03 王との謁見2~譲れない条件~
場所:クラスタル城
語り:ターク・メルローズ
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「ふん、弟を引き渡す条件か。良かろう、言ってみよ」
ノーデス王にそう言われ、ガルベル様が出した条件は二つだった。
一つ目は、ゼーニジリアスがベルガノンに被害を与えないようしっかり注意し、何かあった時は責任を取ること。
二つ目は、精霊を騙し闇に堕とす精霊狩りを取り締まり、処罰することだ。
しかし、二つ目の条件を聞いたノーデス王は、非常に渋い顔をした。
「精霊狩りは、人間に害をなす精霊達を捕まえ、自然災害を未然に防ぐ、我が国の大切な文化である。取り締まりなど、する理由はないぞ」
「だけど実際、精霊達が厄災を起こすのは、精霊狩りに仲間を奪われるせいなのよ?」
「そうじゃそうじゃ。精霊がおらんと、もっととんでもない災害が起こるわい。あやつらは人間を愛し、守っておるんじゃからな。たまに上手くいかんくなるのは悲しいからじゃ」
「ふん。精霊にそんなまともな感情などあるものか。実際我が国は頻繁に被害に遭っておる。竜巻に地震に津波に大雨に……。どれだけの国民が傷付いたことか。あいつらは危険なのだ。捕まえて退治できるならそうするべきだろう」
――こいつ、本気なのか? それじゃぁまったく逆効果じゃないか。
――とても理解出来ないな。
私たちは精霊狩りの行いで、精霊達が闇に堕ちるのを防ぎたかったわけだが、ノーデス王のいうことは、まるで真逆だった。
平和条約を結んだ隣国だというのに、ここまで認識に差があるものだろうか。
おどろき過ぎて口が開きそうになるのを堪え、私は唇を窄めた。
しかし、ガルベル様は頭に血が上ってしまったようだ。
精霊の愛を誰よりも享受している彼女にしてみれば、精霊達へのひどい扱いは、とても納得できるものではないだろう。
彼女はますます鼻息を荒げ、ノーデス王に食ってかかった。
「ちょっとあんた! 災害が嫌なら、精霊達を悲しませないように、少しは気をつけようとか思わないわけ? 文化か何か知らないけどね、こっちは散々迷惑してるのよ! あなた達が捕まえないなら、私が捕まえてやるんだからね!」
「何だと!? 我が国の領土で、そんな勝手は許さんぞ!」
「それじゃぁ、ベルガノンの領土で勝手なことをしていたニジルド殿下も、このまま、捕まえておくしかないわね」
「きさま……! もういい、兵ども! ニジルドを奪い取れ! こいつらは牢屋行きだ!」
ノーデス王は怒った様子で立ち上がると、脇に並んでいた騎士団に向かって大きく手を振った。
私達の周りを、武器を構えた兵達が取り囲む。あっという間に、思っていた通りの展開になってしまった。
「ふざけないで! タッ君、フィルマン、ゼーニジリアスを連れて帰るわよ」
――まったく、ガルベル様は、隣国の王をこんなに怒らせて、何が平和的に話し合うだ?
とは思うが、私も意見はガルベル様と同じだ。このまま捕まるわけにはいかない。
今は剣も鎧もないが、このくらいの人数なら、腕力だけで十分大人しくさせられるだろう。
私がそう思って身構えた時、ガヤガヤと入り口に騒がしい音が響き、謁見の間に、見覚えのある兵達が入ってきた。
「なんだ?」と思って見ていると、彼らは縄で捕らえられた囚人達を引きつれてきた。嫌がっている様子の彼らを押したり引いたりしながら、無理矢理歩かせて進んでいる。
「ご報告であります! グラス村で暴れていた、青薔薇の歌姫一味を引っ捕えて参りました!」
「な!? ミヤコ!」
「あなた達、どうして捕まってるの!?」
口に猿轡をはめられ、苦しそうに顔をしかめて、兵達に押さえつけられているミヤコ。周りにはカミルやマリル達までいる。
――ミヤコ達がグラスで暴れてただって……?
――こ、これは、とても手出しできない。
呆然としながらも構えるのをやめると、背後から嫌な気配がして、私はメロウムで拘束されてしまった。
それを見たガルベル様とフィルマン様が、「あちゃぁー」と言いたげな顔をしている。
この状況を打開する案は、二人にも浮かばないのだろうか。
兵達にぐるぐる縄を巻きつけられる二人。正直あんなもので、あの二人を拘束できるはずもないのだが、ノーデス王は勝ち誇ったようにふんぞり返った。
そして、事前に準備していたセリフを読み上げるかのように、高らかにこう叫んだ。
「邪悪な精霊達の力を借り、我が国を不当に転覆させようとする隣国の卑劣な野盗どもめ! 我を侮辱したこと、後悔させてやるぞ。平和条約は廃止だ! こいつらを処刑し、我が国は、ベルガノンに進撃を開始する!」
「ま、待って下さい、ノーデス王。あなたはベルガノンに友好的な王のはずです。非礼はお詫びします。処刑や戦争の前に、せめてもう少し話し合いを……!」
ここにきて初めて口を開いた私だったが、もうすっかり、手遅れのようだ。酷く見下した眼差しで、王に睨まれてしまった。
ミヤコ達が入ってきたタイミングを考えても、どうも初めから、ノーデス王はベルガノンに攻め入る口実を作ろうとしていたようだ。
彼はしばらく私を睨んだ後、口元にニヤリと嫌な笑みを浮かべた。
「そこの眩しい男は、ニジルドと一緒に余の書斎へ運べ」
「はっ!」
大柄な兵士が私を抱え、ズルズルと引きずっていく。
――ん……? なぜ私だけ書斎に? まさか、話し合いに応じてくれる……なんてことはないよな……。
身体に力が入らないまま、私は皆と引き離され、ノーデス王の書斎へと運ばれた。




