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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第2章 退屈なゴイムとお疲れのターク

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10 達也との思い出4~いなくなった幼馴染~[挿絵あり]

 場所:日本

 語り:小鳥遊(たかなし)宮子

 *************



 薄曇りの空の下、じっとりとした空気が、肌に纏わり付いたあの林間学校の日。


 達也は朝から、私を迎えに来た。


 あの日以来、前よりさらに心配性になった達也は、今日に限らず、ずっと私にぴったりくっついていた。


 登下校はもちろん、休憩時間のたびに席にやってくるし、はなれていてもずっと視線を感じる。


 どうやら女子たちが私になにかしないかと、警戒している様子なのだけれど……。


 ――こんなにくっつかれると、余計になにか起こりそうだよ?


 私の不安をよそに、出発のバスのなかでも、達也はとなりに座ってきた。


「みやちゃん、明日のハイキング、一緒に回る約束、忘れてないよね?」



 ――そんな約束したっけ!?



 思わず口に出しそうになったけれど、いまはあまり、そっけない態度もとれない。


 最近の達也はなんだか、ずいぶん思い詰めているように見えるのだ。断ったって、きっとついてくるだろう。



「じゃぁ、明日はすこやかコースにしよ! 達也が見たがってた小池を見に行こうよ」


「ほんと!?」



 満面の笑みを浮かべて「よし!」とガッツポーズをしている達也。


 そんな彼を、『なんて可愛いの……?』と思いながら見ている私は、十分すぎるくらい、達也のことが大好きだった。


 ただ、あの告白の返事をしないといけないと思うと、やっぱり気が重い。



 ――幼なじみのままじゃダメなのかな。付きあって、もし、うまくいかなかったらどうなるの……?



 そんなことを考えていると、達也の周りに女子たちが集まってきた。



「達也、こっちに座ってよ、お菓子いっぱいあるからさ」



 女子に腕をつかまれひっぱられると、達也は困った表情を浮かべた。



「ごめん、今日はみやちゃんと回りたいんだ」


 ――わ。本当に断ってる……。



 いつもの達也なら、ここはすぐについていってしまうところだ。あのフワフワした笑顔を浮かべて、「うん、ありがとう」なんて言いいながら。


「今日は僕、みやちゃんからはなれないからね!」と、朝から宣言していたのは、どうやら本気だったらしい。


 本人からはっきり断られた女子たちは、不満そうな顔で席に戻っていった。



      △



 合宿場所である山間の宿舎に着くと、背負ってきたお弁当を食べ、宿舎の説明やゲーム大会なんかがあった。


 達也は一日中、ずっと私を気にかけてくれている。荷物を運んでくれたり、プリントを取ってきてくれたり、とにかくあれやこれやと、彼は私を甘やかした。



 ――達也を、独り占めしているみたい。



 かなり人目が気になるけれど、最近ずっとファンたちに取られていた達也と、一緒にいられるのは結構うれしい。



 ――達也はいったい、いつから私のことが好きだったのかな……?



 その日の夜は、合宿所の外の広場で、キャンプファイヤーが行われた。


 暗闇のなか、勢いよく燃える炎を囲って、となりに座る達也の横顔を眺める。



 ――なんだかいつもより、男らしく見えるかも。


 ――彼女になれば、このまま達也を独り占めできるのかな……。



 そんな考えも頭をよぎる。だけど、それはきっと、達也が期待している答えとは違うんだろう。



「こんなに私と一緒にいて、ほかの子たち怒ってないかな?」


「大丈夫、この間みたいなことは、もう起こさせない。安心して。みやちゃんのことは僕が守るって、約束するから」



 そう言うと、達也は地面に置かれていた私の手に、自分の手を重ねてきた。達也のスキンシップはいつものことだけど、なんだかこれは、それとは違う気がする。


 達也の長い指が手の甲を滑り、絡みつくように指と指が重なった。



 ――待って!? どうしてこんなにドキドキしてるの?



 達也の気持ちを知ってしまったからなのか、それともこの、だれに見られているかわからない状況のせいなのか。


 もしかすると、燃えあがるキャンプファイヤーの、炎のせいなのかもしれない。


 私は、なんだか、顔が熱くなるのを感じていた。



      △



 キャンプファイヤーが終わると、林間学校一日目の日程は終了だ。達也とわかれ、女子の宿舎に戻ろうとすると、案の定、達也ファンの女子たちが待ちかまえていた。



小鳥遊(たかなし)さん、さっき達也と手をつないでたよね。まさか、付きあってるの?」


 ――やっぱり見られてた……!



 慌てて首を横に振る私に、女子の一人がつかみかかった。



「抜け駆けすんなって言ってんじゃん!」


「おさえて!」「やっちゃえ!」



 数人の女子たちにおし倒され、床に転がされた私は、すぐに「いたーい!」と、大声をあげた。


 手の指が、一人の女子の膝の下敷きになって、おかしな方向に曲がっている。


 青ざめた顔で「お、折れちゃった」と言った私を置いて、女子たちは一目散に自分たちの部屋に帰っていった。



      △



 翌日は、いよいよハイキングの予定だったけれど、朝からかなり強い風が、山の木々を揺らしていた。予報とは違う天気に、先生たちも困惑した表情を浮かべている。


 朝食に来た達也は、包帯でぐるぐる巻きになった私の手を見て、ひどくショックを受けた様子だった。



「みやちゃん、本当にごめん。僕の考えが足りなかったみたい」



 落ち込む達也を、「大丈夫だよ」と言ってなぐさめたけれど、達也の肩はこわばって震えていた。



      △



 朝食が終わり、部屋で準備をして戻ると、達也の姿が見当たらなくなっていた。昨日襲いかかってきた、女子たちの姿も見当たらない。



 ――達也、ますます思い詰めてるみたいだったけど、大丈夫かな。



 なんだかとても嫌な予感がして、達也を探し回っていると、山の奥から昨日の女子たちが出てきたのが見えた。


 達也を知らないか尋ねると、山のなかで達也に昨日のことを問いただされたという。


 やさしい達也に怒られ、ショックを受けた女子たちは、「手、大丈夫? 昨日は本当にごめん」としおらしく謝ってきた。



「いいの。それより達也は? もうオリエンテーションの集合時間なのに、戻ってこないんだけど」



 私が聞くと、彼女たちは首を傾げた。



「そんなに奥には行ってないし、すぐ後ろから出てくると思ってたけど……?」



 山の木々を揺さぶるほどの強い風が、不安に揺れる私をブワッと追い越していく。


 そのあと達也は、いくら待っても探しても、一向に戻ってこなかった。


 大規模な捜索活動が行われたけれど、一週間たっても二週間たっても、達也が見つかることはなかった。


 達也は突然、跡形もなく、私の前から消えてしまったのだ。



 挿絵(By みてみん)

 すっかり心配性になった達也に、ピッタリくっつかれたまま行った林間学校。


 達也は大好きだけど、付きあうのは違う気がする。でも、ちょっとドキドキするかも!?


 揺れ動く気持ちに整理がつかないままの宮子の前から、達也は突然、姿を消しました。


 次回。四日ぶりに帰ってきたターク様は、すっかり寝不足になっています。そして、宮子の秘められた力が明らかに?


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[良い点] うう……切ない。でも宮子の心情の変化が甘酸っぱくて、幸せな気分になりました。 もっと幸せを得るために、続きをゆっくり読ませていただきます!
[良い点] 達也もようやく危機感を抱いて、宮子を守るようになりましたか。 しかし彼女はこの期に及んで身の危険を理解していない様子。 今更達也と離れても女子軍団は信用してくれるか怪しいですし、守ってもら…
[一言] 花車様こんにちは! とうとう達也が消えてしまいました。 だけどこうして達也が消えてしまったのか。 これは何かあるのでしょうか そして次回のターク様、そして宮子の能力とは!? 楽しみにさせてい…
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