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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第18章 新たな大願

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07 懐かしい水の国。~ヤーゾルと聞く昔話~

 場所:ルカラの森

 語り:小鳥遊宮子

 *************



「ノーラのことは、何か知りませんか? 私の幼なじみを、どこかへ連れて行ってしまったんですけど」



 私がそう尋ねた時、地面が蠢き、土の中から大地の精霊ゾルドレさんが姿を見せた。


 足元が泥のように、地面と一体化している彼女。他の精霊のように輝いてはいないけれど、明るい薄茶の肌で、ツヤツヤの亜麻色の髪が眩しく、美しい精霊だ。


 アクレアさんやファシリアさんに比べると、かなり落ち着いていて、大人っぽく見える。



「こんにちは! ゾルドレさん」


「こんにちは、みなさん。元気そうでよかったわ」



 よく見ると彼女のとなりには、かなり小さな精霊が、土の中から、ピョコッと顔だけのぞかせていた。ゾルドレと同じ、薄茶の肌、亜麻色の髪は玉ねぎのように頭の上で尖っている。



「きゃ! 何か小さいのがいますわよ!?」


「うふふ。その子はヤーゾル。微精霊から精霊になりたてなのよ」


「こんにちは、ヤーゾル! 私、宮子だよ。よろしくね」


「ヤー! ミヤコ! よろしくヤー!」



 ヤーゾルはそう言うと、地面からピョンっと飛び出してきた。


 背丈二十センチ程の、小さな男の子のような大地の精霊だ。元気いっぱいの無邪気な笑顔がキラキラしている。



「ひゃん。可愛い!」


「お話しするお人形みたいですわね」


「お話は大好きヤー! いつもゾルドレにいっぱいお話ししてもらってるヤー!」


「うふふ。ミヤコ達はノーラのお話が聞きたいのよね。いいわ。ヤーゾルも一緒にききなさいね」


「やったぁヤー!」


「ありがとうございます!」



 ゾルドレさんは、ヤーゾルを自分のとなりに座らせると、昔を懐かしむように、少し遠い目をした。


 御伽噺を読み聞かせるように、ゆったりした口調で話しはじめた彼女。


 それは、母なる大地を思わせる、安心感のある声だった。



「あれはもう、三百年も前。このルカラの森や湖も、ベルガノンも、全てはアクレアが治める水の国だった頃のこと。私達精霊は、人間と一緒に仲良く平和に暮らしていたわ」


「人間と一緒にか? あいつらの街は、夜になっても眩しいんだヤー!」


「今は少しね。だけど、昔は、人間の街にも、夜にはきちんとした、静かで、安らぎにあふれる闇があったのよ。そのやさしい闇を司っていたのが、闇の大精霊ノーラだったわ」


「ノーラは、知ってるぞ! 魔王を倒して、あちこちに秘宝の祭壇を作った、精霊の英雄なんだ、ヤー!」


「そうよ。よく知ってるわね、ヤーゾル」


「当然なんだヤー! だけど、ヤーゾルだって、その時生まれてたら、魔王をやっつけて、英雄になったんだヤ!」


「そうね。あの頃は私達も、ノーラやアクレア、シュベール達と一緒に、魔王が送りつけてくる魔物と、何年も戦ったわ。ファシリアだって、ヤーゾルくらい小さかったけれど、一生懸命戦っていたのよ」


「すごいんだヤ!」


「わぁ、そうだったんですね!」



 ベルガノンが建国される、もっとずっと前から、この地に居たという精霊達。当時のノーラはやさしい闇の精霊で、ファシリアさんも言っていたように、この地の闇を穏やかに管理していたようだ。


 そんな立派な精霊だったはずの彼女が、どうして秘宝に呪いをかけ、達也を連れ去ったのだろうか。


 私達は、ゾルドレのやさしい声に聞き入りながら、三百年前に起こったという、魔王との戦いに思いを馳せた。



「だけど、人間達は、魔王の脅威に怯えてしまってね。水の国を捨て、方々へ逃げてしまったの」


「人間達は、すぐ死んじまうし、か弱いんだヤー!」


「そうね。だけど、とても可愛いと思わない?」


「わかんねぇんだヤ!」



 そう言って、首を傾げたヤーゾルの頭を、「そのうちわかるわ」と、ニコニコしながらなでるゾルドレさん。


 精霊達は人間を、気ままな猫を可愛がるように、ついつい愛してしまうのかもしれない。


 人間が逃げ出してしまった後、精霊達は寂しい思いを抱えながらも、人間の居なくなったその場所を懸命に守り、そして最後には、ノーラが魔王城に乗り込んだ。


 彼女の決死の覚悟が、水の国を救ったのだという。


 時は経ち、水の国に戻ってきた人間達は、待っていた精霊達を森や湖に追い払い、ベルガノンを建国した。


 人間を愛し、力を与えてくれる精霊達だけれど、精霊狩りのこともあり、人間への不満をかなり抱えているようだ。


「人間は勝手なんだヤー! 逃げ出したくせに、自分勝手に街を作って精霊を追い出したんだヤ!」


「まぁね。だけど何百年も時間が経てば、人間は入れ替わって、色々忘れてしまうからね。仕方のないことよ、ヤーゾル」


「だけど、不満だから、秘宝に悪い闇がたまるんだヤ!」


「仕方ないってわかっていても、寂しいのよね。精霊狩りみたいなのに仲間をさらわれると、やっぱり苦しくなっちゃうわ」



 人間達と共存していた昔の水の国を、今でも懐かしく思い出すというゾルドレさん。


 精霊達は大昔から、どんなに裏切られても、離れても、例え忘れられたって、人間を愛したままのようだった。



 ――やっぱり、愛する人と同じ時間を生きられないのは、切ないな。


 ――そんな精霊達を、闇に堕とす精霊狩りは、やっぱり、許せない!



 私がそう思って顔を上げると、大願を叶え隊のメンバー全員が、キリリとした顔をしていた。


 きっと皆、今思っていることは同じのはずだ。お互いの顔を見合わせ、頷き合った私達。



「ところで、今、ノーラが、どこにいるか知りませんか?」



 最後に私が質問すると、ゾルドレさんは、北を指差して言った。



「ノーラはわからないけど、ノーラの飼い猫ならさっき見かけたわ」


「え!? 彼女、猫を飼ってるんですか?」


「そうよ。人間に化ける小さい黒猫。森の奥の、小さな池の前に居たわ」



 ――えぇ!? すごいライルっぽいけど、まさかね!?



 誰からともなくまた顔を見合わせ、首を傾げた私たち。


 黒い化け猫なんて、もしかすると、沢山いるのかも知れないけれど……。



「ちょっと、その小池に、行ってみてもいいですか?」


「どうせ北に行くから、通り道だよ。行ってみよう!」



 ウンウンと首を縦に振ってくれる、叶え隊の皆さん。



「アクレア、ゾルドレ、ヤーゾル、また来るね!」


「カミル、絶対、またすぐ会いにきてね」


「またなーなんだヤ!」


「話せて楽しかったわ」


「お話、ありがとうございました!」



 精霊達の暖かい笑顔に見送られ、私達は再び、馬車に乗り込んだ。



「ますます、やる気が出てきましたわ!」


「マリルちゃんのそういう熱いところ、好きだよ。僕も燃えてきた!」


「カミル隊長のケガは、自分が治します!」


「僕、ケガするの決定!?」



 コルニスさんの操作する馬車は北へ、小池のある、ルカラの森の奥を目指した。



 土の中から現れたゾルドレに、ノーラの話を聞く宮子達。大昔から人間を愛し続けている精霊達を、人間は忘れ、迫害し、便利に使って、時には売り飛ばしているようです。


 大願を叶え隊のメンバーは、改めて精霊狩り退治の意思を固めました。


 次回、第十八章第八話 小池を目指して1~氷の檻と闇に当てられた鳥~をお楽しみに!



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― 新着の感想 ―
[良い点] まさかライラがノーラの!? でも、他に黒猫なんていなかったですよね! 点と点が結ばれる時って気持ちいいですよね! 次話に期待です!
[一言] こ!今度はヤーゾルの語尾のヤー! プクといいヤーといい……愛でたい(/// ^///) あ!花車様の俺へのジト目が気になるっ(´;ω;`) 楽しい話ありがとうございます(*´꒳`*)
[良い点] ヤーゾル可愛い(笑)何言ってもヤーしか記憶に残らない(笑)話があまり入ってこなくて全部ヤーでした。ヤーの場面でした。とても面白かったです。 [一言] ヤー
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