妙なカーテンに、嫌な予感が止まりません。


 そんな中、カプセルから引きずり出されたゼーニジリアス。ノーデス王はいったい、彼をどうするつもりなのでしょうか。


 次回、第十九章第六話 王の書斎で2~何を見せられているんだ?~をお楽しみに!


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― 新着の感想 ―
[良い点] とても良い関係の兄弟とは思えませんね。 一波乱も二波乱もありそうです。 ターク様が気になっているカーテン、外せそうな指輪との葛藤‥初期と比べてかわいらしくなっていますね!
[一言] これは一体。 ターク様は何を見せられているのか!? そしてゼーニジリアスはどうなるのか!? ワクワクです꒰(⑉• ω•⑉)꒱
[良い点] ノーデス王がますます変態ぽい(笑)とても面白かったです。そして、カーテンがシュールで怖すぎます(笑)一体何に使うのかと期待値ばくあがりです。 [一言] ゼーニジリアスがどうなってしまうのか…
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