02 王との謁見1~真っ白なターク~
場所:クラスタル城
語り:ターク・メルローズ
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翌日、昼を回った頃になって、私達は謁見の間に通された。
意外と早く呼んでもらえたことに喜びながら、私はフィルマン様達と並んで、ノーデス王がやってくるのを待っていた。
今日の私は、いつもの三倍はボリュームのある、レースの襟飾りが付いた白いシャツに、金の豪華な刺繍が施された、いつも以上に眩しい、白の上着で正装している。
普段白い上着で出かけることはまずないのだが、ガルベル様が、「負けていられないわ」と、謎の理由で用意してきたものを、さっき無理やり着せられてしまったのだ。
ズボンや靴まで白で揃えられてしまい、全身真っ白で、自分でも眩しいくらいだ。
通された謁見の間は、上部がアーチ状になった大理石の列柱が幾重にも重なった、いかにも立派な場所だった。
アーチの奥には色とりどりに輝くステンドグラスの窓が並んでおり、そこから差し込む光が美しい。
大剣士の称号を授かった時や、英雄になった時など、何度か、ベルガノンの王の前に呼ばれたことがあるが、何度経験しても、この雰囲気は緊張するものだ。
かしこまってしばらく待っていると、「国王陛下のおなりである!」という、騎士団長の大きな声と共に、ノーデス王が謁見の間に入ってきた。
威厳たっぷりに歩き、最奥の壇上に置かれた豪華な王座に座ったノーデス王が「顔を上げよ」と、堂々とした声で命令する。
下げていた顔を上げてみると、王は私を見て、眩しそうに目を細めた。
ノーデス王はまだ若く、歳は四十手前くらいだろうか。短く整えられた髪は暗い青紫で、弟と同じように背が高いが、弟より体格が良く、かなり鍛えていそうだ。
瞳は霧がかかったような青灰色で、赤い目のゼーニジリアスに比べると、落ち着いた印象だった。
――全く似ていないな。これじゃ、王に会ったことがあっても、あれが弟だとは気が付かないだろう。
私が隣国の王を観察していると、王の方も私の姿を、黙ったままジロジロと眺めた。
巨大なフィルマン様や、強烈な存在感を放つガルベル様がとなりにいるというのに、私ばかりが見られていることに、少し身がすくむ思いがする。
やはり、私に全身白の服装というのは、目立ちすぎだったようだ。
しかも、剣を下ろし、鎧も脱いでいるため、いつも以上に輝いてしまっている。これでは隣国の王に迷惑がられてしまうのも、仕方がないだろう。
こんなに輝いていて、姿勢が悪いと余計に目立つ。私はしっかりと背筋を伸ばし、出来るだけキリリとして立っていた。
王はしばらく私を眺めた後、フィルマン様に視線を移した。
「ベルガノンの英雄フィルマン公爵よ。精霊にかどわかされ失踪した我が弟、ニジルドをよくぞ連れ戻した。大人しくここに置いて帰れば、抑留したことは不問に付す。ニジルドの姿が見えぬようだな。早急にここへ連れてまいれ」
王の弟は今、フィルマン様が担いでいる木箱に入っているわけだが、それを知らないノーデス王は、昂然たる口ぶりで、フィルマン様に命令した。
フィルマン様はノーデス王と友達だと言っていたが、この様子を見るに、どうやら、彼特有の誇張表現だったようだ。
クラスタル軍を追い返し英雄となったフィルマン様に、わざわざ英雄と呼びかけるのは嫌味としか思えない。
しかし、そんな遠回しな表現が伝わるほど、フィルマン様は繊細に出来ていないのだった。
「ニジルド殿下ならこの中じゃが、簡単に渡すわけにはいかんのぅ。まずはこちらの条件を聞いてもらわんことにはの」
「何!? 我が弟をそんな小汚い木箱に詰めてきただと!? フィルマン公爵、御主、何を考えておるのだ!」
――まぁ、こうなるよな。
これは一応、いきなりカプセルの中でぐったりしているところを見せるよりは、木箱の方がマシだろうと三人で話し合った結果だったが、王はさっそく怒りはじめてしまった。
嫌な汗をかいていると、ガルベル様が腰に手を当て、いつものように踏ん反り返って話しはじめた。
「仕方ないのよ。ニジルド殿下は水の大精霊に匹敵する力を持っているんだから。メロウムで拘束させてもらってるわ。当然でしょ」
ガルベル様が口を開くと、ノーデス王はようやく彼女に目をやった。そして、おどろいたように目を見開き、彼女の顔をじっと見ている。
――フィルマン様もガルベル様も、隣国の王に、こんな砕けた口ぶりでいいのか……? これじゃぁ、私でも、おどろいて目を見開いてしまうな。
しかし、王が気になっていたのは、彼女達の言葉遣いではなかったようだ。
「大魔道士ガルベルよ。そなた、噂通り、昔と全く同じ姿だな。エディアの祝福を得たという話は、本当であったか。あの頃の力をその方はまだ維持しておるようだな」
「そうね。この力が恐ければ、私に逆らわないことだわ」
「ふん、弟を引き渡す条件か。良かろう、言ってみよ」
ノーデス王は「まぁ、しょうがないから、一応聞いてやるか」というような顔で、嘲るようにガルベル様を見ている。
そんな王に、ガルベル様は二つの条件を提示した。
全身真っ白のピカピカ状態で、ノーデス王と謁見したターク様。王様にじろじろ見られ、身がすくむ思いです。
一方何も気にして居ない様子のフィルマンとガルベルは殆どため口で王に話しかけますが、流石に一目置かれているのか王が怒る様子はありません。王はガルベルの条件を受け入れるのでしょうか。
次回、第十九章第三話 王との謁見2~譲れない条件~をお楽しみに!




