08 小池を目指して1~氷の檻と闇に当てられた鳥~
場所:ルカラの森
語り:小鳥遊宮子
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アクレアさんの小屋からさらに北へ向かい、私達大願を叶え隊は、ルカラの森の奥にあるという、小池を目指していた。
大きな木で覆われた森の小道には、頭上の木の枝から太くてウネウネとした白いツルが垂れ下がっている。しかもそれが、凍っていて、触るとケガをするほどに尖っていた。
「クラスタルから来た使いの人達も、ここを通ったはずなのに、なんだか、ずいぶん植物がしげってますね」
「そうだね……。うわぁ、イタタ!」
「カミル隊長、何してるんですか!? 触るなって言いましたよね!?」
「ごめんごめん。気をつけてたんだけど、急に伸びてきてさ」
コルニスさんは、さっきから、何度もカミルさんにヒールをかけている。コルニスさんがしっかり見守っているようでも、カミルさんは気が付くとケガをしているようだ。
「これは魔法ね。凍ったまま伸びてくるなんて……。まるで、私達が進むのを妨害してるようだわ」
「嫌な感じですね! 氷の檻に閉じ込められたみたいです」
ミレーヌとエロイーズさんが、警戒しながら辺りを見回している。
「そこをどいていただけます? ツルを焼き払いますわ」
「お願いします、マリルさん!」
マリルさんに凍ったツタをファイアーボールで焼き払ってもらいながら、私達は少しずつ進んでいた。
馬車がすぐに立ち往生するので、ほとんど徒歩になってしまい、思った以上に時間がかかっている。
「夕方には森を抜けられるかと思ってたんだけど、これじゃ夜になっちゃいそうだね」
「わたくし、野宿は嫌ですわよ。急ぎましょう」
キョロキョロしながら歩いていると、巨大な岩の影から、猿のような魔物達が、時々岩を投げつけてくる。
あれは、多分、図鑑で見たロックモンキーだ。猿にしては筋肉質な体で、凶悪そうな赤い目をしている。
名前通り、岩を投げて来るだけの魔物だけれど、その投石フォームはかなりお粗末だった。
胸の前で両手で掴んだサッカーボール程の岩を、まるで幼稚園児のボール遊びかのように、真っ直ぐ突き出すように投げてくるのだ。
その様子を見ると、投げられる岩は、一見威力が出なさそうに見えるのだけれど、魔物の体格と腕力がすごいせいか、思いの外すごい迫力で飛んでくる。そのギャップが逆に怖かった。
――あぶない!
と思いつつもその場に立ちすくんでいると、エロイーズさんがすかさず、「シャイニングシールド!」と叫んだ。
彼女の大きな盾の上に被さるように、もっと大きな光の盾が現れ、投石を見事に受け止める。
――わ。エロイーズさんって、そういえば、ターク様と同じ、光属性だったんだ。前よりすごく強くなってる。ステキ!
このシャイニングシールドのような、武器や防具を出現させる魔法は、ターク様のように、盾を持っていない人でも発動できる。
魔法の杖があっても無くてもいいのと同じだ。
だけど、エロイーズさんのように、大きな盾を持っていた方が、発動が早く効果も大きい。
現れた光の盾はそのままに、彼女は向きを変え、また違う方向から飛んできた岩を、いつもの盾で受け止めた。
ガンゴン! と、大きな音が鳴ったけれど、エロイーズさんはびくともしない。その後ろ姿は、頼もしくてかっこよかった。
私がエロイーズさんの勇姿に目を輝かせていると、ミレーヌの電撃剣が、ロックモンキーを貫いた。
バチバチした白い稲光に包まれた一匹が、煙を上げてバタっと後ろに倒れると、となりのモンキーに次の電撃剣が刺さる。
ミレーヌが一回に出せる剣は一本だけで、威力もイーヴさんに比べると弱く見えるけれど、最大魔力量が桁違いに多い彼女は、連続でどんどん魔法を発動できるようだ。
――そう! そう! いい感じに強いよ。素晴らしいわ。ミレーヌ!
私よりいくらか大人っぽいミレーヌは、魔物を倒しても、すました顔をしている。その立ち姿は、私と同じ顔とは思えないくらい凛々しい。
後は、カミルさんが華麗に倒してくれるはず……と、思ったら、カミルさんは、少し離れた場所で、羽を広げると一メートルはありそうな、大きな鳥に襲われていた。
あれは多分、図鑑で見た……いや、あれはただの、ちょっと凶暴な鳥だ。
白いワシのような見た目で、普通の鳥のようだけど、森に漂っていた闇に当てられ、魔物になりかけているようだ。
よく見ると黄色い目が飛び出すぐらいギョロギョロしていて、クチバシからはみ出た赤紫の長い舌が、近づいちゃいけない感じを醸し出している。胸や背中も、普通の鳥より筋肉質で強そうだ。
――やっぱり、これはもう魔物かな?
「ぎゃっ! 鳥捕まえて夕飯にしようと思ったら、魔物だった! いたた!」
ジタバタしながら、五・六匹の鳥の魔物に水の剣を振り回すカミルさんだけど、取り囲まれてしまい、あちこちから突かれている。
「カミル隊長! いつの間に!? 勝手にウロウロしないで下さい!」
慌てた顔でカミルさんに駆け寄ったコルニスさんが、「ウィンドブラスト!」と、叫ぶと、凶暴な鳥は風の刃で切り刻まれ、パタパタと地面に落ちた。
「これ、食べていいかな?」
「ダメですよ、隊長。どう見ても汚染されてます。いいから傷を見せて下さい」
少しイライラしながらも、カミルさんにヒールをかけるコルニスさん。
コルニスさんに怒られ、「ごめんごめん~! 野宿になったら夕飯が要ると思ってさ」と、軽い感じで謝るカミルさんは、ケガをしても、懲りるということがなさそうだ。
そんな彼女に、「相変わらずですのね」と、マリルさんも呆れた顔をしている。
そんなマリルさんを、常にガッチリガードしているエロイーズさん。
カミルさん達に比べると、この二人の信頼関係は、見ていて羨ましくなるくらいだ。
そして、皆の活躍する姿を、「すごいすごい!」と、感心しているばかりの私。
遠距離攻撃をする魔物や、空を飛ぶ魔物には、私のお豆による足止めは、何の効果もない。
あまりに出来ることがないので、皆の魔力残量をチェックしては、魔力回復ポーションを渡すという、どうでもいいようで、ちょっとだけ助かる(はず)の雑用をテキパキとこなす。
――う……仕方ないよね。魔法訓練なんて、二日しかしてないし!
襲いくる魔物を皆さんに退けてもらいながら、馬車をひきつつ進んでいると、次第に辺りに、霧が立ち込めはじめた。
北の池を目指す「叶え隊」ですが、何かに邪魔されているようです。皆の強さに感心しながら、少しずつ森を進む宮子。お豆の出番もなく、あまり役に立てません。
次回、第十八章第九話 小池を目指して2~取り残された歌姫~をお楽しみに!




