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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第18章 新たな大願

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13 [番外編]ガルベル。~百年分の祝福~

 場所:ガルベルの小屋

 語り:ガルベル・アガトス

 *************



 今から三十三年前、当時二十九歳だった私、ガルベル・アガトスは、約八十人の魔道士を率い、東の帝国オトラーからの、ベルガノン侵略を食い止めた。


 私の魔法指導はヘナチョコ魔道士達の、魔法の威力を飛躍的に引き上げる。


 私が、集め、指導してきた彼等は、オトラーの送り付けてきた、一万の兵にも引けを取らなかった。


 戦いの功績を認められ、大魔道士の称号を授かった私だけれど、そろそろお肌の曲がり角。


 半年に及ぶ戦いで、あまり上質とは言えないポーションを多用し、魔力を使いすぎた私のお肌は、カサカサになっていた。



 ――まだ、結婚も諦めてないって言うのに、困ったわ!



 そう思った私は、上位魔術機関を創設し、弟子たちに魔導師達の管理指導をまかせて、自分は自然豊かなモルン山の小屋に引きこもり、美容魔法の研究に明け暮れた。


 沢山の植物を育て、美容成分を抽出し、魔法精製して……。


 魔法には詳しい私だけど、美容魔法の完成には、植物の専門知識と、精密な魔道具が必要だった。


 とりあえず、オトラーの戦いで知り合った、植物に詳しそうなフィルマンと連絡をとり、さらに、アグスに魔道具を注文して、アドバイスを仰ぐ。


 当時のアグスは、まだほんの十八歳だったけれど、彼の作る魔道具は恐ろしいほどに高性能だった。


 十一も歳の違う、大魔道士の私を、「ベルさん」と呼んでいたかと思ったら、いつのまにか、「ベル」と呼び捨てにしはじめたアグス。



「ベル、君は歳を重ねても、きっと美しいと思うけど?」


「んまぁ!」



 歯が浮くようなお世辞を言っては、ニヤリと笑うアグスを見て、営業トークと知りつつ、悶える私。



 ――きゅんきゅんだわ、アグス!


 ――お客様一人一人の需要を的確に把握しているのね!?


 ――なんて生意気で賢くて可愛いのかしら。やっぱり、これ以上、老けるわけにはいかないわね!



 フィルマンとアグスの知恵を借り、更に研究を続けた私。


 だけど、なかなか、思ったような結果は得られなかった。



      △



 そんなこんなで一年程経った頃、突然、私の元に大精霊が訪ねてきた。


 大精霊が、人の棲家を訪ねてくるなんて、まったく聞いたことがない。


 しかもこの大精霊、全身が真っ白に輝いているのだ。


 精霊というのは、持っている魔力の属性を象徴する色で輝いているものだ。


 火の精霊なら赤、水の精霊なら青……と言った具合に。


 だけど、白く光る魔法属性なんて、これもまた、聞いたことがなかった。


 コンコンと扉をノックし、扉に空いた丸い窓から、輝く顔をのぞかせた彼女に、私はただただおどろいた。



 ――なになに!? 何が起きてるの?



 焦りながらも扉を開けると、彼女は私の小屋に足を踏み入れ、眩しい顔で、にっこりと微笑んだ。


 そして、彼女の肩に乗っていた小さな黒猫が、音も無く床に飛び降りる。



 ――黒猫……と、美の女神?



 過去に一度、大精霊に会ったことのある私だけど、彼女の放つその魔力は、その何倍も強く、精霊と言うよりまるで、神の領域だった。


 何もかもを覆い隠すように、輝いているその光は、よくみると白ではなく、さまざまな色が混ざり合って、オーロラのように見えた。


 あまりの美しさに、沸き起こるのは嫉妬心だ。



 ――なんて羨ましいのかしら。何千年も生きてるくせに、老化なんてきっと、気にしたこともないわよね。



 そんなことを考えていた私に、彼女は一歩近づいた。



「ここに、闇の微精霊達に愛された魔女が居ると聞いたんだけど、なるほど、あなたね? すごいわ。ずいぶん魔力が高いのね」


「まぁ、人間の中ではね」


「あなた、その力で、オトラーから、ベルガノンを守ってくれたんですってね。素晴らしいことよ。嫌われがちな闇の力で国を救うなんて。きっと皆、闇の魔力のすばらしさに気付いたはずよね」


「……あなた、誰なの?」


「私は、白の大精霊エディアよ」



 白の大精霊と名乗った彼女は、なんと、全属性の力を持っていると言う。


 全属性と言うと、火、水、風、土、氷、雷、光、闇の八属性だ。



 ――そんな馬鹿な!



 二属性習得しただけで威力が落ちるほど、属性魔法は組み合わせが効かない。


 国一番の大魔道士である私でさえ、当時習得していたのは闇属性魔法だけだった。


 あまりにおどろいて、口をぽっかり開けた私に、彼女は微笑んで言った。



「故郷のベルガノンを守ってくれたお礼に、あなたの願いをかなえてあげるわ」


「え? ほんとうに?」


「えぇ。願いを言ってみて? なんでもいいわよ」


「何でも良いって言われたら、もちろん、私、ずっと、若くてきれいなままでいたいわ」


「うふふ、いいわね。そういうのは得意よ。だけど、美貌を保って、それでどうするの?」


「みんなにきれいだねって言われたいのよ。それだけだわ」


「まぁ。分かりやすい望みね。ならあなたに、大精霊の祝福をあげる。今の美貌を保つだけなら、百年はもつわよ」



 大精霊にのみできるといわれる「精霊の祝福」。


 それは、稀に精霊達が人間と交わす、「精霊の契約」とは別のものだ。


 精霊の契約は、契約した精霊が近くにいる時にのみ、その精霊の力を借りられるものだ。


 そして、大精霊の祝福は、それを与えた大精霊がそばに居なくても、至る所に居る微精霊の力を、大精霊の権限で使用できるというものだった。



「うっそ。ありがとう」



 私が目を輝かせたのをみると、彼女は私の額に軽く手を当てた。


 それは、イーヴがファシリアに受けた愛のキスのような、ロマンティックなものではなかった。


 彼女は本当に、軽く手を当てただけだった。


 だけど、その直後、私の中に、今までに感じたことのない、大きな喜びが巻き起こった。


 それは、空気中の、全ての微精霊達に、愛され、祝福されているという喜びだった。



「じゃぁ、楽しんでね」



 エディアは、興奮する私にそう言い残し、すっと小屋を出て行った。


 あの肩に乗せていた黒猫を、私の小屋に忘れたまま。



 ――まぁいいか。魔女に黒猫、ピッタリよね。迎えがくるまで飼ってあげるわ。 


 ――そんなことより、なんだったの今の!? 凄すぎない?



      △



 それ以来私は、全ての属性の魔力を使えるようになった。美貌を保てるのは、光属性の癒しの力のおかげだろうか。


 だけど、精霊の祝福は有限だ。


 百年美貌を保てるだけの祝福をもらったけれど、必要以上にその力を使うと、すぐに使い果たしてしまう。


 そうなると、私の老化は、再び走り出すのだ。


 今後のために、美容魔法の研究も続けつつ、私はケチケチと魔法を使った。


 しかし、その十年後、隣国クラスタルからの侵略を食い止めるため、私は再び、戦場に駆り出された。


 祝福を使うことを躊躇したけれど、ベルガノンを守れば、またエディアが来てくれるかもしれない。


 ならさっさと戦いを終わらせよう。


 私は膨大な祝福を消費し、国を守った。大魔道士としての名声はますます高まり、英雄の称号まで授かって、国中に私の石像が次々に建てられていく。


 闇の魔力を使う魔女なんて、本来なら本当に嫌われ者だ。


 ゴイムが流行したことで、その需要は高まったけれど、お抱えの闇魔導師なんて、質の悪い貴族達はゴイムと一緒に閉じ込め、まるでそんなもの使っていませんという顔をする。


 彼らは皆、闇を利用しつつも、それを恐れ、忌み嫌っているのだ。


 可愛い黒猫のライルですら、鎌を持っているというだけで「死神」なんて呼ばれ、その嫌われっぷりは可哀そうなものだった。



 ――それが、国中でこんなに愛されるなんて、なんで気分がいいのかしら。


 ――またベルガノンを救ったし、そろそろエディアが来てくれるわね。



 だけど、待てど暮らせどエディアはやってこない。



 ――なんてことなの!? 美貌を保てる期間が減っちゃったじゃない!



 仕方なく、また魔力ケチケチ生活を送りはじめる私。


 可愛がっていたアグスも気付けば結婚してしまい、しょんぼりも良いところだ。


 とは言え、今はまだ三十歳の頃の美貌を保てているし、しばらくは平穏な日々が続いた。



      △



 アグスに彼そっくりの息子、タークが生まれると、私はその子をずいぶん可愛がった。


 絵本を読み聞かせ、子守唄を歌い、あちこち連れて歩いた。


 見た目は三十歳な私だけど、若いふりをしていても、心はもうおばあちゃんの域に達している。


 可愛いタッ君も、実のところ、孫にしか見えなかった。


 心と体のミスマッチというのは、なかなかに辛いものだ。


 そして。また巻き起こるポルールの戦い! 今度は何? 魔獣の行進?


 祝福を出し惜しんで美貌を維持するか、美貌の維持を諦め国を救うか。


 私の中では、いつだって、大きな葛藤が巻き起こっている。



 ――仕方ない、やってやるわよ! 私は国民達のアイドル、大魔道士ガルベルだもの。



 残り少ない大精霊の祝福を、盛大に浪費しながら、私はポルールの第一砦を建て直した。



 ――もう、戦いはいや! やっぱり、もうしばらく、美しいまま平穏に過ごさせて!?



 そんな私の願い虚しく、噴火するセヒマラ雪山。様子のおかしいクラスタル。


 どうもまた、新たな戦いの火蓋が切られる……そんな予感がしていた。



 今回はエディアから()()()()()()を受けたガルベルの半生を書いてみました。彼女、案外いい人ですよね? ターク様にはさすがに少し、嫌われてしまってますが……。


 次回からの十九章は、(ほとんど)どターク様の語りになってます。クラスタルに到着してからのターク様の苦い体験をお楽しみください!?


 次回、第十九章第一話 クラスタル城へ。~静かな街ディーファブール~をお楽しみに!


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― 新着の感想 ―
[良い点] クリスタルが国全体でおかしくなっている様ですね。 宮子最後に活躍したかとお思ったら捕まっちゃいました。 そしてガルベルさん、心はすっかりおばあちゃん(笑) ガルベルさん美容に執心して結…
[良い点] ガルベルさんの気持ちがわかりすぎてイタタタ お肌の曲がり角、嫌ですよねー(;ω;) でも無視を決め込まず戦ってあげるのは偉い! ガルベルさんがどうなるのか気になります!
[一言] なるほど! ガルベル様の過去。 彼女の過去にはこんな事があったのですね! 続き楽しみです( ˶ ̇ ̵ ̇˶ )♡ めっちゃ好感持てる方ではありませんかやー! さて!花車様も今日も無理ない一…
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