04 ライルの進言。~見るんじゃなかったわね~
場所:クラスタル城
語り:小鳥遊宮子
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グラスでクラスタルの兵隊に捉えられてしまった私、小鳥遊宮子を含む、大願を叶え隊の六名は、ガルベルさん、フィルマンさんと一緒に広めの牢屋に詰め込まれていた。
――牢屋、久々だなぁ。トラウマがひどいわ。
薄暗い牢屋に入れられると、この世界に来た日のことを、思い出さずにはいられない。
嫌な記憶に身がすくむのを感じながら、私は皆の顔を見回した。縄で縛られ、猿轡をはめられて、皆一様に目だけキョロキョロさせている。
牢屋の前に立ったノーデス王が、私達を見下ろしながら、ガルベルさんに話しかけた。
「大魔道師ガルベルよ。そなた、エディアから受けた祝福を使えば、こんな牢から逃げ出すくらい、造作もないのではないか?」
猿轡をされているガルベルさんは、王の質問に返事が出来るわけもなく、フンッと顔だけ横を向いた。
「だが、余計なことはしないことだ。我が国は既に、百人の精霊の力を手にしている。それはたとえ、そなたが祝福を使用したとて、到底抗えるものではないぞ」
――百人の精霊? いったい、どうやってそんな……。大体、邪悪な精霊の力を使うのは野盗だとかって、散々自分達が言ってたのに?
――わ、もしかして、セリスさんを買い取った精霊コレクターって、この人なんじゃ……。
――おかしいと思ったわ! 国で精霊狩りを擁護するなんて!
私達が顔を引きつらせたのを見ると、ノーデス王はとても嫌な笑みを浮かべた。
「処刑は準備が整い次第すぐに行う。諦めて大人しくここで死ぬが良い。隣国の英雄達よ」
ノーデス王は得意げにそう言い残すと、返事のできない私達を置いて、どこかへ行ってしまった。
なぜか、ターク様だけを書斎へ連れて行ったようだけれど、もしかすると、そこへ向かったのだろうか。
――私達、本当に処刑されるの?
――ベルガノンは、侵略されてしまうの?
振り返って牢屋の縦桟の外を見ると、十人程の見張りの兵が牢屋の前の通路に、並んでいるのが見えた。
あんなに見張りが居たのでは、とてもこっそりとは逃げられないだろう。
――歌は心の中でも歌えるから、お豆で兵たちを足止めすれば逃げれたりして。
……なんてことも考えてみたけれど、そんな事をしたところで、牢屋の鍵が開けられない。
どうしたものかと思っていると、となりから、ガルベルさんのぼやくような声が聞こえてきた。
「まったく、精霊を百人捕まえたからって何なの? そんなことくらいで、この私が素直に処刑されると本気で思ってるのかしら」
はっとして横を見ると、ガルベルさんの拘束は全て解かれ、彼女は腕組みをしてしゃべっていた。
さっき、確かに彼女も縄で縛られ、猿轡をはめられたはずなのだけれど、考えただけで高度な魔法が使える彼女に、それらは全て無駄だったようだ。
「皆の拘束を解いてもいいけど、まだ見張りに気付かれたくないからね」
ヒソヒソ声でそう言って、とりあえず私の猿轡だけ外してくれたガルベルさんは、私の耳元に口を寄せてたずねた。
「ところであなた達、どうしてこんな所で捕まってるのよ」
「ごめんなさい、皆で精霊狩りを捕まえて、氷の精霊セリスの居場所を聞き出すつもりが……」
「なるほどねぇ。まさか、精霊狩りがクラスタルの国王に保護されてるなんて思わないものね」
勝手な行動をして、捕まってしまったことを責められるかと思ったけれど、ガルベルさんは、うんうんと、共感するように頷いただけだった。
「そうなんです、おどろきました」と、私が答えると、彼女はなんだか張り切った様子で、皆の顔を見回して言った。
「まぁいいわ。どうせあいつら、ベルガノンに攻め込むつもりみたいだし、みんなで大暴れして脱出してやりましょ。精霊百人だかなんだか知らないけど、早くベルガノンに帰って、応戦しなくちゃ。イーヴしかいないんじゃ、流石にまずいわ」
「でも、まずはターク様を助けに行かないと……」
「そうね。タッ君ったら、どうしてすぐ捕まっちゃうのかしら」
私達がそんな相談をしていると、何かにツンツンと、膝を突かれる感覚がした。
目線を下げ、床を見てみると、黒猫姿のライルがちょこんと座っている。うっかり大きな声を出しそうになるのをグッと抑えて、私はライルに話しかけた。
「ライル、今までどこ行ってたの?」
「うん、ちょっとお城の中を散歩してたんだけどね。このお城、すごく嫌な気配がするよ。僕、ここで暴れるのはやめた方がいいと思うな」
ライルの小さく抑えた声が、とても真剣に聞こえる。彼の感じた、嫌な気配とは一体、なんなのだろうか。
小さいとは言え、あんなに強いライルが、随分不安そうに見える。
「ガルベル様、水晶でこの城の地下を調べてみて? 絶対何かいるよ」
――な、なんなの? こわい!
怯えた様子のライルを見て、ガルベルさんがローブの中をゴソゴソと探ると、普通にあの水晶が出てきた。
さっきみんなの武器や防具と一緒に、ガルベルさんの水晶も押収された気がしたのだけれど、どうやら彼女の幻術に、私も兵たちも騙されたようだ。
彼女がそれに手をかざし、「水晶さん? お城の地下はどうなってるのかしら?」と、小声で話しかけると、モヤモヤと水晶の色が変わりはじめた。
そしてそこには、世にも恐ろしい光景が映し出されていた。
「な、なぁに? これ、うそでしょ?」
「恐ろし過ぎます……」
「あいつ、気狂いだわ。これ以上ノーデスを怒らせちゃダメみたいね」
「ど、どうしましょう。ターク様が、王様のところに……」
「どうもしようがないわ。タッ君がノーデスの機嫌を損ねないよう、祈るだけよ。ちょっとタッ君の様子を見てみましょうか」
ガルベルさんがもう一度水晶に手をかざすと、今度は王の書斎に居る、ターク様の姿が映し出された。
「わ……なんですか? この状況」
「……見るんじゃなかったわね。今見たことは早く忘れましょう」
ガルベルさんはそう言うと、水晶を懐に戻した。
――ターク様、どうかご無事で!
そして、私はもう一度、しっかりと猿轡をはめ直されたのだった。
ガルベル達を牢屋に閉じ込め、精霊百人を従えたと、得意げに話すノーデス王を、精霊コレクターじゃないのかと疑う宮子。
ライルの進言で、水晶を取り出したガルベル達が見てしまったものとは……?
次回はターク様の語りになります。
次回、第十九章第五話 王の書斎で1~妙なカーテンがこわすぎる~をお楽しみに!




