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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~  作者: 花車
第2章 退屈なゴイムとお疲れのターク

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09 帰ってこないターク様。~もう、歌うしかない!~

 場所:タークの屋敷(書斎)

 語り:小鳥遊(たかなし)宮子

 *************



 その翌日も、私は変わらず、ソファの上で放心したり、長い時間窓の外を眺めたりしてすごしていた。


 ターク様の言動を思い返したり、達也との思い出を振り返ったりするだけで、一日が終わってしまう。



 ――早くターク様帰ってこないかな。なんだかんだで、ターク様がいないと寂しいわ。



 部屋から出られない私にとって、話し相手はとても貴重だ。だけど、無口なアンナさんは、ほとんど話し相手にならなかった。


 ターク様もそんなにおしゃべりではないけれど、アンナさんよりはかなりマシだ。それに、彼のその見た目からくる親近感は、相当なものだった。


 別人だと思っていても、達也にそっくりなその姿に、ついついほっこりしてしまう。部屋でじっとしていると、ターク様の帰りが待ち遠しい。


 だけどその日、彼は戻らず、アンナさんから伝言だけが伝えられた。



『用があってしばらく戻れない。なにもせず待っていること』



 私はガックリと肩を落とした。



 ――ターク様、しばらくって、いつまでですか? 理由もわからないまま、なにもせず部屋にこもっているのは、そろそろ限界です……!



      △



 しばらく戻れない、と連絡してきたターク様は、本当になかなか帰ってこなかった。


 アンナさんの話では、ターク様はどうやら、急な病人が出て呼び出されているらしかった。


 依頼人は、彼が昔からお世話になっている貴族なんだそうだ。魔力を使い治療したものの、治しきれず、付き添って加護を与えている、ということだった。


 私は貴族の御令嬢に添い寝したり、やさしくキスしたりするターク様を、想像せずにはいられなかった。


 ターク様は治療のためなら、結構なんでもありの人だ。どんなに疲れていても、ほとんど治っていても、手を抜かないその姿勢には、並々ならぬ意欲を感じる。


 私みたいな初対面の奴隷相手でもそうなのだ。お世話になった相手が、こんなに何日も治らないほど、重症なんだとしたら、きっとターク様は……。


 私はおかしな妄想をかき消すように、ぶんぶんと頭を横に振った。あまりにも暇だと余計なことばかり考えてしまう。




 ――この暇をなんとか解決する抜け道はないかな?



 我慢が限界に到達しつつあった私は、アンナさんを捕まえては、手当たりしだいいろいろ頼んでみた。


 と言っても、本を読みたいとか、お裁縫がしたいとか、絵が描きたいとか、部屋のなかで大人しくできるようなものばかりだ。


 それでも、アンナさんは相変わらず、凍り付きそうに冷たい眼差しだった。



「なにもせず待っているように言われたはずですよ」



 アンナさんはターク様の命令にとても忠実だ。これ以上彼女の邪魔をするわけにもいかない。


 がっくりしながら、また窓際の椅子に戻ってきた私。



 ――ゴイムって、なんなの……。


 ――せめておしゃべりなサーラさんがいてくれたらなぁ。



 サーラさんだってアンナさんと同じメイドさんなので、あまり邪魔をしてはいけないのは同じだ。とは思うのだけれど、つい、そんなことを考えてしまう。


 だけど、彼女はここのところ、まったく姿を見せなかった。どうやらターク様を手伝うため、患者さんのお宅へ行っているらしい。


 アンナさんが持ってきてくれる食事を摂る以外、なにもすることがない。毎日ぐるぐると同じことばかり考える日々に飽き飽きして、どんどんつらくなってくる。



 ――ゴイムって、無表情な人ばかりだってターク様が言ってたけど、暇すぎて感情がなくなってしまうのかも。



 すっかり心を失って、人形のようにじっとしている自分を想像してしまい、またまた気分が落ち込む。


 だけど私は、感情がなくなる……というよりはむしろ、爆発しそうだった。



 ――こうなったらもう、これしかない!



 私はおもいっきり息を吸い込むと、大声で歌を歌いはじめた。なにもしてはいけないという言いつけを、破ってしまっているかもしれない。けれど、このまま爆発するわけにもいかない。


 膨れあがった思いが歌になってあふれ出した。



「あぁ~懐かしき ふるさとよ~♪

 あの日水辺に浮かべた

 小さな笹舟 ゆらゆらと

 どこへ流れ着いたのか♪」



 大音量の歌声に、メイドたちが驚いた顔で振りかえる。私は感極まって、涙で両頬を濡らしながら、コーラス部で練習していた歌を大口を開けて歌った。



「あぁ~懐かしき あの笑顔~♪

 あの日 きみがくれた言葉

 いまも私を 動かすよ

 消えない 熱い想い~♪」



 メイドたちは日本の歌が聴きなれないようで、ポカンとしてしまったのだろうか。止めに入られるかと思ったけれど、だれに注意されることもなく、私は一曲歌い切った。



 ――やっぱり、私には歌しかないわ!



 私はそれから、暇に任せて、疲れるまで思う存分歌を歌ってすごした。翌日には何人かのメイドさんが、私の歌を聞きに来て、歌い終わるとパチパチと拍手をしてくれた。


 それでもターク様はなかなか帰ってこず、また二日が経過しようとしていた。


 ターク様の派手なベッドで、一人で眠るのはなんだか余計に落ち着かない。


 結局眠れなかった私は、窓際の椅子に座り、また達也との思い出にふけってしまった。

 治療に出かけたターク様が帰ってこなくなり、退屈に拍車がかかった宮子は、歌を歌いはじめます。


 宮子の歌う聞きなれない日本の歌にメイドたちは興味津々のようです。ターク様の言いつけを破ってしまいましたが大丈夫でしょうか? 心配です。


 次回、宮子はまた達也との思い出を振り返ります。林間学校で行った山のなかでついに姿を消す達也。


 挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[良い点] ターク様はプロ意識高いですよね。 あまり差別意識がないのもあるでしょうが、分け隔てなく患者を抱きしめたりしてそう。 そして暇を飽かして歌うようになった宮子。 なんだかアイドル作品の始まり…
[良い点] 歌は良い発散になりますよね。 それにしても宮子ちゃん、達也くんのこと、もう少し真剣に考えてあげてもいいんじゃないかな?超優良わんこ系男子がしょんぼりしているところを想像すると、可哀そうにな…
[一言] 花車様こんにちは! ターク様不在。 そんな中、宮子は退屈を歌に込める! 退屈な中にもついに歌を。 やはりストレス発散には歌! いいですね! 今日もありがとうございました(๑•̀ㅁ•́ฅ✨
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