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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第19章 クラスタル

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01 クラスタル城へ。~静かな街ディーファブール~

 場所:ディーファブール

 語り:ターク・メルローズ

 *************



「流石に、このままじゃ目立つわね」



 ポルールの第一砦でガルベル様に抱えられた私、ターク・メルローズは、フィルマン様と合流し、クラスタルの王都ディーファブールの、城壁の外に降り立った。


 私を箒の後ろに乗せ、巨大なフィルマン様と、ゼーニジリアスのカプセルが入った大きな木箱までぶら下げて、ガルベル様はここまで飛んてきたのだ。


 彼女の重力魔法には、本当に毎度おどろかされる。


 そのままガルベル様の魔法で、城まで飛んで行っても良かったのだが、やはりそれはあまりにも目立つだろう。



「全く、こんなに広い国土なのに、転送ゲートも使わないで、みんな馬や徒歩で移動してるなんて、クラスタルの国民はよく平気よね」



 彼女のつぶやきに、私は心の底から、「そうですね」と返事をした。


 ガルベル様の箒の乗り心地はとにかく悪い。ガルベル様に後ろから抱きつかないといけない時点で、彼女に多数のトラウマを植え付けられた私にとっては、苦痛を伴う旅だ。



 ――あぁ、眩暈がするな。ガルベル様に運ばれるのはもううんざりだ。



 それでも飛んで来る必要があったのは、クラスタルには転送ゲートが片手で数えるほどしかないからだった。しかも、それらのゲートのほとんどが、今は起動できない状態にあるらしい。



「まぁ、ベルガノンのゲートが無事に動いておるのも、豊富な魔力を持つ魔術師達と、古い魔道具に精通したアグスおってのことじゃからのぉ」



 地面に降り立ったフィルマン様が、カプセルの入った木箱を肩に担ぎながら、そう返事をした。


 中でカプセルがひっくり返ったのか、木箱の中からゼーニジリアスの慌てる声が聞こえる。


 魔術師が国民の三割近くを占めるベルガノンとは違い、この国には魔術師は数十人しかいない。


 ベルガノンのような魔法学校や、魔術機関も無いため、中級以上の魔法が使えるものも殆ど居ないようだ。


 そういう意味でベルガノンは、「精霊に愛された国」と言えるかもしれない。


 魔術師の希少さ故、クラスタルでは、膨大な魔力を消費する転送魔法は、あまり使われることがない。


 使われないゲートはメンテナンスが行き届かず、すぐに調子が悪くなってしまうようだった。


 しかし、いざ戦いとなれば、クラスタルは広大な領土を保有し、人口や資源、財政力、軍事力等で、ベルガノンを大きく上回っている大国だ。魔術師が少ないからと、決して侮って良い相手ではない。


 戦いが長期化すれば、大陸の端の小国であるベルガノンは、ポルールの時のように疲弊してしまうだろう。


 とは言え今は、クラスタルとベルガノンの間には平和条約がある。


 城壁の外に降り立った私達は、外交官でもあるフィルマン様の顔パスのような、簡単な検閲を通り抜け、ディーファブールに入った。


 検閲でゼーニジリアスを見られれば騒ぎになるかとも思ったが、木箱の中を調べられることもなかった。


 初めて訪れたディーファブールは、雪ですっかり化粧され、夕日で赤く染まっていた。


 歴史の長いこの街は、三百前に建国されたと言われるベルガノンの王都に比べると、格式高く立派な建築物が多かった。


 美しいステンドグラスで彩られた時計台や美術館、劇場などは、独特の伝統的な様式で建てられ、見ごたえがある。



 ――美しい街だな。機会があれば、ミヤコとゆっくり訪れたいものだ。


 ――ミヤコは観劇が好きだろうか。いや、美術館の方が喜ぶかもしれない。



 始めのうちは、そんな浮かれた事を考えながら歩いていた私だったが、しばらく行くと少し違和感を覚えた。


 街は不思議なほどに、ひっそりと静まり返っていたのだ。



「大きな街なのに、ずいぶん人が少ないわね」


「みな寒さでちぢこまっておるんかのぉ」



 通りは広々として人通りも少なく、大きなフィルマン様がいても歩きやすかった。


 過密なベルガノンの王都とは全く比較にならない。


 私たちは、殆ど人に会う事もないまま、城の門まで到着した。



「わしゃぁベルガノンのフィルマン公爵だ。ノーデス王に会いにきた。通してくれんかのぉ」



 フィルマン様は大きな体で、ズシンズシンと城まで歩くと、青い顔で彼を見上げている門兵に声をかけた。


 しばらくすると、フィルマン様の知り合いだと言う外交官が姿を見せ、怪しい荷物を担いでいるにも拘わらず、城の中に案内された。


 クラスタル城は広大な敷地を四角く囲むように建てられている。いくつもの突き出した尖塔があり、中央にある広場が、どこからでもよく見えていた。


 広場と言ってもそこは、地面に雪が積もっただけの、殺風景なスペースだった。鑑賞目的の庭園ではないらしく、噴水の一つもない。



 ――ここは、兵隊の訓練場所か? ただでさえ寒いのに寒々しい城だな。


 ――これだけ広くて噴水がないとは、やはり異国だ。寒い季節が長くて凍ってしまうのかもしれないな。



 そんな事を考えながら、私は案内されるまま回廊を歩いた。


 簡単に城に入れたとはいえ、これはガルベル様の思いつきによる、突然の来訪だ。


 しかも王への謁見は、一度断られている。


 すぐに王に会えるはずもなく、私達は城内の客室に通され、今夜はとりあえずここで休み、呼ばれるまで待つようにと言い渡された。



「せっかく急いで来たのに、待たされるなんてね!」


「仕方ないですよ。相手は一国の王様です。約束もなしに、勝手にくる方が悪いです」


「まぁのぉ。でもノーデス王は友達みたいなもんじゃからの。外交官にゼーニジリアスを連れてきたことは伝えたからのぉ。時間が出来たら会ってくれるはずじゃ」


「待つしかないですね」



 ゼーニジリアスはよほどノーデス王に会いたくないのか、ベルガノンを出てから一言も喋らなかった。木箱をそっとのぞいてみると、青い顔でブルブル震えている。


 いくら失態を犯したとはいえ、実の兄に会うのにここまで怯えるものだろうか。



 ――ノーデス王……。いったいどんな人なんだ?



 嫌な予感に胸をざわつかせつつ、私は王からの呼び出しを待った。



 ガルベル、フィルマン、タークの三人は、クラスタルの王都ディーファブールを通り、クラスタル城へやってきました。


 妙に人気(ひとけ)のない街や、異様に怯えているゼーニジリアスに違和感を感じつつ、ノーデス王に呼ばれるのを待つターク様ですが……。


 次回、第十九章第二話 王との謁見1~真っ白なターク~をお楽しみに!


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― 新着の感想 ―
[良い点] なんだ嫌な予感がしますね……。 何かに乗っ取られてそう_(:3」z)_ どうか穏便に済みますように!
[一言] 花車様おはようございます! ターク様はガルベル様達とクラスタルへ! ターク様みやこのことばかりだなw そしてノーデス王とは!? 続きを楽しみますね( •̀֊•́ ) ̖́-
[良い点] 少しは偵察しようとかしないあたりが、この方々ですね(笑)不穏な空気しかしないのにまるで気にしていない感じがらしくて面白かったです。 [一言] 何か企まれてそうな気がプンプンします。続きも楽…
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