09 小池を目指して2~取り残された歌姫~
場所:ルカラの森
語り:小鳥遊宮子
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ルカラの森を、北の小池を目指して進む私達。
魔物や氷のツタに邪魔され、思うように進めないでいると、次第に辺りに、霧が立ち込めはじめた。
「方向が分からなくなりそうですわ。コルニスさん、小池は確かにあっちなんですの?」
「もうすぐのはずですけど、馬が嫌がって北に行こうとしないですね」
「さっきから何か、妙な気配がするもんね」
馬車を引いていたニ頭の馬が、何かに怯えるように動かなくなってしまい、私達は霧の中で立ち往生していた。
馬の周りに集まった私達。皆で顔を見合わせていると、カミルさんがキリリとして言った。
「じゃぁ、僕が偵察に行くよ」
「え? 待ってください、隊長! 自分もいきますから!」
「すぐ戻るから、馬車の見張りよろしく!」と言い残し、走り出したカミルさんを追いかけて、コルニスさんも走り出す。
二人はあっという間に霧に紛れ、姿が見えなくなってしまった。
「大丈夫かしら」
マリルさんがそうつぶやいた次の瞬間、空気を切り裂くような鋭い音がして、馬車の後方から、大量の氷塊が飛んできた。
先がケンケンに尖っていて、当たったらただじゃ済まないやつだ。
さっきまでとはレベルの違う攻撃に、息を呑んで立ちすくむ私。
だけど、「シャイニングシールド!」と、叫んだエロイーズさんの盾から、大きな光のシールドが出現し、飛んできた氷塊を見事に防いだ。
――やっぱり、カッコいいー!
私が目をハートにしてエロイーズさんを眺めていると、また同じ方向から、氷塊が飛んできた。
「さっきから、いったい誰ですの!? 私の炎の恐ろしさを思い知らせて差し上げますわ! いくわよ、エロイーズ」
「はい! マリル様!」
「ミヤコさん、ミレーヌさん。馬車は頼みましたわよ!」
「「え!? あ、はい!」」
見えない相手からのしつこい攻撃に腹が立ってしまったのか、マリルさんはぷりぷりしながら、エロイーズさんを連れ、カミルさん達とは反対の方向へ行ってしまった。
二人で取り残され、ミレーヌと顔を見合わせる。ミレーヌは強いけど、こんな霧の中ではやっぱり不安だ。
「ま、魔物がきたら、どうしよう!」
「大丈夫よ、ミヤコ! 私が追い返してあげるから!」
「でも、周りがますます真っ白だよ、ミレーヌ……」
「落ちつくのよ。大丈夫、私、中級の魔法もいくつか使えるから……」
すっかり怯えてしまった私を励まそうと、私の肩に手をかけようとしたミレーヌが、「きゃぁ!」と叫び声をあげ、霧の中に消えていく。
それは本当に、一瞬の出来事だった。
「ミレーヌ!? どこいったの!? 大丈夫?」
気がつくと、氷の檻ようなこの場所に、馬車と私だけが取り残されていた。
どこかから魔物の、低い唸り声が響いている。
足がガタガタと震えはじめて、私はその場にしゃがみ込んだ。
――いやだ。今の何!? すごく怖い!
――だけど、私がなんとか馬車を守らないと、この中には皆んなの大切な荷物が……。
焦りつつも、とりあえず、自分と馬車の周りを豆のツルで囲むことにした私。
本当は腰が抜けてしまいそうだったけれど、馬車をつかんでなんとか立ち上がった。
静かで真っ白な森の中、たった一人、上擦った声で、「心の種」の歌を歌う。
「なんだか 辛く 苦しくて……
叫び出したい そんな時……」
――あわぁ、寂しい!
少し勢い不足ながらも、ヒョロヒョロと豆が生えはじめ、ホッとして顔をあげると、十メートル程先の霧の中に、大きな何かが、動いているのが見えた。
――あわわ。何かいる! 大きい! どうしよう! う、歌わなきゃ!
「なんだかっ。なんだか 辛くてぇっ苦しっく……あわぁぁ!」
私が焦りに変な声をあげると、霧の中の何かがピクッと反応した。
ズシン、ズシンと音を立てながら、ゆっくりとこちらに向かって歩き、だんだんとその姿が明らかになってくる。
――ひぁぁ! 歌ったせいで気付かれた!?
筋肉質で巨大な体はくすんだ黄色。頭には貧相な苔色の髪と一本のツノ。
これは間違いなく、図鑑で見た、オーガだ。
オーガは私と目が合うと、大きな舌でベロっと口の周りを舐めまわし、嬉しそうにニヤニヤと笑った。
豆で足止め出来ればと思ったけれど、口がもつれて歌えない。
――ダメだっ。一人じゃ怖すぎるよ!
ポルールで私を守ってくれた、ターク様やエロイーズさんの姿が脳裏に浮かび、青薔薇の歌姫は、周りの人に守られていてこそだったということに、改めて気づく。
声を出すことも出来ないまま立ちすくみ、口をぱくぱくさせるばかりの私に、オーガはゆっくりと、冷やかすように近づいてきた。
森の中で馬が動かなくなり、立ち往生する「大願を叶え隊」。二人、また二人とその場を離れてしまい、気が付くと一人ぼっちになってしまった宮子にオーガが狙いを定めます。
次回、第十八章第十話 凍りついた小池と闇の騎士。~君がいる、世界を守る~をお楽しみに!




