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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第19章 クラスタル

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03 王との謁見2~譲れない条件~

 場所:クラスタル城

 語り:ターク・メルローズ

 *************



「ふん、弟を引き渡す条件か。良かろう、言ってみよ」



 ノーデス王にそう言われ、ガルベル様が出した条件は二つだった。


 一つ目は、ゼーニジリアスがベルガノンに被害を与えないようしっかり注意し、何かあった時は責任を取ること。


 二つ目は、精霊を騙し闇に堕とす精霊狩りを取り締まり、処罰することだ。


 しかし、二つ目の条件を聞いたノーデス王は、非常に(しぶ)い顔をした。



「精霊狩りは、人間に害をなす精霊達を捕まえ、自然災害を未然に防ぐ、我が国の大切な文化である。取り締まりなど、する理由はないぞ」


「だけど実際、精霊達が厄災を起こすのは、精霊狩りに仲間を(うば)われるせいなのよ?」


「そうじゃそうじゃ。精霊がおらんと、もっととんでもない災害が起こるわい。あやつらは人間を愛し、守っておるんじゃからな。たまに上手くいかんくなるのは悲しいからじゃ」


「ふん。精霊にそんなまともな感情などあるものか。実際我が国は頻繁(ひんぱん)に被害に遭っておる。竜巻に地震に津波に大雨に……。どれだけの国民が傷付いたことか。あいつらは危険なのだ。捕まえて退治できるならそうするべきだろう」



 ――こいつ、本気なのか? それじゃぁまったく逆効果じゃないか。


 ――とても理解出来ないな。



 私たちは精霊狩りの行いで、精霊達が闇に堕ちるのを防ぎたかったわけだが、ノーデス王のいうことは、まるで真逆だった。


 平和条約を結んだ隣国だというのに、ここまで認識に差があるものだろうか。


 おどろき過ぎて口が開きそうになるのを(こら)え、私は唇を(すぼ)めた。


 しかし、ガルベル様は頭に血が上ってしまったようだ。


 精霊の愛を誰よりも享受(きょうじゅ)している彼女にしてみれば、精霊達へのひどい扱いは、とても納得できるものではないだろう。


 彼女はますます鼻息を荒げ、ノーデス王に食ってかかった。



「ちょっとあんた! 災害が嫌なら、精霊達を悲しませないように、少しは気をつけようとか思わないわけ? 文化か何か知らないけどね、こっちは散々迷惑してるのよ! あなた達が捕まえないなら、私が捕まえてやるんだからね!」


「何だと!? 我が国の領土で、そんな勝手は許さんぞ!」


「それじゃぁ、ベルガノンの領土で勝手なことをしていたニジルド殿下も、このまま、捕まえておくしかないわね」


「きさま……! もういい、兵ども! ニジルドを奪い取れ! こいつらは牢屋行きだ!」



 ノーデス王は怒った様子で立ち上がると、脇に並んでいた騎士団に向かって大きく手を振った。


 私達の周りを、武器を構えた兵達が取り囲む。あっという間に、思っていた通りの展開になってしまった。



「ふざけないで! タッ君、フィルマン、ゼーニジリアスを連れて帰るわよ」



 ――まったく、ガルベル様は、隣国の王をこんなに怒らせて、何が平和的に話し合うだ?



 とは思うが、私も意見はガルベル様と同じだ。このまま捕まるわけにはいかない。


 今は剣も鎧もないが、このくらいの人数なら、腕力だけで十分大人しくさせられるだろう。


 私がそう思って身構えた時、ガヤガヤと入り口に騒がしい音が響き、謁見(えっけん)の間に、見覚えのある兵達が入ってきた。


「なんだ?」と思って見ていると、彼らは縄で捕らえられた囚人達を引きつれてきた。嫌がっている様子の彼らを押したり引いたりしながら、無理矢理歩かせて進んでいる。



「ご報告であります! グラス村で暴れていた、青薔薇の歌姫一味を引っ(とら)えて参りました!」


「な!? ミヤコ!」


「あなた達、どうして捕まってるの!?」



 口に猿轡(さるぐつわ)をはめられ、苦しそうに顔をしかめて、兵達に押さえつけられているミヤコ。周りにはカミルやマリル達までいる。



 ――ミヤコ達がグラスで暴れてただって……?


 ――こ、これは、とても手出しできない。



 呆然(ぼうぜん)としながらも構えるのをやめると、背後から嫌な気配がして、私はメロウムで拘束されてしまった。


 それを見たガルベル様とフィルマン様が、「あちゃぁー」と言いたげな顔をしている。


 この状況を打開する案は、二人にも浮かばないのだろうか。


 兵達にぐるぐる縄を巻きつけられる二人。正直あんなもので、あの二人を拘束できるはずもないのだが、ノーデス王は勝ち(ほこ)ったようにふんぞり返った。


 そして、事前に準備していたセリフを読み上げるかのように、高らかにこう叫んだ。



「邪悪な精霊達の力を借り、我が国を不当に転覆させようとする隣国の卑劣(ひれつ)な野盗どもめ! 我を侮辱したこと、後悔させてやるぞ。平和条約は廃止だ! こいつらを処刑し、我が国は、ベルガノンに進撃を開始する!」



「ま、待って下さい、ノーデス王。あなたはベルガノンに友好的な王のはずです。非礼はお()びします。処刑や戦争の前に、せめてもう少し話し合いを……!」



 ここにきて初めて口を開いた私だったが、もうすっかり、手遅れのようだ。酷く見下した眼差しで、王ににらまれてしまった。


 ミヤコ達が入ってきたタイミングを考えても、どうも初めから、ノーデス王はベルガノンに攻め入る口実を作ろうとしていたようだ。


 彼はしばらく私を(にら)んだ後、口元にニヤリと嫌な笑みを浮かべた。



「そこの(まぶ)しい男は、ニジルドと一緒に()の書斎へ運べ」


「はっ!」



 大柄(おおがら)な兵士が私を抱え、ズルズルと引きずっていく。



 ――ん……? なぜ私だけ書斎に? まさか、話し合いに応じてくれる……なんてことはないよな……。



 身体に力が入らないまま、私は皆と引き離され、ノーデス王の書斎へと運ばれた。



 精霊に対する考えが全く合わないターク達とノーデス王。話し合いが決裂したところに、捕らえられた宮子達が入ってきて、結局みんな捕まってしまいました。王はどうやら、最初からそのつもりだったようです。一人だけ書斎に連れて行かれたターク様の運命は……?


 次話は宮子の語りになります。


 次回、第十九章第四話 ライルの進言。~見るんじゃなかったわね~をお楽しみに!


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[良い点] なるほどー、ここで出会いましたかo(`ω´ )o 全く、とんでもない王様でしたね。 ガルベルさんにガツンとやられて欲しかったです。 それにしてもどうしてターク様だけ‥?
[一言] 花車様おはようございます! なんとターク様達が捕まるところでみやこ達まで連れてこられ絶体絶命ではありませんか!? これは続きを早く読まなければ( ・`д・´)
[良い点] 案の定の展開でしたね。無計画に敵地へ行くなんて(笑)話の展開としてはドタバタしていて面白かったです。それにしても皆さん、間が抜けていて、ハイスペックなはずなのに。あっさり捕まっちゃって本国…
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