06 エディアって何者?~プクプク可愛いアクレアさん~
場所:ルカラの森
語り:小鳥遊宮子
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精霊狩りを捕まえるため、クラスタルの南西の村、グラスを目指すこととなった私達、大願を叶え隊。
参加しているメンバーは、私、小鳥遊宮子と、マリルさん、エロイーズさん、カミルさん、コルニスさん、ミレーヌの六人だ。
グラスには転送ゲートが無いため、私達はポルールからコルニスさんの操作する馬車に乗り込み、ルカラ湖の北にある、ルカラの森を抜けて行くことにした。
イーヴさんに事情を話し、第一砦を越えると、そこはもう、隣国クラスタルの端だ。
平和条約が締結されてから二十年の間に、ベルガノンとクラスタルの間では、人や物の移動は自由になり、国境を越えるのに手続きは必要なかった。
マリルさんが言うには、これらの手続きを不要にしたのは、他でもないノーデス王だということだった。彼は本当に、ベルガノンに友好的な王様のようだ。
――昔はどうあれ、今はこんなに仲のいいお隣の国だもの。やっぱり、そう簡単に、戦争なんて起きないわよね。
そんなことを考えながら、あっという間にルカラ平原を超え、ルカラ湖の畔を進み、ルカラの森に入った。
道中は小さな魔物が出たけれど、叶え隊の戦力は十分で、豆を生やす必要もない。
ルカラ湖のほとりを対岸まで進むと、闇に堕ちたアクレアさんの療養のため、カミルさんが建てたという、小さな小屋があった。
少しアクレアさんの様子を見ていきたい、というカミルさん。私もノーラやエディアの話を聞きたいと事情を話し、私達は小屋に立ち寄った。
「アクレア?」と、カミルさんが呼びかけると、小屋の中から「カミル! 来てくれたの!?」と、アクレアさんが飛び出してきた。
飛び出したと同時に、カミルさんに抱きついて、ムギュムギュ! と、お互いの頬を擦りつけている。
「会いたかったわ!」「あはは、僕もだよ」と、まるで恋人のように見つめ合う二人を、コルニスさんが、顔を赤くして眺めていた。
カミルさんの自由過ぎる言動にイライラしている様子はあるけれど、それでも客観的に見ると、彼女にかなり好意を持っているように見えるコルニスさん。
『もしかして、焼いているのかな?』と、思ったら、なんだか目を輝かせて、興奮に悶えているようだ。
――わかります! 二人とも、美しいですよね! 私も萌えます!
妙な共感が、私の中に降りてくる。美しいものを愛でる気持ちは、愛や恋ばかりではないのだ。
青く清らかな光を放つアクレアさんは、晴れた日の空のように美しい水色の、豊かな髪をゆるっとした三つ編みにしている。
水の精霊だけあって、お肌のみずみずしさは群を抜いていた。
「なかなか来てくれないんだもの、寂しかったわ! プク!」と、頬を膨らませて不満を言う姿は、少しあどけなさの残る少女のようだ。
「ごめんごめん。色々忙しくてね」
「今日はこんな、大人数でどうしたの?」
「顔を見に寄ったんだけど、ちょっと聞きたいこともあって」
「闇の大精霊ノーラと、白の大精霊エディアのことで、知ってることがあったら教えてもらえませんか?」
私が質問すると、アクレアさんはまた、不満そうな顔をした。毎度頬をプクッと膨らませるのが本当にキュートだ。
「エディアね。彼女の投げ出した力にはほんと、悩まされたわ! ちょっと不満を感じただけでも、洪水が起こるくらい水が溢れちゃうのよ。プク!」
「え、アクレアさんも、エディアの力を受け取ってたんですか?」
「そうよ。ゾルドレとシュベールと、ファシリアもね。急に現れて、愛してるわ~なんて言って、力を押し付けられたのよ? まいっちゃうわよね! プク!」
また頬を膨らませ、ぷりぷり怒っているアクレアさん。エディアから受け取った力は、大精霊の力に匹敵するもので、彼女達には、やっぱり荷が重いらしい。
彼女がゼーニジリアスに力を投げ出してしまったのも、それが原因だったようだ。
ということは今、ターク様やゼーニジリアス、ネドゥが持っている力は、大精霊並みの力だという事になる。
――精霊ですら投げ出してしまう程の力を、ターク様はその身に宿しているんですね。
――こんなんじゃ、快適に暮らせるはずもないですよね。
ターク様の不運を想うと、あの癒しの加護を呪いだと言ったシュベールさんの言葉も、すっと腑に落ちてしまう。
彼が長年、あの力を大切にしていたのは分かっているけれど、それでもやっぱり、力を手放すと心を決めてもらった事は、間違っていなかったという気がしてきた。
「それで、エディアの居場所は知りませんか? モルン山のカーラムさんが探してるみたいなんですけど」
「今の居場所は知らないわね。ニジルは子供の頃、クラスタル城で会ったことがあるみたいだったわ」
「わぁ、それじゃぁ本当に、彼女はクラスタルの先王と精霊の契約を交わしていたんですね」
「さぁ。ニジルが王子だったなんて、知らなかったわ! 精霊はそんな事、興味ないもの! プク!」
また不満そうに、頬を膨らませたアクレアさん。
――あぁ! 一度でいいから、このプクッとしたみずみずしい頬を突いてみたい!
「ありがとうございます。ノーラのことは、何か知りませんか? 私の幼なじみを、どこかへ連れて行ってしまったんですけど」
私がそう尋ねた時、足元の地面がウネウネと蠢き、土の中から大地の精霊ゾルドレさんが姿を見せた。
グラスを目指し出発した宮子達は、アクレアの小屋に立ち寄り彼女の話を聞きます。精霊の力を投げ出してしまった精霊たちは皆、エディアの力を受け取っていたのでした。
次回、第十八章第七話 懐かしい水の国。~ヤーゾルと聞く昔話~をお楽しみに!




